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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene7:贈り物


それは、ほんの一瞬のことだった。
青木の唇に軽いキスをし、舟木は、すぐに離れた。

「え?」
青木は、まだ動けずに居る。
目の前にある舟木の瞳は、おどけたような色を湛えている。

「あ・・。え? どうして。あれ・・?」
「私が薪さんのことを好きだと、本当に、そう思ってらしたんですか?」
戸惑う青木に、舟木は、やや首を傾け、言った。

そして・・・

「青木さんて、本当に。とても優しくて・・・残酷な方なんですね」
そう言って、ニッコリと、笑った。

舟木の笑顔。
それを見て、青木は、またもドキリとした。
何か・・胸の中がざわめく。

それは、舟木の美貌に動揺したのではなく、その笑顔を、ずっと以前にも見たことがある気がするからだと、青木は悟った。
それは、いつのことだった・・・?

「・・確かに、薪さんに憧れたこともあります。誰しも、薪さんに出会ったら、一度は目を奪われるんじゃないでしょうか。でも、薪さんのことは、遠くから眺めるだけで充分です」
そう言って、舟木はクスリと笑う。

その笑顔が、徐々に静かな表情に変わっていき、やがて視線が下に落ちる。
そして。

「それよりも私は・・薪さんの傍らに居る人に、その言葉に、ずっと・・救われてきました」
舟木は言うと、目を上げ、青木の顔を見つめた。

「え・・?」
青木は、脳内で、せわしく過去の記憶を探る。
どこかにある筈の、舟木の笑顔を。

「あれは・・入庁して、まだ一年目の冬のことでした」
舟木は、話し始める。
穏やかな表情で、フロントガラスの向こうを見つめ。

「まだ新人の私は、任された事務の仕事をこなすのに、日々、精一杯でした。初めてのことばかりで、戸惑うことも多かった。・・ある日、とある捜査官の配属手続きの過程で、大きなミスを犯してしまいました」
舟木は、チラリと青木を見上げ、また、視線を正面に戻す。

「その日のうちに、書類を一から作成し直し、決裁を取らねばならない。その為には、その捜査官本人に、全ての書類を書き直してもらわねばなりませんでした。私は、必死の思いで、すぐさまその人に、頼みに行きました」

「彼も・・配属先で、慣れない仕事に疲れている様子でした。それにも関わらず、彼は私の話を聞き、嫌な顔一つせず、すぐにその場で書類を全て書き直してくれました」

「・・・・・・」
青木にも、徐々に、その光景が浮かんできた。
そう、あれは、第九に配属されたばかりのこと。

「・・と、これで全部ですか?」
「はい。あ、あと、こことここに、判をお願いします」
「ああ、はい。・・これでいいですか?」
「はい! ありがとうございました!」

舟木は、全ての書類を手に取り、確かめると、立ったまま、深々と頭を下げた。
「本当にすみませんでした! 私のせいで・・」
「あ。いいですよ、もう、そんな」
デスクを前に座っていた青木は、慌てて手を横に振る。

「でも・・大事な書類なのに・・」
言いながら、舟木は、声がかすれ、涙がにじむのを、こらえきれなかった。
ミスをしたこと、上司の叱責を受けたこと、目の前に居る人間に迷惑を掛けたこと・・それらが一気に押し寄せてきて、自分が情けなくて、くやしくて、たまらなかった・・・。

「失敗は、誰にだってあるでしょう。オレだって、自分で希望してやっとここに来られたのに・・ちっとも役に立たなくて」
その言葉に、舟木は、顔を上げる。

「・・上司に何度も、この職場は合わない、異動願いは書いたかって言われて」
青木は、頭をかきながら言う。

「でも、こんなに大変な思いをして、配属手続きをしてくれてるんですから。すぐにまた異動手続きなんてことにならないように、オレも頑張りますよ」
そう言うと、青木は立ち上がり、改めて舟木に向き直り、言った。

「オレ、あきらめませんから。ここで、第九で頑張りますから。あなたも、頑張って下さい」
青木は笑顔で言い、仕事に戻ろうと、その場を立ち去る前に、舟木に向かって、軽く頭を下げた。

そして上げると・・・
青木を見上げる、舟木の笑顔が、そこにあった。

そうだ。
先日舟木に会った時は、髪型が違っていて、分からなかった。
あの時も、髪を下ろしていた。
今よりも垢抜けない、けれど、あれは間違いなく舟木だった・・・・・。

「・・青木さんは、忘れてらしたんですね」
舟木が言い、青木は我に返る。

「私はずっと、忘れませんでした。その後も、何度も壁にぶつかり、自分の力不足に悩み、もうやめたいと思いました。でもその都度、あの時の、青木さんの言葉に支えられて、ここまで来ることが出来たんです・・・」

青木は舟木を見、それから視線をさまよわせる。
そう、自分はすっかり、忘れていた。

「第九で手がけた捜査の報告が入る度に、私は、あきらめないとおっしゃっていた、青木さんの姿が浮かびました。第九は、様々な事件に見舞われてきました。それでも、青木さんはあきらめずに、まだそこに居るのだと、いつも私は、そう思っていました」

・・・そんなんじゃない。
青木は思う。
自分は、確かに、あきらめずに頑張ってきた・・だがそれが出来たのは、自分を支え、導いてくれる先輩達が、何より、薪が居たからだ。

あの時、その場で簡単に口に出し、そしてすっかり忘れていたことを、舟木は、ずっと覚えていて・・・

「・・・・・・」
口を閉ざし、物思う青木に、舟木は微笑んで言う。
「いえ。私だって、ずっと、青木さんだけを想っていたわけではありませんから。これまでに出会いもあり、お付き合いしたこともあります。ただ・・何か吹っ切れなかったのは、やはり、青木さんのことが、引っ掛かっていたからかもしれません」

舟木は、話し続ける。
「今回の薪さんの件で・・青木さんに直接話を伺おうと思ったのは、人事係長として、それが一番、ことが穏便に済むからだと判断したからですが。それ以外に、第九に、今のままであってほしい、薪さんが率いるあの第九で、青木さんに頑張り続けてほしいと、そんな、私個人の願いも含まれていたことは、否めません」

「舟木さん・・・」
青木は、何をどう言ったものかと、考えていた。

舟木は自分を、そんな風に想っていてくれた。
だが、自分は、その想いに応えることは出来ない。
それどころか、自分は過去の出来事をすっかり忘れていた上に、舟木が薪を想っていると勘違いして・・・

「青木さん」
舟木は、フッと息を吐き、それから、青木を見て、言う。

「しっかりして下さい。そんなことで自分を、そして、自分と運命を共にしている薪さんを、守っていくことが、出来ますか?」

「え?・・・・」
青木は目を上げ、パチパチと瞬きをした。
じっと自分を見つめる舟木の、その言葉を頭の中で反芻し、意味を悟った瞬間・・・

「えっ!?」
青木は、思わず声を上げる。
舟木はと言えば、肘を付き、リラックスしたポーズで、青木を見つめている。

「ど・・どうして、それを・・・」
「ほら」
舟木は、クスッと笑う。

「そこで、認めてしまうからいけないんですよ。最後まで、シラを切り通さなくちゃ」
「あ・・」
青木は、顔が赤くなっていた。

「青木さんて、分かりやすい方ですね。誘導尋問に、すぐ引っ掛かるタイプ。気を付けた方がよろしいですよ」
「・・・・・・!」
青木は、益々赤くなり、言葉も出ない。

「薪さんと青木さんが同居を始めたことは、以前から知っておりましたが。先日からの青木さんの様子に、それがどういうことか、徐々に分かってきたんです。確信したのは、つい先程ですが」
「・・あの、舟木さん」
やっと青木は、声を出す。

「このことで、その・・薪さんは、どうなってしまうんでしょう・・・」
青木は、胸に浮かんだただ一つの懸念に、心が痛んだ。
青木の言葉に、舟木は、目を見張る。

「そうですね。もしこのことが公になったら、二人とも、タダでは済まないでしょうね。ただ、薪さんの場合は、風当たりが強い一方で、引き立てようとする人も沢山いらっしゃいますから。薪さんの能力を買い、庇おうとする官僚も居るでしょう」

それを聞いて、青木は、多少ホッとする。
だが、薪が無傷というわけにもいかないだろう。
自分のせいで・・そう思うと、青木は、胸がキリキリと痛む。

その様子を見て、舟木は言う。
「やっぱり青木さんは、この期に及んでも、薪さんのことばかりなんですね」
「え?」
青木が顔を上げると、舟木は言った。

「この場合、薪さんよりも、ご自身の心配をなさった方が、よろしいんじゃないでしょうか」
「え?」
「青木さん、あなたの場合、薪さんのように、庇ってくれる官僚が、果たして居るとお思い?」
「ぐっ・・・」

青木は、言葉を失う。
確かに、舟木の言うことは真理だ。
いや、自分のことなどは、この際、どうでもいいのだが。

「青木さんは、自分のことなど、どうでもいいと思われるかもしれませんが。薪さんは、ことが公になった時は、自分で全ての責任を取るつもりかもしれません。また、あなたが職場に居られなくなり、薪さんが残る形になったとしても、それで薪さんは、喜ぶでしょうか?」

「・・・・・・」
青木は、考えを巡らせる。

これまで自分は、薪と付き合うことに対して、何も恥じることは無いと思ってきた。
たとえ、人に知られても構わないとさえ。
けれど。

たとえ、どんな結末を迎えるにしても、薪がそれで傷付くとしたら。
自分は、本気でこのことを、隠し通さねばならないのに・・・。

「今回は」
舟木は、言った。
「薪室長は、信頼する部下と同居生活の上、心身共に安定した生活を送り、何も問題は無いと、調査報告を上げようと思います」

「舟木さん・・・」
青木は、目を上げて舟木を見つめる。

「青木さんが、薪さんに対して本気なのは、よく分かりました。でもあんな態度では、すぐに分かってしまいますよ」
舟木も青木を見つめ返し、続ける。

「これは、『警告』という、私からの、青木さんへの、プレゼントだと思って下さい。私は以前、青木さんから、その先の日々を乗り越える言葉をいただきましたから。そのお返しに。・・それにしても。あんなにハッキリとおっしゃるなんて。参りました。・・本当に」

そう言い、舟木は、青木から視線を外し、窓の外を見やった。

「今回、青木さんにお話を伺おうと決めたのは自分自身ですが。それが、この件を解決するにあたり、最良の方法だとその時は思いながらも、改めて青木さんとお話しするのは、不安でもありました」
上から差し込んでいた夕日は、いつの間にか下に移動し、舟木の顔には、陰が施されていた。

「自分の中には、あの時の青木さんの姿しか無かったから。その時の言葉をこれまで支えにしてきたのに、青木さんが、すっかり変わってしまっていたら、どうしようかと。でも」
舟木は、青木に顔を向けた。

「青木さんは、変わっていませんでした。あきらめないとおっしゃっていた、あの時と、少しも」
舟木は、フッ・・と、微笑む。

「青木さんとお話し出来て、本当に良かった。これで、仕事も、恋愛も・・これからの人生を、改めて見つめ直すことが出来るような気がします」

青木は、舟木を見つめていた。
舟木の微笑みは、嬉しそうにも、悲しそうにも、どちらにも受け取れた。

やがて、暗くなりかけた駐車場から、車が走り出る。

帰り道は、舟木も青木も、口数が少なかった。
マンションの傍まで来た時、二人は、言葉を交わした。

「色々とお手数をお掛けしました」
「いえ、こちらこそ。あの・・色々とすみませんでした」

狭い車内で頭を下げる青木に、舟木は、ポツンと言った。
「青木さんは・・あのことも、きっとお忘れなんでしょうね」

「は?」
舟木の言葉に、青木は、目を見開いた。
まだ、自分は何か忘れているのだろうか。

「翌月半ばの・・いえ、いいんです、もう」
「??」
盛んに瞬きをして、何かを思い出そうとする青木に、舟木は、言った。

「本当に、青木さんは、優しくて・・・・・」
舟木は、言葉を途切らせた。
そこで、車を停止する。

そして。

「ありがとうございました」
舟木は、明るい声で、そう言った。





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