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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene3:色紙



「こちらが、資料室です」
貝沼は、鍵を開けたそのドアに、青木を招き入れた。

「ロビーに展示していた時期もあったんですが、希少な物もあるので、こちらに保管するようになりました。買い取りたいという申し出が出ている物も多いですし、それ以外は、オークションにかける予定です」

青木は、中に足を踏み入れると、辺りを見渡した。
映画スターのポスター、写真集、雑誌、その他、様々なコレクションが、そこに並べられていた。

薪剛という俳優が亡くなっていた・・そのことに驚いた様子の青木を見て、貝沼は、薪に関わる品が、当館のコレクションの中にあるから、見ていってはと申し出たのだ。

「ええっと・・確かここに・・」
貝沼が棚を探っている間に、青木は、そばにあった「日本スタア名鑑 1940~1950年代」という本を開いてみた。

いくつもの映画に出演していた、この時代の看板スター達が、一人数頁に渡り、写真付で紹介されている。
青木は、次々と頁をめくっていく。

・・・あった。
看板スター達の後ではあるものの、大きく1頁を使い、薪の、上半身の白黒写真が掲載されていた。
たぶんこの「青い空へ」の宣伝写真だろう。

スーツ姿に、帽子をかぶり、繊細な指を軽く握ってアゴに当て、やや斜めを向いて映っている。
日本人の写真集だというのに、その頁だけが、欧米の俳優を映し出しているかのような、独特の雰囲気を醸し出していた。

写真の下には、プロフィールも掲載されていた。
薪剛。大正元年生まれ・・・

「青木さん、ありましたよ」
声を掛けられ、青木は我に返った。
ひとまず手にしていた本を閉じ、元の場所に戻す。

「こちらが、当時のポスターです。現物ではなく、複製ですが・・」
青木は、それをじっと眺めた。
崩した毛筆のような字でタイトルが書かれ、その上に、薪の写真があり、それを囲むように、他の出演者達の写真が並べられている。

薪は、かぶった帽子に片手を乗せたポーズで、視線はどこか遠くを見ている。
やはりこの写真も、薪一人だけ、日本の人間ドラマではなく、まるでヨーロッパのフィルムノワールのような空気を放っていた。

「それから、これは、ロングランを記念して監督と主演俳優が訪れた際に、残していったと言われる色紙です」
青木は、そちらに目を移す。

色紙・・と言っても、通常の色紙の倍以上の大きさの、縁取りされた厚紙だ。
その約半分を使って・・
「これが、薪剛のサインですよ」
貝沼の言葉に、青木は、じっとそれを見つめた。

それから、その脇に並ぶ文字を見て、尋ねる。
「・・これは?」
「寄せ書きのような物ですね。映画に携わったキャストやスタッフの名前が並んでいます。全部、それぞれ自ら名前を書いたようです。なかなか貴重な物ですよ」

青木がそれに見入っていると、
「他にも何かあったかな・・」
貝沼は背を向け、再び棚を探り始めた。

青木は、小さな文字で並ぶ、沢山の名前を見つめていた。

薪が亡くなったと聞き、自分でも信じられない位、ショックを受けた。
昨日まで、その存在すら知らなかったのに、自分は、この俳優に、会いたくてならなかった。
だが・・それはもう、叶わない。

ここに並ぶ名を持つ人々は、皆、薪と同じ時代に生き、薪と共に仕事をし、薪の姿を直に見られた人達なのだ。
自分も、その中に入りたかった・・・・。

ぼんやりと、その名を目で追ううち、青木は、あることに気が付いて、視線を止めた。
今・・信じられない物を、この目で見た気がする。
通り過ぎた名に、もう一度視線を合わせ、確かめる。

「・・・・・っ!!」
青木は、声も出なかった。

「貝沼さん、東配キネマさんからお電話です」
ドアから部屋を覗き込んだスタッフのその声に、貝沼は顔を上げる。
「分かった。今行く」

無言で色紙を見つめる青木に向かい、貝沼が声を掛ける。
「すみませんが、ここはもう閉めますんで・・青木さん?」

「・・・・・・」
「・・青木さん?」
「あ・・はいっ!!」
青木は、顔を上げ、返事をした。

「どうかしましたか?」
「あ・・」
青木は、テーブルに置かれた色紙を振り返り、口を開きかけ・・
「いえ・・何でもありません」
そう、答えた。

「お忙しい中、貴重な物を見せていただきまして、ありがとうございました」
青木は、映画館のスタッフ達に頭を下げ、ロビーに出た。
オールナイト上映は、まだ続いていた。

だが、青木には、そんなこと、もうどうでも良かった。
頭の中は、今見た物、その不可解な出来事で、いっぱいだった。

あの色紙の、スタッフの名前の中に、青木がよく知る人物の名が、交じっていたのだ。
末尾に程近いそこに。

『青木一行』と。




・・・一体、どういうことだろう。
自分の部屋への帰り道、どこをどう通ってきたのか、記憶が無い。

青木は、自室に入ると、ベッドへと倒れ込んだ。
確かに、自分の名があった。
自分が生まれる前に公開された、映画のスタッフの中に。

偶然、自分と同姓同名の人間が、その場に居たのだろうか。
そう考えれば、何も不可思議なことではない。

だが・・・・

青木は、身体を起こした。
単なる偶然の一致だと、自分に言い聞かせようとしても。
それは違うと、頭が否定することをやめなかった。

何故なら・・・・あれは、自分の字だったからだ。
物書きである自分が、自分の筆跡を、見誤りようも無い。

だが、そんなこと・・有り得ない・・・・・!

青木は再びベッドに寝そべり、ひたすら、考え続けた。
今宵出会った俳優の、その印象の鮮烈さ。
どうしようもなく惹き込まれ、会いたいと願う自分の思い。
そして・・あのリストの名前・・・・・。

どの位の時間が過ぎたか。
青木は、ガバと起き上がった。
そして立ち上がり、電話の受話器を手にして、ボタンを押す。

「青木一行と申します・・脚本家の。ご無沙汰しております。実は・・・」
懇意にしていた書店の責任者に、話を通す。
後から、突然の電話をするには、少々朝が早いことに気付いたが、そんなことには構っていられなかった。

それから青木は、数日の間、書店や図書館で、薪に関する資料を探し求めた。
業界にしか出回っていない、名鑑も手に入れた。
努力の割には、入手出来る資料は驚く程少なかったが、それでも、青木は手元に入る、薪の情報を読み漁った。

薪は、戦前に結成された劇団の、主演俳優を務めていたこと。
その劇団が、戦中に一度解散し、やがて再び結成され、活動をしていたこと。
映画には、『青い空へ』の一本に主演したのみで、後は、脇役すら出演することは無かったこと。
晩年はしばらく病床に伏し、そして、1978年、66歳でこの世を去ったこと・・・。

1978年・・自分が「スターバトルリング」のヒットで浮かれていた年に、この俳優は、亡くなったのだ。

趣味・嗜好が記述されている物もあった。
音楽は、主にクラシックやジャズを好んで聴いていたらしい。
愛読書も書かれている・・日本や海外の純文学、伝記、哲学書・・・

「『時空と概念』・・?」
聞いたことの無いタイトルのその本に、青木は、興味を覚え、購入した。
今は、薪に関すること、その全てに捉われていた。

それは、アメリカの科学者が書いた、比較的新しい本だった。
人は、ただ単純に、一次元的な時間の流れに居るのではない。
条件が揃えば、自分が願う過去の空間に、心身を移動することさえ、理論上は可能・・・。

「・・・・・・」
あまりにも眉唾物のその内容に、青木は、首をかしげた。
薪は何故、他の愛読書とは毛色の全く違うこの本を、その中に上げていたのだろう。

「過去の空間に・・理論上は可能、か・・・・」
青木は、部屋で一人つぶやいた。

そして今。
自分が・・とんでもない考え方に捉われていることに、気付いた。

薪に会いたい。
どんな手段を使っても。
だが・・まさか、そんな・・・・・。

馬鹿なことだとは分かっていても、今の青木には、自分で自分を、止める術が無かった。
出来ることは、全てやってみたかったのだ。

その本に書かれた条件の一つとは。
自分にも他人にも、移動先の空間に置いて、そこに自分が居ることが自然であると、信じられる状態であること。
例えば、服装や持ち物といった物が、それだ。

青木は、また映画関係のツテを辿り、昭和20年代の空間に、ふさわしい衣装を取り揃えた。
生地や縫製の仕方も、当時を再現してあるという。
実際には、現代の材料を使っているのではあるが、当時の人間に、溶け込むことは出来るだろう。

他にも、様々な手段を使い、当時の小物や、当時の年号の現金等を用意した。

あとは、精神の問題だという。
精神を統一し、まっさらな気持ちで、自分は、その時代に居ると念じるのだ。
気持ちをブラさず、自分を信じ、全てを信じて・・・・・

青木は、取り寄せた衣装を着込み、自室のベッドに横になり、自己暗示を始めた。
だが。

起き上がり、台所へと足を運んだ。
空腹が、精神統一の妨げとなっていた。
このところ、まともな食事を取っていなかったことに、今更ながらに、身体が気付いたのだ。

冷蔵庫の中にも、ろくな物は無かった。
青木は、これから自ら実験する事柄に気持ちが焦り、着替えをするにももどかしく、そのまま、近所の店に行き、弁当を買い求めた。

そして食事をし、改めて身なりを整え、再びベッドに横になった。

青木は、目をつぶる。
そして、自己暗示を始めた。

何年のどこへ行くかは、もう決めてあった。
薪の主演映画が公開されたのは、1949年。
撮影はそれよりも前に行なわれるものだから、前年の、1948年を訪れたい。
あの素晴らしい映画を撮影する、その薪の姿を見たかった。

1948年。
薪が所属するエージェント、劇団がある場所へ。

1948年。
自分はそこに行く。
薪に、会うのだ。

1948年。
狂ってる・・自分は狂っているに違いない。
しばらくして、目が覚めて、自分の無謀さに、一人笑うに違いない。

1948年。
それでも会いたい・・何としても。

彼に。
薪剛、その人に。





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