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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
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Scene2:映画館



1981年、初夏。

青木は、執筆する気力が、すっかり失せていた。

3年前に公開されたSFアドベンチャーが、大変な成功を収め、当時、青木は大いにもてはやされた。
同じような執筆依頼が舞い込み、青木は、仕事を次々とこなしていった。
だが、思うようなヒットを飛ばすことは出来なかった。

それは、脚本のせいだけでは、なかったとも言える。
青木の脚本を、大幅に変え、全く違った筋書きにされていた物もあった。
筋書きは押さえていても、予算が少なく、背景描写がお粗末な物もあった。

だが、ヒットを出せない脚本家は、次第に仕事が減り・・やがて、すっかり声が掛からなくなるにも、時間は掛からなかった。
時間が出来たことで、青木は、改めて自分が書きたい物を書こうと、そう思った。

だが、いざ書こうとすると・・自分が何を書きたいのか、それすら分からなくなっていた。

失意の中で、他人との交流も減り、かと言って、書くことも出来ず、眠れぬ日々が続いていた頃。
青木のもとに、とある老舗の小さな映画館が、閉館になるというニュースが舞い込んできた。
以前、足げく通っていたそのホールの名に、青木の胸には、甘酸っぱい郷愁が込み上げた。

閉館を前に、これまでに上映した作品の中から、選りすぐりの名画を、オールナイトで上映するという。
青木は、足を運ぶことにした。
何でもいい・・何か気分転換を図りたい、ただそれだけの理由で。

それが・・・己の、その後の運命を、大きく変えることになるとも、知らずに。




訪れたその映画館が、明らかに老朽化していたことに、青木は驚いた。
自分自身、仕事に追われ、大衆娯楽にばかり目が行き、ここには、長いこと、足が遠のいていたのだ。
以前は、ここで上映される、数々の心染み入る映画に、魅せられていたのに。

閉館記念だからか、客席は、ほぼ満席だった。
映画を愛する人達の熱気が、そこに宿っていた。

上映が始まる。
休憩を挟みながら、古今東西の、様々な名画が、上映された。
この日ばかりは、夜中の間もオープンしている館内の売店で、飲み物や軽食を買い、それを口にしながら、青木は、映画の世界に酔い痴れた。

さすがに夜中の1時過ぎになると、ただでさえ寝不足の身体に、眠気が襲ってきた。
休憩時間の後に、また次の上映が始まる。

青木は、館内で入手した、今回の上映映画のリストを手に取った。
今度上映するのは、30年以上前に製作された日本映画。
映画のタイトルは、聞いたことが無い。

主演俳優の名は・・どこか聞き覚えがあるような気もするが。

真夜中だから、名画とは言っても、どちらかと言えばマイナーな物を、ここに持ってきたのかもしれない。
ちょうどこの上映の間に、このまま一眠りしてもいいな・・青木は、あくびをこらえ、そう思った。

館内が暗くなると同時に、青木は、座ったまま目を閉じた。
音楽が流れ、タイトルロールが現れたらしい。
やがて・・登場人物達の声が聞こえてきた。

青木は、夢うつつの中で、映画の中で交わされる会話の中から、ただ一人の声を拾った。
何だろう・・この声の滑らかさ、抑揚の心地良さ・・

青木は、目をうっすらと開いた。
そして・・・・・

「・・・・・!!」
青木は、息を呑んだ。
ひと目で、今、目の前のスクリーンに映る、その顔に惹き付けられていた。

どこがどう、自分を捉えたのか、それはよく分からない。
あえてその顔を、説明するならば。

白い顔に、当時の男性としてはやや長めの髪が、さらりとかかる。
これも男性としては細い眉が、大きな瞳の上で、くっきりとした弧を描いている。
鼻筋は通り、その下で、ふっくらとした唇が動き、セリフを形作っていた。

アップで映っていた顔が転換し、今度は、全身が映る。
スーツを着込み、椅子に座って脚を組み、肘掛に両腕を付いて話すその様子は、紛れも無く男性だ。

だが、その顔はまるで、若い女性のようでもあり。
顔の作りは、外国の血が入っているかのようでもあり。

性別も国籍も、超越したような、その姿で。
発せられるセリフは、滑舌のいい、それでいて滑らかな、美しい日本語だった。

青木は、食い入るように、画面に見入る。
もう、眠気など、どこかに吹き飛んでいた。

物語は、混血ゆえに、不当な差別を受けながらも、心を歪めることなく純粋な正義のもとに生き抜き、理解者にも恵まれ、やがて事業家として成功する一人の男の姿を通して、戦後の復興に突き進む日本の未来をも示唆した物だった。

映画は、文句無く素晴らしかった。
脚本がいい、撮り方もいい、脇を固める俳優達も、いい味を出している。
だが、何と言っても、この映画の魅力は・・・

「薪・・剛・・」
青木は、映画リストにあった、その名をつぶやいた。

これは、彼の為にあるような映画だ。
その俳優は、薪は、この役に、ピッタリとはまり込んでいた。
そして・・周囲に、光を振りまいていた。

白黒映画だというのに、まるで、薪のところだけが、色が付いて見える錯覚さえ、覚えた。
こんな俳優を、自分は何故今まで、知らなかったのだろう・・・・。

上映が終わり、館内が明るくなる。
周囲の人々が立ち上がり、ざわめく空間で、青木は、映画のリストを手に、動けずに居た。
この薪という俳優を主役に据えた脚本が、インスピレーションが、湧き出るような気がした。

だが・・この頃の彼は、今は居ない。
まだ現役だったとしても、もう、老人になっている筈だ。

「・・それでもいい」
青木は、口に出た言葉を、自分の耳で聞いた。
老人になっていてもいい、この俳優に会おう・・何としてでも。

本人に会って、話をしよう。
彼のイメージがあれば、きっと、いい脚本が書ける。
名前に聞き覚えがあるということは、まだ現役で、脇役で、どこかで出演していたのかもしれない。
いや、現役を退いていたとしても、何とか居場所を探し出して・・・

とにかく、会ってみたい。

青木は、これまでに感じたことの無いような、えもいわれぬ興奮を覚えていた。
ほんの半日前までは、書けない自分に失意を覚えていたことが、嘘のようだ。

青木は立ち上がると、その場から出て、辺りを見渡し、廊下の奥へと向かった。
「STAFF ONLY」と書かれたドアを見つけ、迷わず、ノックする。

「はい」
という返事を聞くや否や、青木は、ドアを開けた。
そこでは、数人の映画館のスタッフが、小さなテーブルを囲んで、夜食を取りながら、何か話し合いをしているところだった。

「・・何かご用ですか?」
若い男性スタッフが立ち上がり、青木に歩み寄る。

「あ・・実は、今上映された『青い空へ』の主演俳優について、教えていただきたくて」
「今ちょっと取り込んでてですね。そういったことは・・」

若いスタッフが、青木を制するように言い掛けると、奥から、声がした。
「いいじゃないか。どうせ最後なんだし。映画ファンと話をするのも一興だ。ここは、映画を愛する者を受け入れる場所なんだから」

若いスタッフは肩をすくめ、青木は、中に通された。
奥に座っていた、少し太めの中年男性は、手招きして、同じテーブルに着くように促した。

「おい、コーヒー一つ」
その男性のひと声で、別のスタッフが、紙コップに入れたコーヒーを、青木の前に差し出した。

「あ・・すみません」
勢いでここに来てしまったが、今になって、自分が図々しいことをしたことに思い至り、青木は、長身の身体をすぼめて、頭を下げた。

「まずは、この映画館が、35年の長きに渡り、ここで上映を続けてこられたことに、乾杯しましょう」
男性はそう言って、自分のカップを差し出し、青木も、軽く頭を下げて、紙コップを掲げた。

束の間、互いにコーヒーをすすってから、相手は言う。
「私は、この映画館の支配人で、貝沼と言います」
その柔和な笑顔を見て、青木は、自分も自己紹介をせねばと思った。

「初めまして。青木と申します」
「青木さんですか。ご職業は何を?」
「・・脚本家です」
「え?」

相手の動きが止まり、青木は、胸ポケットから名刺入れを取り出し、名刺を一枚差し出すと、改めて頭を下げ、言った。
「青木一行と申します」
「・・・・・・」

相手は、憮然とした表情で、受け取ったその名刺を眺めた。
一映画ファンと思っていたら、思いがけず業界の人間が入ってきたことに、戸惑っているようだった。

「青木さん、閉館になるこの映画館に、何のご用で?」
手で口を撫でながら、じっと相手を見定める、その視線。

「あ・・今日は、仕事で来たわけではありません。実は、以前よくこちらの映画館に通っていたものですから。閉館になると聞いて、今一度ここで上映される映画を見たいと、来てみたんです」
「ほお・・足を運んで下さってたわけですか」

「ええ。学生時代から」
「なる程・・」
青木が、観客として訪れたと知ったせいか、貝沼の表情が、再び穏やかになった。

「それで・・この『青い空へ』を拝見しまして・・。素晴らしい映画ですね」
「ああ、お気に召しましたか」
貝沼は、ニッコリと笑う。

「この映画は、当時、封切館が限られていたんで、世間的には、それ程有名になりませんでしたがね。映画人の間では、話題になったんですよ。このホールでも、開館して3年目に上映して、大いに客が入った。私はまだその頃、ここで働いてたわけじゃありませんが。でも、この映画を目にして、実にいい映画、いい役者だと思いました」

貝沼は、コーヒーをぐびりと飲んでから、言葉を継いだ。
「ロングラン上映になって、監督と主演俳優が、このホールを訪れたこともあるそうです・・」

そこで、青木は目を上げた。
「そう。その俳優なんですが、今現在、どうしているか、分かりますか?」
青木の言葉に、貝沼も、顔を上げる。

そして、貝沼が、持っていたカップをテーブルに置き、口を開いて出たその言葉に、青木は、衝撃を受けた。
貝沼は言った。

「彼は・・もう亡くなってますよ」





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コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○6/11に鍵拍手コメント下さったAさま

こんにちは。
コメントありがとうございます(^^)

そうですね、青木の自覚する初めての薪さんとの出会いは、スクリーンの中でした。

気品ある美老人☆
「美老人」て言葉、初めて聞きました(笑)
薪さんならではですね。
薪さんは、年を重ねてもあのままだと思います!(←本気です)

貝沼・・叫ばせてしまってすみません~(><;)
脳内に浮かんだ支配人が、何故か柔和に微笑む貝沼の顔だったんです(笑)

切ないとのお言葉、嬉しく思います。
その気持ちが何なのか・・青木のことだから、自覚は無いと思いますが(^^;)

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