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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene3:夜道


「私は、総務部総務課人事係で、係長を務めております」
舟木は、青木に名刺を差し出すと、改めて頭を下げた。
青木はそれを受け取り、その役職を確かめると、舟木の顔を見上げる。

舟木は言う。
「今、来期の異動にあたり、人事評価をまとめているところです。第九の皆さんの評価は、薪室長が担っていることは、ご存知ですね?」

青木はうなずいた。
それは、普段話題にされることではないが、直属の上司が、部下の仕事ぶりを、一定の基準の元に総務に報告していることは、暗黙の了解となっていた。

「そして、薪室長自身を、評価している人間も居ます」
舟木の言葉に、青木は身を乗り出した。
話というのは、やはり、薪の人事に関わることなのだろうか。

薪を評価する人間も居る、それは当然のことだろう。
だが、薪の場合は、それは誰になるのだろう?
田城所長あたりだろうか・・。

「もちろん、その評価が、その人の人事全てを決定付けるわけではありません。特に薪室長の場合、第九による事件解決の実績が、公な形で周知されますから。個人による人事評価などは、その補足に過ぎません」

舟木の言うことは、青木にも分かる。
人事の仕事の経験は無いが、多少は想像出来る部分もある。

昇級や昇格は、大きな問題が無ければ、経験年数に応じて、自動的に上がっていく部分もある。
異動に関しては、当人の希望や適正、上司の意向、他の人員の異動との兼ね合いなど、様々な事柄が関わってくる筈だ。
事実、自分は自ら第九に配属を希望して、それが叶ったのだ。

そして、第九のように、警察機関でも、一度定着した人員は極力異動が控えられるといった、特殊な例もある。

舟木は目を上げ、青木の顔を見ながら、話を続ける。
「私どもは、常に適切な人事が行なわれるべく、煩雑な情報をまとめ、提案をしておりますが、私どもに、異動や昇格の決定権があるわけでもありません」

青木は、岡部の言葉を思い出した。
じっと視線を落とし、考え込む様子の青木に、岡部は、椅子から立ち上がりながら、言ってきたのだ。

「人事係というと、構える人間も多いが、何もあそこに決定権があるわけじゃない。上がってきた情報をまとめて、適切に処理しているだけだ」
「でも、人事係が提案した物は、ほぼ決定事項じゃないですか? 所属長は、何も問題が無ければ、判を押すだけでしょうから」
「・・まあ、問題が無ければな」

岡部と今井は、そんな話をして、その場から離れていった。
そして青木も立ち上がり、仕事に戻っていった。
岡部が何故、そんな話をしたのか・・どこまで察しているのか、青木には量れなかったが。

「・・ですから、構えずに聞いていただきたいんです」
そこまで話すと、舟木は息を吸い、青木の目を見つめ、言った。

「青木さんには、率直にお話申し上げます。薪さんの私生活について、その人となりについて、青木さんの口から、お聞かせ願えませんでしょうか?」

「・・・・・え?」
青木は最初、舟木の言っている意味が、とっさに理解出来なかった。
数瞬の後、その意味を悟ると、驚きに目を見開き、言葉を失った。

「・・・・!! あ・・え・・」
「驚かれるのは当然です。本来なら、こういったことを調査するのは別の機関の役目ですし。私どもが自ら調査することも、また、こうして、当人の身近な人間に直接お話をお伺いすることも、通常なら、有り得ませんから」

「薪室長のことを・・」
舟木は、静かに話し始める。

「薪室長を、このまま、第九の室長に据え置くのはどうかという話は、以前から出ていました。その中には、室長のままでは役不足だ、そろそろ、もっと上のポストに就かせるべきだという意見もありました。けれど、結局その都度、現状では、薪さん以上に第九室長にふさわしい人間は居ないだろうという結論に至り、話は流れていきました」

「一方で、薪さんに第九を任せておいていいものかと、その能力を疑問視する声が上がっていたのも、事実です。薪さんは幾度か・・大きな事件に見舞われてらっしゃいますし」
「・・・・・・」

青木は、じっと黙って聞いていた。
昨年、薪が誘拐・拘束され、銃を奪われた事件では、噂に上っていた薪の昇格話が、立ち消えになった。
そして何より、あの、貝沼事件・・・・・。

「そして今回も、一部から、薪さんに対して、否定的な意見が入ってきました。その仕事ぶりに対しては、公にされている実績、また報告が上がっている人事評価から、察することが出来ます。けれど、その否定的な声を上げる人間は、薪さんの仕事に対する能力ではなく、もっと突っ込んだ、人となりに対しての調査報告を要請してきました」

否定的な声・・それは一体、どこから出ているのだろう。
薪の立場を思い、青木は、胸に痛みを覚えた。

「それでなくても、薪さんに対しては、独善的だと揶揄する声もあるそうです。調査によっては、薪さんに不利な結果が出るかもしれない。私はそれを避けたいんです。ですから、私自身が、調査の役目を買って出ました」
そこまで話すと、舟木は、青木を見上げた。

「そこで、青木さん。私は、調査の情報元には、あなたがふさわしいと判断しました。あなたは、2年前から、薪さんと居住地を同じくしてらっしゃいますね」
「え・・」

青木は、内心、ビクッとした。
舟木は、大きな瞳で、じっと青木を見つめている。

舟木の美貌は、表情によっては、相手にキツイ印象を与える。
後ろめたいことがある青木にとって、それはまるで、追い詰められるようだった。
人事係長であり、しかも父親は警察庁の官僚である舟木に、もし、二人の関係を知られてしまったら・・・

「薪さんが、アメリカから帰国してからの2年間、一番、公私共に薪さんのことを見ているのは、青木さん、あなただと思ったんです。薪さんの部下として、同居人として、生活を続けていることからも、薪さんとの師弟関係は良好であり、そのキャリアを妬んだり、過去の事件から歪んだ目で薪さんを見ず、冷静な目で、薪さんの人となりを判断し、語って下さるのではないかと、そう、私は思ったんです」

青木の内心の焦りに反し、舟木の口調は、好意的なものだった。

「あの・・・」
青木は、舟木に向かって話す。

「確かに、オレは、薪さんを妬んだりしてませんし、あえてマイナス面を強調した意見は言わないと思います。でも、逆に、オレは薪さんを尊敬してますから、そういう点で、薪さんに不利な意見は言えないっていうか・・少なくとも、公平な意見にはならないと思うんですが。しかも、その目的を全て明かされてしまったら、余計に。そんなことで、調査になるんですか・・?」

青木の言葉に、舟木は、かすかに微笑むような顔になり。
「青木さんの疑問は、ごもっともです。実は、薪さんに否定的な声を上げ、その調査報告を求めているのは、本当に、ごく一部の人間なんです。でも、報告を求めているその声を、無視するわけにもいかない、相手は、それだけの立場の人間なので・・」

「そして、調査結果に薪さんに不利な事柄があれば、それを改ざんし、もみ消すわけにもいかない・・ですから、調査をした、という事実が必要であり、私は、その裏づけが欲しいんです」
「・・・・・・・」

青木は、舟木の顔を見ながら、思う。
つまりは、一種のおざなり調査ということか。

青木の様子に、舟木は言う。
「・・実際には、薪さんを第九から動かすわけには行かないと、多くの人が思っています。第九が、難事件を解決し、犯罪を抑制し、人々の安全を守るという目的で作られたものであるならば、そこに投入されている国家予算、人々の税金を、一番有効に使えるのは、薪さんではないかと、そう、私自身も思っています」

話が税金にまで及んだことに、青木は目を瞬かせる。
先程の企業努力の話といい、自分もよく、話が意外な方向に飛ぶと言われるが、舟木もそういう傾向があるようだ。

舟木は、青木を見て、クスッと笑った。
「私、大学では、経済学と経営学を専攻していたものですから。つい、そういった発想になってしまうんですね」
「ああ・・どうりで」
青木はうなずいた。

「・・ですから、要は、薪さんの能力を疑問視するその声を、抑止出来ればいいんです。その材料を青木さんに求めるなんて、筋違いなお願いをしているのは、分かっているのですが・・」

舟木の言葉に、青木は、一つの疑問が浮かぶ。
「事情は分かりました。ただ・・舟木さん、何故、そこまで・・?」
「え?」

舟木は目を見張り、それから、言った。
「申し上げましたでしょう? 第九の室長には、薪さんが一番ふさわしいと思うからです」
「それにしたって・・・」

人事係長という立場で、薪の身辺調査を買って出、わざわざ自分に全てを打ち明けた舟木。
何故ここまで、自分の立場を危うくするようなリスクを犯すのだろう・・・。

先程の舟木の言葉が、青木の脳裏によみがえる。
『調査によっては、薪さんに不利な結果が出るかもしれない。私はそれを避けたいんです』

青木は、ハッとして目を上げる。
舟木がここまでするのは、それは・・・

「舟木さん、もしかして、薪さんのことを・・」

青木の言葉に、舟木は一瞬、動きが止まり。
・・それから、一度落とした視線を徐々に上げ、青木を見上げ、何も言わずに、微笑んだ。

「・・・・・・」
青木は、それ以上、何も言えなかった。

自分にとって、薪は自分の恋人であり、薪が女性から想われているなどと、普段はほとんど意識しないが。
薪だって、一人の男性だ。
薪の魅力に惹き付けられ、心を寄せる女性だって、大勢居るだろう。

そう思った瞬間、青木は、以前、薪が記憶を失った時に経験した、どす黒い感情が、胸に込み上げるのを感じた。

人事係長の立場でありながら、リスクを犯し、薪を守ろうとする。
それ程までに、薪を想う女性が、今、目の前に居る。
その真摯な心を、美貌の女性という器の中に納めて。

しかも舟木は、外見が美しいというだけでなく、キャリアも申し分の無い、頭のいい女性だ。
それに加えて、父親は警察官僚。

ぐるぐると、青木の胸に、渦巻く波が生まれる。
もし薪が、彼女のこの気持ちを知ったら、どう思うだろう。
薪にとって、自分と共に歩むより、遥かに明るい未来が描ける、そんな女性の存在に・・・・

「青木さんにしてみれば、苦しい部分もありますよね」
舟木に言われ、青木はハッとした。
「えっ?・・」

「どういう目的であれ、薪さんに内緒で、薪さんの私生活を報告するようなことは、青木さんにとって、心苦しいことであると、お察しします」
「あ・・」
そういうことかと、青木は思い、息を付く。

「安易にお話しいただいて、後で青木さんが後悔するようなことになってしまっても、私も申し訳ないですので。今日はひとまず、こちらの事情をご了解いただきたいと思います。お考えになってみて下さい」
「・・分かりました」

青木と舟木は、個室を後にした。
「こちらは私が。どうぞお先にお帰り下さい」
舟木に、お勘定場でそう言われ、青木は一人、店を出た。

冬の夜の空気が、冷たく青木の頬を刺す。

歩き始めようとして、青木はふと、物思いにふけっていたせいで、舟木に何の挨拶もしていなかったことに、気付いた。
呼び出されたとは言え、ご馳走になっておきながら、何も言わずに帰るのは、非礼に過ぎる気がした。

やがて、木の引き戸が開けられ、店の女性と舟木が出てきた。
「ありがとうございました」と頭を下げる女性に、舟木がうなずき、歩きかけ・・傍らに立つ、大男に目をやった。

「・・青木さん?」
「舟木さん」
話し始めた二人を見て、店の者は、中へと姿を消す。

「どうなさったんですか? 忘れ物か何か・・」
「いえ。あの・・今日はどうも、ご馳走様でした」
そう言って、頭を下げる青木を、舟木は、ぽかんとした表情で見つめた。

そして舟木も。
「こちらこそ。どうもありがとうございました」
そう言って、頭を下げた。

二人とも頭を上げ、互いの姿を見る。

青木の視点から、薪と同じ位のところに、舟木の頭が見える。
舟木はハイヒールを履いているから、実際の身長は、その分薪より低いのだろうが。

舟木が、薪と並んだら、似合いかもしれない。
ぼんやりと、そんなことを考えている自分が居る・・・。

「青木さんは、やっぱり、そういう方なんですね」
「え?」
舟木の言葉に、青木は目を開く。

次の瞬間。
「今日は、青木さんとお話し出来て、本当に良かった・・!」
そう言って、舟木は、ニッコリと笑った。

「・・・・・」
時にキツイ印象すら与える、舟木の目。
その目が、笑うとすっと目尻が下がり、まるで別人のように、穏やかで優しいオーラを、ふわりと振り撒いた。

「あ・・」
戸惑う青木をよそに、舟木は、もう一度軽く会釈をすると、くるりと背を向け、歩き出した。
青木も、反対方向に向かい、足を踏み出す。

『青木さんは、やっぱり、そういう方なんですね』
あれは一体、どういう意味なのだろう。
そして・・

『今日は、青木さんとお話し出来て、本当に良かった』
その言葉と共に、彼女が笑ったその瞬間、青木は、胸がドキリとした。

彼女は、薪を慕う、自分にとってはライバルに値する女性だと、黒い感情が渦巻いていたのに。
その嫉妬の対象である彼女に、あんなことを言われ、笑顔を見せられて、自分は・・・・・

青木は、首を幾度か横に振ると、風が吹き抜ける夜道を、歩いていった。





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