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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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※これは、「秘密」原作の一枚の絵から、私かのんが勝手に妄想を繰り広げたものであり、清水先生が意図してお描きになる原作世界とは、全く関係ございません。


オリジナルストーリー

「雲」



爽やかな風が吹き抜ける木陰で、薪は、本を読んでいた。

「薪さん、やはりこちらでしたか」
その声に見上げてみれば、そこには、光を背にし、顔が陰になった、長身の姿。

『薪、やっぱりここに居たのか・・・』
そんな声が聞こえた気がして、薪は目を細める。
男の背後の光の眩しさに、その顔は、よく見えない。

光から抜け出して数歩近付き、薪の居る木陰に入り込んできた男は・・・第九に配属されて、4ヶ月足らずの部下だった。
「岡部さんが探してました」
言いながら、青木は何の遠慮も無く、薪の隣りに座る。

「・・・・・・」
薪は無言のまま、再び、本に視線を落とす。
「薪さん、今日も、まだ何も食べてないんですか? 薪さんが、昼を過ぎても飯を食べに行った様子が無いから、良かったら向かいの定食屋に一緒に行かないかって、岡部さんがそう言ってました」

「・・僕はいい」
言いながら、薪の脳裏に、岡部との会話が浮かぶ。

『薪さん、朝から休憩取ってないでしょう』
『さっき休んだ。室長室で』
『コーヒー飲みながら、端末に向かうのが休憩ですか? ちゃんと飯を食いに行って下さい。今、曽我に弁当買いに行かせましたから。しっかり食べて下さいよ!』

・・このところ、連日そんな調子だった。
捜査中は、食べ物をほとんど受け付けることが出来ない。
岡部の気遣いも分かるが、これは体質なのだから仕方が無い。

休憩を取るなら、食事をするのではなく、こうして本でも読んで、一時的にでも捜査とは別の世界に身を置いた方が、余程気晴らしになる・・・。

「何の本をお読みなんですか?」
青木が、ひょいと薪の本に手を掛け、表紙を覗く。

「『理論物理における微分幾何学』・・・何故こんな本を?」
「気晴らしだ」
「・・・・・・」

無言で目を見張る青木から、薪は目をそらし、頁に視線を戻す。

・・だが、どうも集中出来ない。
当たり前のように、隣りに居る部下の姿が、目をそらしてもなお、視界の端に入って仕方が無かった。

『薪、お前、何読んでるんだ?』
『邪魔するなよ』
『休憩時間位、目を休めろよ。こうして、空を眺めてさ・・・』

薪の胸に、そんな光景が浮かぶ。

「今日は、空が真っ青ですね」
隣りから聞こえたその言葉に、薪は、目を見開いた。

「青い空に、白い雲が流れて・・梅雨入り前のこの季節は、気持ちがいいですね」
「・・・・・・」
横を見やると、草の上に座り、脚を開いて膝を立て、その上で軽く手を組み、空を見上げる、部下・・・。

「薪さん、雲を見ると、それが、何かの形に見えてきませんか?」
「・・形?」
薪も、空を見上げる。

「ええ。あれはオムライスでしょう? あっちがオニギリ・・で、ハンバーガー・・」
「・・食い物ばかりだな」
しかも、かなりお子様な・・。

「あ・・いえ、あっちなんかホラ、ワニに見えませんか?」
青木は、やや顔を赤らめて言う。
「今度は、動物か・・」
薪は、空を眺めていた視線を落とし、それから、立ち上がった。

「あ・・薪さん?」
薪は何も言わず、本を小脇に、その場から去っていく。

やはり・・違う。
少なくとも、あいつは、水滴のかたまりを、食い物や動物に例えるなんてことはしなかった。
青木は、あいつとは違う・・・。




その日、薪は、とあるカフェに居た。
さほど広くなく、かといって狭過ぎるわけでもない、適度な広さのこのカフェは、昔ながらの喫茶店といった趣きだ。

第九に居れば、まるで自分の専属栄養士のような男が、飯を食えとせっつくし。
裏庭に出れば、そこには、あの男が姿を見せる。

あいつは、青木はどうも、自分を落ち着かない気分にさせる・・・。

薪は、昼食を取りに行くかのように、一人で第九を出る。
仕事の関係者が出入りしている近くの店には、入る気がしなかった。
そして見つけたのが、ここだ。

庁舎から早足で20分程かかる、裏通りを入り、2階に上がったこのカフェには、見知った顔は居なかった。
店内全面禁煙で、煙に悩まされることもなく、本を開くことが出来る。

ここで、コーヒーを1杯頼み、文庫本を1冊読み終えるだけの時間を過ごし、第九に戻る。
誰も、食事を取れなどと言わないし、読書の邪魔をすることもない。

こうして薪は、半月程前から、昼間、時間が空くと、ここを訪れるようになった。

何度か通ううちに、常連客の顔も覚えた。
カウンターの端に座っているのは、60代半ばの男。
退職して暇を持て余しているらしく、店のマスターと、趣味のギターの話をしていることが多い。

「いらっしゃいませ!」
「あ、いつものやつ、お願いします!」
入るなりそう言ったのは、20代後半の、営業をしていると思われる男。

窓際のテーブルに座ったその男の前には、程なく、トレーが運ばれる。
「はい、日替わりランチの大盛りですね」

薪は、読書に集中しながら、同時に、そんな光景を捉えている。
店は、マスターとその妻、それに、曜日によって交替で勤務する、二人のアルバイトの学生で、回っているようだ。

会話の内容と風体からして、マスターは50代半ばか。
その妻は、骨格からすると、マスターとさほど変わらないようにも見えるが・・
女性の年齢は、よく分からない。
薪は、誰よりも自分が年齢不詳であることを棚に上げて、そんなことを思う。

実際、店の奥では、こんな会話が交わされていた。
「また来てるよ、あの人」
妻の言葉に、マスターはうなずく。

「何をしてる人なんだろうね。お堅い雰囲気だけど・・会社の重役って感じでもないし」
「いっつも本読んでますよね」
そう言ったのは、アルバイトの青年。

「インテリっぽいよね・・大学教授かしら」
「オレの行ってる大学では、あんな教授、見たことないですよ」
「学部が違うだけなんじゃないの?」
「いや、違っても気付くでしょう・・あれは」

「教授と言うより、助教授かもね、若いし。それとも研修生・・」
彼女は、腕を組んで考え込んだ。
その爪は、綺麗に手入れされている。

薪の読みは、当たっていた。
50代半ばの夫と、妻は3歳と違わなかったが、いつもお洒落や身だしなみに気を配り、年齢より、かなり若く見せていた。

「何かすっごい難しい本読んでますよね、いつも」
「そう?」
青年の言葉に、彼女は、奥のテーブルに座る薪の姿を、ちらりと見やる。
彼女が薪に近付く時は、ついついその顔や、細い指に目が行ってしまい、本の中身など、見たことは無かった。

「この前も、何だか、見たことも無い文字が並んだ本を読んでましたよ」
「どんな文字だって?」
聞き返したのは、それまで黙っていたマスターだ。

「よく分からないんですけど。日本語でも英語でもフランス語でも無い、中国語やハングル文字でもない、とにかく見たこと無い字が並んでました」
「凄いわねえ。じゃあ・・言語学の教授?」
うっとりとそう言う彼女は、
「・・うちの大学に、そんな学科無いっすよ」という青年の言葉も、聞こえていないようだ。

「しかも、いつも必ず20分で読み終えてるんだよね」
マスターが言い、後の二人が振り返る。

「そうなんですか?」
「うん。店に入ってきて、コーヒーを頼む。それから本を開いて、読み終えて店を出る。いつも、きっかり20分だ」
「へええ・・」

三人が見やるその先で、薪は、とても読んでいるとは思えないスピードで、次々と頁をめくっている。

「声もいいのよねえ・・。意外に声は低くて。それで、『ブレンドをいただけますか?』って。もうそれが、一つの音楽みたいで・・」
「マスター、いいんですか? 奥さんにこんなこと言わせて」
青年は言うが、マスターは背を向け、黙々と何か作業をしている。

「ここまで通ったら、『いつもの』っていったって通じるのに、毎回必ずそう言う。礼儀正しいのよねえ」
「・・こちらが、常連客として顔を覚えてるって、知らないんじゃないですか?」
「まさか。1回来たら忘れられないでしょ、あの顔は」

「本人は、その自覚が無いのかもな・・はい、これ」
マスターが差し出したそれを見て、後の二人は、不思議そうな顔をした。

「あれ? こんなの、オーダー入ってましたっけ」
「サービスだよ。噂の彼氏への」

「失礼致します」
女性の声に目を上げ、同時に、薪は怪訝な顔をした。
「・・僕は、こんな物は頼んでおりませんが」
「いつもご贔屓にしていただいてる、お客様へのサービスです」

薪が呆気に取られている間に、それは、テーブルへと置かれた。
「当店自慢の、スペシャルパフェでございます」
「・・・・・・」

実際のところ、男性客の利用が多いこの店で、意外にもこのパフェは、隠れた人気メニューだった。
マスターは、自分の経験上、男性だって甘い物を食べたいが、気恥ずかしくて頼めないものだと思っていた。
だから、男女に関わらず、常連のお客へのサービスとして、このパフェを出す。
すると、それに味を占め、食べたお客は、その後もこれをオーダーすることになるのだった。

「どうぞ召し上がってみて下さい。当店のパフェは、甘さ控えめで、男性のお客様にも大変好評なんですよ」
笑顔でそう言う女性に、薪は、瞬きをし・・・それから静かに声を出した。

「・・公務に携わる者として、こういったお心遣いはお受け出来ません」
キッパリと、そう言った。

「あら、公務員でいらっしゃるんですか?」
新たな情報を掴んだことに、女性は目をきらりとさせる。

「ご馳走様でした」
薪は本を手に立ち上がり、レジに向かって歩いていく。

青年が急いでレジに向かう間に、
「ここに置きます」
薪は言い、レジにコーヒー1杯分のお金を置くと、店を出て行った。




通りに出て、歩きながら、薪は思う。

誰にも邪魔されず、1杯のコーヒーと共に、読書が出来る場所だと思っていたが。
わざわざこんな所までやって来るのは、自分が、第九の室長ではない、薪剛でもない、ただの、出入りするお客の一人に過ぎない存在に、なれるからだったのに。
たとえパフェ一つでも、警察の人間として、あんなサービスは受けるわけにはいかない。

・・また、どこか新たに居心地のいい場所を探さねば。
薪はフッ・・と、ため息を付く。

たとえ、どこに行こうとも。
大勢の人間の一人に埋もれることは出来ないと・・・本人にとっては悲しい事実を、薪はまだ、認識していない。

歩きながら、薪は空を見上げた。
青い空に、大きな白い雲が浮かんでいる。

「・・・・・・」
薪には、それが一瞬、大きく羽を広げた、鳥の姿に見えた。
単なる、大気中に浮かぶ水滴のかたまりが。

そして薪は、第九に戻るまで、二度と、その空を見上げなかった。




雲 終



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