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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene2:個室


この日は、さほど遅くなることもなく、皆の仕事に区切りが付いた。
片付けをしながら、青木は、チラチラと時計を見やる。

その様子を見て、宇野が言う。
「何だ? 何か用事があるなら、後はやるから、もういいぞ」
先輩の気遣いに、青木は頭を下げて礼を言い、コートを手に、その場を立ち去ろうとする。

「青木、珍しく随分急いでるじゃないか。余程、大事、な用事か?」
小池に含みのある言い方をされ、青木は振り返りながら言う。
「そんなんじゃありませんよ!」

冷やかすような視線を浴びながら、
「お先に失礼します」
青木は言い、頭を下げて、足早に出て行った。

その様子を、奥から、見るともなしに見ていた岡部は、
「岡部」
背後から声を掛けられ、振り返った。

室長室に居た筈の薪が、音も無く、そこに立っていた。

「岡部、さっき受け取ったこれだが・・」
薪は、手にした書類を岡部に見せる。
岡部は、薪の白く細い指が辿る、その文章に目を留めながら、一体、いつから薪はここに居たのだろうと、そんなことを、思った・・。

青木は、早足で歩いていた。
約束の時間を、既にやや過ぎてしまっている。
歩きながら、青木は、ケータイを取り出した。

「舟木さん・・ですか? 第九の青木です。すみません、遅くなってしまって。今、向かってますから」
緊急の捜査が入って、来られないこともあるだろうから、その時は連絡をくれと、舟木から、ケータイ番号を告げられていた。

「分かりました。お待ちしております」
電話の相手は、静かな声で、そう言った。

薪には、学生時代の友人と飲むと、昼休みのうちに話しておいた。
室長室で、デスクに向かい、端末から目も離さずに、薪は一言「そうか」と答えた。

話をするなら、庁舎から少し離れたところの方がいいだろうと、その食事どころを指定したのは、舟木だ。
「あ・・」店の名を聞いて、一瞬戸惑う青木の様子に、
「ご存知ありませんか?」そう尋ねた舟木。
「いえ、分かります」青木は答えた。

目指す店に着き、青木は、その時代劇に出て来る小料理屋のような、灯篭に挟まれた木の引き戸を開け、入り口の屋根にぶつからぬよう、頭を下げてそこをくぐった。

「舟木という名で、予約されてると思うんですが」
青木の言葉に、出迎えた着物姿の女性が、青木を奥へと案内する。

小さな庭園を通り過ぎ、細い通路を進む。
通されたそこは、偶然にも、青木が一度訪れたことのある部屋だった。

「お連れ様が、お着きになりました」
店の者が声を掛け、入り口を開けると、座っていた舟木が、振り返った。

青木が会釈をしながら、座敷に上がると、舟木は掘りごたつから足を抜き、すっ・・と体の向きを変え、正座をして片手を伸ばし、青木を奥の席へと促した。

「いえ。オレは、こちらに座りますから」
青木は、入り口に近い席に座り、逆に舟木を奥へと促した。
始終薪と行動を共にしているせいか、青木は、上座へ落ち着くことに、慣れていない。
それに相手は、年上と思われる、女性だ。

舟木は、少し困った顔をしたが、それ以上、そのことで気を患うのを諦めたのか、奥の席へと座った。
「すみませんでした。遅くなって」
「いえ。こちらこそすみません。お忙しくてらっしゃるのに、お時間を割いていただきまして」

店の者が一度下がったところで、舟木が言う。
「夕食は、まだ召し上がっていないでしょう? せっかくですから、お飲みになりますか?」
「いえ・・結構です」
「そうですか。では、まず食事をしましょう。人間、お腹がすくと、冷静に話も出来なくなりますし」
舟木は言い、青木に、二つあるお品書きの一つを差し出した。

青木は、それを受け取りながら、思う。
とにかく、話とは何なのか、それが気になって仕方が無いが、彼女の言うことも、一理ある。
それに、言われてみれば、確かに腹が減っていた。

「じゃあ、牛丼を」
お品書きを開きもせずに、青木が言う。
舟木は、やや目を細め、それから自分でお品書きを開いた。

「失礼致します」
顔を出した店の女性に、舟木は、牛丼を二つ注文した。

「ここには、よくいらっしゃるんですか?」
食事が運ばれるまでの間に、舟木が尋ねた。
「よく、と言う程では。去年の冬、一度だけ・・」
答えながら、青木はその日に、思いを馳せる。

冬のその日、青木は、薪と共に、この部屋で、季節の品であるアンコウ鍋を食したのだ。
最後に、鍋の残りで雑炊が作られ、残らず食べたにも関わらず、青木は更にご飯物を食べたいと、牛丼を注文した。

「よく食えるな」
そう言う薪の目の前で、青木は、それを綺麗に平らげた。

「あー・・美味かった!」
思わずそう口に出て、次の瞬間、薪が呆れて見ているだろうと、そっと薪に目をやると・・薪は、静かに微笑んでいた。

その顔を見た途端、青木は、今食べた物が、ぐっ・・と、胸に詰まるような感覚を覚え。
「げほっ・・ごほっ」
思わず咳き込んだ。

「すみませ・・げほっ」
お茶を飲んでひと息付き、詰まった物は流れた筈なのに、胸の苦しさは何故か消えず。

くいっとお茶を飲む薪の姿を見つめ、青木は、言った。
「あ・・あの、薪さん! 来年も、ここに、この鍋を食べに来ましょう。・・冬になったら」

青木の言葉に、目を上げた薪に。
「また来ましょう。その・・二人で」
畳み掛けるように、青木は言う。

薪は、何も返事をせず・・ただ、青木を見つめていた。

また二人で来ようと、そう薪に告げたのに。
薪と違う人間と、先にこの店に来てしまったことに、青木は、申し訳なさを覚えた。

牛丼が運ばれてきた。
丼物には必ず付くらしい、汁物に漬物、小鉢も並べられる。

全てが並び、店の者が下がったところで。
「いただきます」
全く同時に、青木と舟木の声が響いた。
二人とも、膳に向かって手を合わせ。

そのタイミングのあまりの良さに、思わず二人は、同時に目を上げる。
そして、それぞれに箸を取った。

まず左手に箸を持ち、それから右手に持ち替え、汁椀を抱える。
一連の舟木の動作に、青木は、目を奪われた。
その仕草が、薪に、よく似ていたからだ。

薪の箸遣いは、いつも見事なものだった。
青木も、しつけは厳しくされた方だが、薪の食事の仕草の美しさには、とても叶わない。

今、目の前に居る女性も、白い手、細い指で、箸を綺麗に操っていた。
「?・・」
動きの止まった青木を見て、舟木が、不思議そうな顔をする。

「あ・・」
我に返り、青木も食べ始めた。
食べながらも、舟木の姿が目に入る。

その仕草からは意外な程に、舟木は、よく食べる女だった。
綺麗な箸遣いで、どんどん、食べ物を口に入れていく。
そんなところも・・薪に似ている。

同じ店の、同じ部屋。
薪が座っていたのと、同じ場所に座っているからだろうか。
目の前に居る女性に、薪と重なる部分が見えた。

「あー・・美味しかった!」
全ての皿を綺麗に平らげ、屈託無くそう言う舟木。

「これ・・常陸牛っていうブランド牛を使ってるらしいですよ。なのに、安いし」
言った後で、青木は、高級官僚の娘が、果たしてそんな値段など気にするだろうかと、一瞬、気恥ずかしさがよぎった。

けれど舟木は、うなずきながら言う。
「切り落としを使うことで、良い素材を、安く提供しているんですね。民間の企業努力から、学ぶべきことは多いと、いつも思います」

思いもかけない言葉が返り、青木は、舟木の顔を見つめた。
同時に、昼間の今井の言葉が、脳裏によみがえる。

「彼女、入庁したのはお前と同じ位だ。だが、年は2~3歳上かもしれないな。確か、大学院を出ている筈だから」
今井が、舟木の経歴に詳しい様子に、青木が不思議そうに目を上げると、今井は言った。
「彼女みたいな女性の噂は、自然と広まるからな」

「彼女みたいって・・それは、警視監の身内だからということですか?」
青木の問いかけに、今井は、フッ・・と、笑う。
「お前、彼女の姿を見たんだろう?」
「? ええ・・」

「四六時中、薪さんと共に過ごすというのも、考えものだな、青木」
「??」
今井の言葉の意味が、青木にはよく分からない。

「薪さんに見慣れると、感覚が鈍るのも分かるけどな。それじゃなくても、男ばかりのこの職場で、出会いは貴重だ。なのにそんなことじゃ、益々婚期が遅れちまうぞ。女を見る目を養え」
そう言って、今井は肩をすくめた。
傍らに居た岡部は、無言でドリンクを飲み干していた。

その時は、今井の話が、よく飲み込めなかったが。
舟木を今、目の前にして、青木は、何となくその意味が、分かったような気がした。

透き通るような、けれど決して青白いわけではない、明るさを帯びた、白い肌。
くっきりと弧を描く黒い眉。
黒い瞳が生き生きと動く、大きくて、やや吊り上がった目。
通った鼻筋に、ふくよかな唇。

つまり、彼女は俗に言う「美人」という部類に入るのだろう。
・・もちろん、薪とは、比べ物にならないと思うが。

「青木さん」
空いた食器が下げられ、膳に残った湯飲み茶碗を前に、舟木は、話を切り出した。





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