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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene2:喪失


青木は、病院の待合室に居た。

「第九に戻って、指示を待て」
そう薪に言われたが、とても、そんな気にはなれなかった。

病室で、薪は青木の言葉を聞いた時、ことの次第が呑み込めない様子だった。

「・・どういうことだ?」
薪は、青木をじっと見返し、そう言った。

「今、説明しますから。座って下さい」
青木に促され、薪は再びベッドに腰掛けると、青木を見上げた。

青木も、そばの椅子に座り、薪に向かって、話し始めた。
薪の様子に、一瞬、気が動転してしまったが、自分がそんな様子を見せては、薪は余計に不安になるだろう。

落ち着け・・。
青木は、自分に、そう言い聞かせていた。

「薪さんは、出張の帰りに、事故に会ったんです」
「事故・・」
薪は、青木の言葉を繰り返す。

「車には、細工がされていました。先日、第九が容疑者を確定して逮捕された犯人の、仲間による反抗です。・・運転していた曽我さんは、腕を骨折しましたが、命に別状はありません。安心して下さい」
「・・・・・」
薪は、青木の話を聞きながら、額に手を当てていた。

「薪さんは、額と腕に軽傷、それに打撲。外傷はそれだけで済みました。後から、頚椎捻挫の症状が出るかもしれないということでしたが。・・それに、頭部を打ち付けているので、念の為、検査が必要だそうです」

「そうじゃない」
「え?」
「聞きたいのは、そんなことじゃない。先程君が言ったこと・・それが、一体どういうことなのかと聞いている」

薪は、目を上げた。
「今は、2060年の1月。そうじゃないのか?」

「・・・・・・」
青木は、とっさに言葉が出なかった。
やはり、薪は・・・

「ちょっと、待っていて下さい」
青木はそう言うと、一度病室を出て、そしてすぐに、戻ってきた。
手には、待合室から借りてきた、新聞をいくつも抱えている。

薪は、青木の手から奪うようにそれを受け取ると、すぐさま日付を確かめた。

「2066年・・3月15日・・・・・」
薪の目は、驚愕に見開いていた。

全ての新聞を、次々と確かめる。
全て、同じ日付だ。
新聞を開き、中の記事も、まるで目を泳がせるように、素早く確かめていった。

そんな薪を、青木は、黙って見下ろしていた。

「・・・・・・」
薪の動きが、止まった。
ベッドに腰掛け、両手を額に当てる。
その目は、じっと、床の一点を見つめていた。

「薪さん・・・」
青木が、そっと声を掛ける。

「大丈夫ですよ、薪さん。きっと、事故のショックで、混乱しているだけです。薪さんの目が覚めたら知らせるようにと、看護師さんに言われてるので、今、呼んできます。先生に診てもらいましょう」
青木は、薪の肩に、手を伸ばした。

「大丈夫ですよ、落ち着いたら、きっと・・」
「岡部を呼べ」
伸ばした青木の手が、薪の肩に届く前に、薪が言い、青木の手が、止まった。

薪は、青木を見上げると、もう一度、言った。
「岡部を呼べ!ここに・・今、すぐにだ・・!」

薪が事故に合ったことで、関係各所への説明に奔走していた筈の岡部だが、青木の連絡を受けると、すぐにやって来た。

青木は、薪の言葉に、病室を出て、廊下から外階段へ出たところで、ケータイで岡部に連絡を取ったのだった。

「薪さんが・・岡部さんを、呼んでます」
そう言いながら、『岡部を呼べ!』と叫んだ時の、薪の顔が浮かんだ。
その瞳は、戸惑いの色を見せ、今にも涙がこぼれ落ちそうに、潤んでいた。

だが・・その瞳が欲していたのは、自分ではなかった・・・・

薪が記憶を喪失したらしいとの、青木の言葉に、電話の向こうで、岡部は一瞬無言になった。
岡部も衝撃を受けた筈だ。
だが、その後も、岡部の声は、冷静だった。

岡部が、田城を伴ってやって来たことに、青木は小さなショックを受けた。

『きっと、事故のショックで、混乱しているだけです』
『大丈夫ですよ、落ち着いたら、きっと』
薪をなだめる為に、そう言っていたつもりの青木だったが、実は、自分に言い聞かせていたのだと、その時になって、気が付いた。

大したことは無い。
すぐに、薪さんは元に戻る。
そう、自分が思いたかったのだ。

岡部はその点、冷静だった。
ことは重大であると察し、これからのことも考え、自分一人で対応することではないと、田城も連れてやって来たのだ。

「岡部・・」
薪が、岡部の姿を見ると、それまでの緊張した面持ちを崩し、安堵の色を見せたことに、青木は気が付いていた。

医師も病室に姿を見せ、薪は、診察を受けることになった。

「いくつか、検査もするらしい。時間がかかるだろうから、お前は第九に戻ってろ」
岡部に、そう言われた。

「でも・・」
青木が追いすがる様子に、薪も振り返り、言った。

「青木と言ったな。君は、第九に戻って、指示を待て」

「!・・・・」
無言になる青木に、岡部は、青木の背中をポンと叩き、言った。
「ご苦労だったな」

岡部は、複雑な表情を滲ませながら、いたわるように、青木に、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
そんな、岡部の心遣いを感じながらも、青木は、心の中の動揺を、止めることが出来なかった。

「・・すぐに今後のことについて、皆に、はからなきゃならないね」
「そうですね」

そんな会話が青木の耳に聞こえてきたのは、それから、2時間程が過ぎた頃だった。
病院の待合室に、田城と岡部が近付いてきた。

青木と目が合い、岡部は、驚いた様子を見せた。
「何だお前。まだこんなところに居たのか」

「じゃあ、私は先に戻るからね」
田城は、待合室を抜けて、病院の外に出て行く。
その背中に挨拶をして見送る岡部の様子にすら待ちきれず、青木は、岡部に詰め寄った。

「薪さんは・・どんな様子なんですか!?」
「・・・・・・」
岡部は一度黙り込み、そして、言った。

「外に出よう」

病院の外に出、出入り口から少し離れたところで、岡部は話し始めた。

「結論から言おう。薪さんは・・・この6年間の、記憶を失っている」

岡部の言葉に、青木は、ぐっとノドを鳴らした。
・・だが、黙って岡部を見つめたまま、続きを待った。

「これからまだ、いくつも検査を受けることになるが、今のところ、脳に損傷は見られない。・・つまり、怪我による障害ではないということだ」
岡部は、静かに話し続ける。

「あの事故で、薪さんが軽傷で済み、脳に損傷が無かったことは、幸いだ。だが・・それはつまり、記憶を失ったことに対する、明確な治療法が無いということでもある」
「そんな・・!」
青木の顔が、ゆがむ・・。

「オレには、よく分からんが・・」
岡部は、ふっ・・と、ため息を付いた。

「医師の話だと、今回は、頭部を強打していることから、外因性と考えられるが、しかし、損傷が見られないことから、心因性の可能性もあるということだ。それじゃなくても、記憶を失うということは、様々な要因が重なり合っていることが多く、原因を特定することも、治療することも、その方法は、困難なものだそうだ」

青木は、黙って耳を傾けながら、動揺する自分を抑え、岡部の言うことを、必死に理解しようとしていた。

「自然に記憶が回復すれば、それが一番いいが、回復しないこともある。その場合、治療法としては、催眠療法や、薬物を使っての面接等があるそうだ・・・だが、薪さんは、それを拒否した」
「何故・・」
青木が思わずつぶやき、岡部は答えた。

「薪さんは、治療の過程で、秘密を漏らしてしまう恐れがあるからと」

「そんな・・!」
青木は、声を絞り出した。

「もちろん、医師や療法士だって、守秘義務を心得たプロだ。薪さんがもし、何か余計なことを口にしたとしても、それを外部に漏らすことは無いだろう。だが・・薪さんは、万が一にも、自分の抱える数々の秘密を、漏らしてしまうことを、恐れているんだ」

「・・・・・・」
青木は、言葉が出なかった。

「田城さんも、それも止む無しと考えたようだ。いずれにせよ、治療を行なうには、本人の意思が最優先だ。6年間の空白を抱えたままで、今後どうするか・・これから検討することになるが」

岡部の言葉に、青木は何も言えなかった。
自分は、薪が抱えている物の重さを、改めて噛み締めることしか、出来ない・・。

「・・薪さんは?」
「今は、病室に居る・・って、おいっ!」
青木が病院の中に戻ろうとする様子に、岡部は声を上げた。

「今は、安定剤を処方されて、眠っている筈だ。薪さんが一番、大変なんだ。そっとしておけ!」
「・・寝顔を見てくるだけです」
青木はそう言い、中に入っていった。

薪の病室に向かうと、病院のスタッフが、病室を出るところだった。
青木の姿に気付き、スタッフは言った。
「ちょっと待って。患者さんは、今眠っています。安静が必要ですから。中には入らないで下さい」

青木は、半開きのドアに手を掛ける。
「ちょっと・・!」
そう言うスタッフの制止も聞かず、青木は、中を覗き込んだ。

薪は、眠っていた。

「薪さん・・・」
青木は、つぶやいた。

「困りますよ。出て下さい」
スタッフが、青木を病室の外に押し戻し、ドアを閉めた。

青木は、廊下を歩いて行った。

薪は、穏やかに眠っているように見えた。
その姿を思い、ホッとする一方で、青木の胸には、強い風が吹き荒れていた。

その風を、一体何と形容したらいいのか。
青木には、まだ分からなかった。





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