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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
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Scene1:脚本



1981年、秋。

訪れた人物と挨拶を済ませると、山本は、部屋の一角にあるソファーに座るよう、相手を促した。

秘書がコーヒーを運んできたが、それを置くには、ローテーブルの上に書類が重なっていることに気付き、山本は、書類の束を抱え上げ、傍らのデスクへと運んだ。
秘書はコーヒーを置くと、すぐに部屋を出て行く。

「散らかっていて申し訳ありません。企画を3つ、同時進行で進めているものですから」
山本は、自分もソファーに座りながら、そう言った。

「いえ、お構いなく。相変わらず、お忙しそうですね」
そう言う相手を、山本は見上げる。

ローテーブルを挟んだ、向かいのソファに座る男は、紺色のスーツを着て、グレーのネクタイを身に付けている。
座っていても、ひと目で分かる長身。
大きな手を、膝の上で軽く組み、眼鏡の奥の瞳をやや細めて、周囲の様子を眺めていた。

「ありがたいことですよ。私自身は、大したことはしていないんですが。私の役目は、人を集め、金を集め、交渉ごとを引き受ける、その程度に過ぎません。どんなに私が頑張ったところで、結局は、作品そのものが駄作であれば、どうにもならない。幸いなことに、優秀なスタッフや実力のある俳優が力を発揮してくれるもので、こうして、仕事が成り立つわけです」

そう言うと、山本は、目の前にあるコーヒーを、相手に勧めた。

相手は、軽く会釈をすると、顔を上げてニコッと笑みを見せ、カップを手に取った。
口調は物静かだが、その笑顔は人懐こく、どこか周囲を和ませる雰囲気を持っている。
この体格ながら、こちらに威圧感を与えないのは、そんなところから来るのかと、山本は思う。

「それにしても、この脚本が、青木一行さんのものだとは、思いませんでした」
言いながら、山本は、『巡る時』と題された、その脚本を手に取る。

「ペンネームが違っていても、内容によって、同一人物だと察しが付くこともあるんですが。今回は、以前執筆された物とは、随分作風が違っていたものですから」
山本の言葉に、カップを手にしていた青木の動きが、一旦止まる。

「3年前でしたか。青木さんが書かれた『スターバトルリング』、話題をさらいましたねえ。実のところ、私自身、日本でこんな本格的なSF映画が作れるとは思いませんでした。せいぜい怪獣映画か漫画映画でしか見られないものと・・。外国から入ってくる大作にも劣らない。日本映画の興行記録を塗り替えたのも分かりますよ」

山本は、手にした脚本をめくりながら、言う。
「考えてみれば、作風は違うと言えど、SFファンタジーという点では、共通しているんですね。今回は何故、こういった作品を?」

青木はコーヒーを少し飲み、カップを置いて、口を開いた。
「・・あれは、一時のお祭りでした」
静かなその声に、山本は顔を上げる。

「あの時は、確かに、持ち上げられもしました。空前のヒットに、皆、舞い上がっていた。けれど、人は、刺激を得れば、もっと強い刺激を欲しがる。もっと人を驚かせる物、もっと売れる物・・その要求に応えようと、オレはそればかりを考えていました」

「・・・・・・」
山本は、目を瞬かせて、青木を見つめた。

「娯楽を追及していくうちに、本来自分が書きたかった物が、埋没してしまった・・。どうすれば、見た人が驚くか、興奮するか、そんなことばかり考えて。これまで誰も見たことの無い世界を書いてやろうと、そんな意気込みで書いていた。いくつも、いくつも・・・」

青木は、言葉を継いだ。
「この3年の間に、沢山の脚本を書きました。ボツになった物もある、採用されはしたが、売れなかった物もある・・。そのうちにオレは、自分が何を書きたいのかも、分からなくってしまったんです・・」

「・・青木さん」
山本が、口を開く。

「そういったことは、この業界で働く人間なら、一度は経験することですよ。ですが、私は思うんです。娯楽を追及、結構なことじゃないかって」
山本は、脚本を一度テーブルに置くと、それをじっと眺めて、言った。

「世の中には、様々な需要があります。アクション映画で気分を晴らす人も居れば、動物物で涙を流して心洗われる人も居る。冒険物のスリルを求める人も居れば、人間ドラマをじっくりと鑑賞したい人も居る。役割はそれぞれ違うようで、結局は、人が求める楽しみを、娯楽を提供して、明日への活力を養ってもらう・・目的は皆、一緒だと、私は思いますよ」

青木は、目を上げて、山本を見つめる。
山本は、口元を緩め、微笑んでいた。
「私の会社は、たまたま、人間ドラマや恋愛物を扱ってますが、その目的は、大作を作る会社と、何ら変わらないと思っているんです」

山本の言葉に、青木は小さくため息を付く。
目の前に居る、小さな身体で、謙虚な態度のその人物のもとに、才能あるスタッフや俳優が集い、低予算で大きな収入を得る仕事をしているのは何故なのか、分かったような気がした。

「それにしても」
山本は、脚本を改めて、手に取った。

「これは本当に、素晴らしい脚本です。是非、うちで映画化させていただきたい」
「ありがとうございます」
青木は、深々と頭を下げた。

「特にこの・・ヒロインの人物造形、実にユニークですね。この『マキ』という女優には、モデルが居るんですか?」
「・・・・・・」
山本の言葉に、青木は束の間沈黙し・・そして、答えた。

「山本さん、『薪剛』という俳優は、ご存知ですか?」
「まき・・つよし・・。聞いたことがありますね」

「昭和20年代から30年代にかけて、主に舞台で活躍した俳優で・・映画は一本しか出演していません。『青い空へ』という・・」
青木がそこまで言い掛けたところで、首をかしげていた山本は、大きくうなずいた。

「ああ・・!思い出しました!そうそう、『青い空へ』、あれはいい映画でした。薪剛・・当時まれに見る美形俳優だった。あれだけで映画界を降りたのは、惜しかったですよねえ。・・・・え?」
山本は、勢い込んで話していたが、急に言葉を途切らせ、青木を見つめた。
「まさか・・?」

山本の問いに、青木はうなずいて見せる。
「はい。話の都合上、女優にしてありますが、そのモデルは、彼です」
「はあ・・」
山本は、目を見開いて、脚本をじっと眺めた。

それから目を上げ、青木の顔を見ながら、言う。
「では、彼のことについて、調べられたんですね? 実に面白い人物像ですが、彼を知る周囲の人間に、取材をされたわけですか」
「・・・いえ」

青木の答えに、山本は続きを待つ。
「彼のことは、調べもしましたが、正確には、取材をしたわけではありません。彼自身に、会ったんです」
青木は、そう言った。

「え・・? ええと・・彼はまだ、健在でしたか?」
山本は、首を振って、考え込んだ。
映画に出演当時、薪という俳優は、確か30代。
現在60代か70代ということになる。

「現在の薪さんに会ったわけではありません」
青木は、キッパリと言った。
そして続く言葉に、山本は、目を見開いた。

「現役で舞台に立っていた頃の、映画に出演する頃の、薪さんに、会ったんです」

「・・・・・は?」
山本は、口をポカンと開ける。
そして言った。
「あ、あの・・それは、どういう意味で・・」

「その脚本は、主人公は女優にしてあるし、相手役の名前も変えてあります。でも、実際の主人公は薪さんであり、相手役は、オレなんです。そこに書かれていることは、全て、実際にあったことなんです」
「・・・・・・」

いぶかしげな表情の山本に向かい、青木は言う。
「信じられなくても、無理はありません。でも、本当に・・」

「オレは、36歳の薪さんに、会ったんです」





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