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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

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第四幕 第四場 : 足跡


萩原は、教授室に居た。
と言っても、自分のではない。
非常勤講師である自分に、専用の部屋は無い。

そこは、萩原がこの大学内で唯一と言ってもいい、親しくしている教授の部屋だった。

「悪かったね。急に呼び止めたりして」
言いながら、教授は萩原が座る前のテーブルに、コーヒーを差し出すと、自分も目の前に座った。
萩原は会釈をすると、カップを手にした。

「いえ。ちょうど講義も終わったところですし。今日はもう、帰るだけですから」
そう言って、萩原は、コーヒーに口を付けた。

講義の後、そのまま教室で、学生に、シェイクスピアの戯曲の原文の読み方を教えていた。
質問をしてきた学生だけでなく、何人もの学生達が周囲を囲み、熱心に聞き入る様子に、つい、1時間も解説をしてしまった。

・・これをきっかけに、彼らが原文に触れてくれればいい。
自分が撒いた種が育つ可能性を見て、萩原は、自分がここで過ごした証が残るのだと、そんなことを、思った。

「・・君が、後期の講義の継続を断わったと聞いた」
教授の言葉に、萩原は顔を上げた。

「それは、大学を辞める・・ということだろう?」
「ええ」
萩原は、うなずいた。

「その後は、どうするつもりなんだね?」
教授の質問に、萩原は一瞬、間を置くと、答えた。

「・・留学をしようと思っています」
「日本を離れて、ということか」
「はい」

教授は自分もコーヒーを飲み、そして、うなずいて見せる。
そんな様子を見ながら、萩原は続けた。

「ヨーロッパに、興味のある大学がいくつかあります。9月から、いずれかに、籍を置こうと思っています。まだ、どこにするかは確定しておりませんが・・。学生時代に短期の留学をしたことはありますが、日本での単位が気になって、結局戻ってきてしまった。・・今度は、じっくりと時間をかけて、自分が学びたいことを、存分に勉強するつもりです」

「・・そして、そのまま、君は向こうで過ごすつもりなのかな・・」
「そうですね。あるいは・・・」

そこまで言うと、互いに沈黙した。
黙って、コーヒーを飲む二人・・。

口を開いたのは、教授の方だった。
「・・その方が、いいのかもしれない。この国のような偏見に縛られず、君の実力を見てくれる世界で、君は、君の力を発揮した方がいい。・・本来なら、君は、こんな小さな大学で教えてるような男じゃない・・」
「教授・・」

「君を教授に推すことさえ出来ない・・私の力が及ばなくて、本当にすまない」
これまでにも、何度も聞いたセリフを口にする相手に、萩原は微笑んだ。

「そんなことを、おっしゃらないで下さい。教授には、本当にお世話になりました。感謝こそすれ、謝っていただくようなことは、何一つありません」

「私は・・君の両親に対して、何も力になることが出来なかった・・」
教授の言葉に、萩原の眉が、ピクッと動く。

「せめて・・君は、君にだけは何か出来ないかと思ったが・・結局この有様だ。君にはここでの日々は、さぞ退屈だったことだろう。外に出てみたくなる気持ちは、分かる」

「そんなことを、思っているわけではありません」
萩原は、教授に、ゆっくりと、訴えるように話す。

「私は、この4年間、ここで教えることが出来て、充分満足しています。学生達とのやりとりは、日々、新鮮さに満ちていました」

「・・それに、たくさんの学生達が、私の講義をきっかけに、英文学に興味を持ってくれた。本場の舞台を見に、イギリスを訪れた学生も居ます。チョーサーやシェイクスピア、ディケンズにロレンスまで、原文で読破したと、卒業してから手紙をくれた学生も居ます・・その他の学生達の胸にも、きっと、何かは残るでしょう・・・・全ては、教授のお陰です」

萩原のその言葉は、本心だった。

「・・もし、またどこかで教壇に立つようなことがあったら、その時は、私でよければ、いつでも推薦状を書くよ」
教授はそう言った。

「ありがとうございます」
萩原は、笑顔を見せて言った。

それはとても静かな、笑みだった。





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