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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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※清水先生の作品とは、関係ございません。


オリジナルストーリー

「道」




それは、ずっと以前から、幾度か出ていた話だった。

「別に、今のままでいいわ」
いつも、そう答えてきた。

給料は充分だったし、気心の知れた同僚と、慣れた所で執刀する今の状態は、居心地の良いものだったから。
わざわざ、海外に赴くなどと、そんな気は、さらさら無かった。

それに・・・・

「やっぱり、青木さんとのことが原因ですか?」
その言葉に、雪子は顔を上げた。

「え?」
「青木さんとの結婚が駄目になったから・・海外研修、受けることにしたんですか?」
デスクに向かって座り、ぼんやりと考えごとをしていた雪子に、スガが、覗き込んで、言った。

「あ・・ああ、青木君のこと?」
「違うんですか?」
雪子の反応の薄さに、スガは、目をパチクリとさせる。

「あ・・そうね。でも、婚約を解消したのは、もう半年も前のことだし」
「じゃあ、何が原因なんですか?」
「そろそろ・・真剣に自分の人生を考えようかと思ったのよ。青木君とのことも、きっかけにはなったけど、でも、そのせいじゃないから。ちゃんと・・自分がやりたいことを、見つめ直そうと思ったの」

雪子は一度、そこで言葉を切った。

「・・色々考えたわ。田舎に帰るという選択肢もあったし。でも、結局私は、監察医として生きていくのが本分だと思ったの。だったら、それを極める為に、今出来ることを、やっておきたい。そう思っていた矢先に、今回の話が来たのよ」

「そうなんですか・・」
スガは、口をとがらせ、一度頷くと。

「そっか。先生が、前向きな気持ちで受けたなら、良かった。な~んだ。てっきり、傷心のあまり全てを捨ててアメリカへ去ろうとしてるのかと思って」
スガは、ニッコリと笑い、続けた。

「心配する必要は無かったみたい。考えてみたら、先生は、そんな繊細じゃありませんものね!」
「・・それ、褒めてないから」

雪子のつぶやきは無視して、スガは、明るく話を続ける。
「第九も、あんな事があって、一時はどうなることかと思いましたけど。無事に存続することになって、青木さんも良かったですよね。まあ、あの薪さんさえ居れば、今後も第九は安泰でしょうけど」
「・・・・・!」

最後に出てきたその名に、雪子は思わず、目を見開く。
けれどそれを隠すように、とっさにスガから、顔をそむけた。

そう・・青木との婚約とその解消も、きっかけにはなった。
スガに話したことは、嘘ではない。
自分のこれからの道を見つめ直そうと、本気で思ったのだ。

だが・・・・。

薪と鈴木の関係を、自分はずっと引きずり、そして、薪と青木の関係をも、見つめることになった。
今度こそ、そこから脱する為に。
薪のことを・・自分の世界から切り離す為に。

見つめ直す気になったのだ。

これまでずっと。
ここから、離れることを望まなかったのは。

自分のどこかに、何らかの形で、第九と繋がっていたいという思いが。
きっと・・・

「先生」
スガの声に、雪子は再び、顔を上げる。

「今度こそ、いい男、ゲットして下さいよ」
「・・その為に行くんじゃないんだから」
「向こうにも、変わり者の男が居ることを、願ってますからね!」
「まったくもう・・」

見上げた先にあるスガの笑顔が。
何故だか可笑しく・・そして何故だか、苦しかった。




『今度こそ、いい男ゲットして下さいよ』
スガの言葉を、今更ながらに、思い出す。

まさか本当にそうなるとは、思わなかった。

渡米してからというもの、毎日が忙しく、緊張感に満ちていた。
目まぐるしい日々の中で、出会ったのが、同じ監察医の彼。

茶色い髪に、白い肌。
背はそれ程高くはないが、かと言って、低いわけでもない。
一見目立たず、だがよく見ると愛嬌のあるその顔は、鈴木にも青木にも・・そして薪にも、似ていなかった。

ライバル意識の激しい同僚の中で。
彼は、どこかのんびりと構え、日本からやって来た生意気な女に、素直に感銘を受けていた。
10歳も年が下だと知ったのは、ずっと後のことだ。
この国では、職場でキャリアを問われることはあっても、年齢が話題に出ることは、滅多に無い。

互いの年を知った時、雪子は、相手がガッカリするのではと危惧したのだが。

「へえ・・そんなに綺麗なのに?」
彼は、そう言った。

「ちっとも分からなかった。ユキコは、すごく若くて、そして・・とても綺麗だから」
「・・・・・・」
臆面も無くそう言う彼に、雪子は、言葉が出なかった。

一緒に住み始めたのは、それから間も無い頃だ。

これも後で知ったのだが、「キウイズ・ハズバンド」という言葉があるらしい。
「キウイズ」とは、ニュージーランドの鳥のキウイ、つまりは、ニュージーランド人を表し。
そして「キウイズ・ハズバンド」とは、「オーストラリアン・ハズバンド」と同じ意味で、家庭的な理想の夫を象徴する言葉だ。

共に、昔は女性が少なかったオセアニアの地で、男性は女性に優しくするようになった・・という説があるようだが。

彼自身は、アメリカで生まれ育っているが、両親は共に、ニュージーランドの出身だった。
彼は、炊事・洗濯・掃除・・それらを当然のように手際良くこなし。
雪子が帰宅すると、既に夕食が出来ていたり。
朝起きると、既に洗濯が済んでいたり。

二人は、同じ仕事をしているだけに、家に居る時間も、ほぼ同じ筈なのだが、トータルすると、彼の方が家事をこなしている時間が、長いようにも思われた。

申し訳ない・・と、焦る雪子の気持ちとは裏腹に。
「やっぱりユキコは、ジャパニーズ・ワイフだね」
彼は言った。

「職場ではあんなに、男顔負けの士気を見せるのに。家に帰ると、健気で控えめで・・夫の僕に尽くそうとしてくれる。嬉しいよ」

・・・・いや、それは違う、と雪子は思う。
職場では張り詰めているテンションが、家に帰ると、下がるだけだ。
必死に尽くそうとするのも、いつも先回りして、彼が何でもやってくれるから、何とかせねばと思うからだ。

「ジャパニーズ・ワイフ」とは、「キウイズ・ハズバンド」とは、ちょうど対になる言葉。
夫を立て、控えめで、それでいて芯は強い・・理想の妻を象徴する言葉だという。
ハッキリ言って、昔々のままの日本女性のイメージに過ぎないと思うが。

「それは誤解よ。私は、そんな理想の女とは全く違うわ。私が黒帯なの、知ってるでしょ?」
「それとこれとは、関係無いよ」
「恋は人を盲目にするって、本当ね。いつか私の本性を知って、幻滅したって知らないから」

雪子の言葉に、彼は笑う。

知ってるよ。
君が、僕のことを投げ飛ばす位、強いことも。
僕より家事が下手で、焦ってることも。
時々カッとして、同僚に本気で立ち向かっている姿だって。

でも、そんな君が。
時々、悲しげな様子なのも、僕は見ている。
それでも、僕に笑って見せていることを。

いつか君は。
その悲しみが何なのか、全てを、僕に話してくれるだろうか。
いや・・話さなくてもいい。

今、僕の目の前に居る君を。
強くて、豪快で。
綺麗で、明るくて。
笑ったり、怒ったり、悲しんだりする君を。

僕は・・これからも見ているから。




研修を経て、雪子はそのまま、アメリカの機関で働くことになった。
ビザの問題も無かった。

彼と・・籍を入れたからだ。

両親への報告や、日本の職場での手続きの為。
雪子は、一度日本に帰国した。

「おめでとう。結婚式は、挙げないのかね?」
「向こうで、簡単な披露宴は行なおうと思っています」
「そうか。・・出来れば、こっちで祝ってやりたかったが」
「ありがとうございます。お気持ちだけで、充分です」

日本の元上司と言葉を交わし、雪子は、部屋を後にした。
世話になった元上司は、目頭を光らせていた。
本気で、自分を気遣っていてくれたのだと・・胸が、熱くなった。

これまでに。
電話やメールで。
または、直接会って。

籍を入れたこと、今後もアメリカで過ごすことを、様々な人間に報告した。
皆・・本当に喜んでくれた。

青木にも、電話で伝えた。
最初はメールにしようかとも思ったが、青木には、ちゃんと、自分の口で伝えるべきだと思ったのだ。

「・・おめでとうございます!」
青木は、そう言った。

「良かった・・。雪子さん・・本当に、良かった・・」
上ずる声からは、青木が、涙ぐんでいる姿が、浮かんだ。

人々は皆、自分を祝福してくれた。
これまで、これ程多くの人々に、見守られてきたのだ。

改めて、気付いた。
自分は何て、幸せなんだろうと・・・・・。

あと、もう一人。
伝えるべきかどうか。
ずっと、悩んだ相手が、居た。

でも、その人は。
自分のことなんて、もう、どうでもいいかもしれない。

長い間、連絡も取らずにいた。
その人とは、世界を切り離そうと、そう思っていたから。

そう・・もう、いい。
あの人はもう、私とは、別の世界に住んでいる。
私なんて、もう何の関係も無い人間に違いない。

このまま、夫とアメリカに戻ろう・・・。

建物を出ると、曇り空が広がっていた。
そして、その下で、夫が待っていた。
「ユキコ!」
振り返り、すぐに笑顔で駆け寄ってくる、夫。

「ごめんなさい、ジェフ。随分待ったでしょう?」
「構わないよ。挨拶はもう、全部済んだの?」
「ええ・・」

そこで、雪子は、言葉を途切らせた。
今・・視界の端に、入った人影は。
その先に居るのは・・・・

「・・・つよし君!」
「雪子さん・・・」

目の前に立つその相手を、互いに、驚きの目で見つめ合う。

「日本に帰国してることは、伺ってました。そうか・・今日はこちらに、挨拶に見えたんですね」
「帰国を知ってたって・・じゃあ、その・・」
自分が籍を入れたことも、薪の耳に入っているのだろうか。

雪子は、戸惑いながら、言葉を探す。
あまりにも、予想していなかったこの遭遇に。
何と言ったらいいのか、言葉が、見つからない・・・。

「ご結婚されたそうですね。おめでとうございます」

「・・・つよし君」
雪子は、改めて薪を見つめる。
薪の口から出た祝いの言葉に、雪子は、そんな一言しか、返せない。

「・・ユキコ?」
そこに、言葉を挟んだ者が居た。

「ユキコ、どうしたの?」
雪子の夫は、雪子に声をかけ、不思議そうに、薪を見下ろした。

「あ・・紹介するわ。こちら、ジェフリー・リアン。私の・・・夫」
雪子は、夫と薪の顔を交互に見ながら、落ち着かない様子で、そう薪に言った。

「はじめまして」
そう言う薪に対して、
「・・はじめまして」
言いながら、ジェフは、雪子の顔を見る。

「ユキコ、こちらは・・?」
紹介し返してほしいというように、ジェフは、首をかしげて見せた。

「彼は・・仕事の関係者で・・」
そう、雪子が言いかけた時。

「僕は、薪剛と言います。雪子さんの・・友人です」

「あ・・」
雪子は、言葉を失い、薪を見つめる。

「友達ですか。じゃあ、雪子がお世話になって、ありがとうございます!」
ジェフは、笑顔になって、薪に右手を差し出した。

「こちらこそ」
そう言って、薪も右手を差し出す。
薪とジェフは、しっかりと握手を交わした。

「じゃあ、僕はこれで」
そう言って、去り際、薪が向こうを向く瞬間、見せたその顔が。
雪子の脳裏に、鮮やかに焼き付いた。

薪が入っていったそのドアを、見送って立つ、雪子。
「ユキコ?」
声を掛けられ、雪子は振り返る。

「お腹すいちゃった」
開口一番、そう言った雪子に、ジェフは、笑顔を見せる。

「そうだね。とっくに昼飯の時間を過ぎてる。何か食べよう」
「近くに、以前よく行った、おススメのお店があるんだけど」
「・・そこ、今もやってる?」
「さあね」

見上げると、先程まで広がっていた雲が動き、いつの間にか、太陽が差し込んでいる。

「眩しい・・」
雪子は、つぶやいた。

「うん?」
ジェフも、空を見上げ、目を細める。

「眩し過ぎて・・涙が出るわ」
雪子は額に手をかざし、空を見つめて、そう言った。

『雪子さんの、友人です』
その、薪の言葉が。

そして、最後に見せた、薪の笑顔が。
穏やかな微笑みが。

雪子の胸の中で、結晶のように、きらめいて消えた。

そして、雪子とジェフは、歩き出す。
彼らの後ろには、道に伸びた影が、二つ、並んでいた。




道 終





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コメント

■ 鍵拍手コメ下さったCさま

○5/18に鍵拍手コメント下さったCさま

コメントありがとうございます。

え?「友人」じゃ切ないですか?
私は「友人」という言葉に『人間に対する最高の尊称だとオレは思うぜ(byアニス)』というイメージを持っているのですが・・。

でも、そうですね、薪さんの立場にしてみたら、鈴木さんにとって「友達」「親友」であることは、切ないことだったかもしれません。
そう思うと「友人」という言葉は、切なく残酷なものかもしれませんね・・。

薪さんにとって、過去には鈴木さんが、現在は青木が、唯一「愛する人」であり、他の人間は誰も成り代わることは出来ないんですよね。
チッ、青木め。

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