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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene4:劇場



青木は、真っ暗な闇の中に居た
黒い渦のような物に飲み込まれ、息が出来ない・・・!

胸が苦しい。
そして・・足元が、奈落の底に落ちていく。

手を伸ばす。
そこに、薪の姿がある。
だが届かない・・・・!

『お客様・・』
どこかで、声がする。
息苦しい・・

『お客様、お客様!』
オレは・・オレは・・・

「お客様・・お目覚めになって下さい!」
ハッとして、青木は目を開けた。

つばを飲み込む。
じっとりと、嫌な汗をかいている。
暑苦しい・・・・。

見れば、自分はスリーピースのスーツを身に着け、そのボタンを全部はめ、ネクタイを締めていた。
普段、こんな格好をすることは、まず無い。
こんな姿で寝ていれば、苦しくて当たり前だ。

青木は、身体を起こし、ボタンを外して上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。
そして・・ふと、自分が、ベッドの上ではなく、椅子に腰掛けていることに気が付いた。

「お客様。申し訳ございませんが、退席いただけますか?」
近くで声がして、青木は振り返った。

目の前に立つのは、ベストとネクタイを身に着け、こちらを伺う、眼鏡をかけた細身の男。
「あの、あなたは・・?」
青木は、状況が呑み込めず、ぼんやりとした頭で、そう聞いた。

「私は、こちらの劇場の事務員です。公演はもう終わりましたので、退席いただきたいのですが」
「公演・・?」
「文由座の午後の公演です。とっくに終了して、残っているのはお客様だけです」
「ぶんゆうざ・・・」

その言葉の意味に気付いた瞬間・・
「・・・・!!」
青木は、その場から立ち上がった。

見渡すと、自分は、灯りのともった劇場の客席の中に居た。
『文由座』・・それは、紛れも無く、薪が居た劇団の名前だった。

「お客様・・?」
その場を動かない青木に、事務員がいぶかしげな声を上げる。

「あ・・あの、すみません! ・・今は、いつですか?」
青木は事務員を振り返り、言った。

「・・いつって・・」
事務員は一度絶句したが、ため息を付くと、腕にはめた、皮ベルトの時計を見て、青木に告げる。
「今は、午後6時32分です」
「そうじゃなくて・・」

青木は、気持ちが急くのを感じた。
確かめなければ・・・!

「今は・・今日は、何年の何月何日ですか?」
「は?」
事務員は、青木を見上げて目を見開いたが、頭を振ると、それ以上余計なことを言わず、答えた。

「今日は、昭和23年の11月10日です」

「っやった・・・!!」
間髪入れずに発せられた青木の叫びに、事務員は、益々目を丸くする。

青木は、喜びを噛み締め、両手を握り、天井を仰いだ。
夢だろうか?
だが、今度は開いた両手で、顔をパンパンと叩き、その痛みが、紛れも無く現実だということを、青木に教えてくれた。

「・・とにかく、ご退席下さい。失礼します」
もうこんな寝ぼけた男と付き合うのはこりごりだとでも言うように、事務員は、青木に背を向け、遠ざかっていく。

青木は、瞬きをすると、その背に声を掛けた。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
「・・・・・・」

振り返る事務員に、青木は、大またで近付きながら言う。
「すみませんが、薪剛さんは、こちらにいらっしゃるんですか?」
「居るも何も・・今、あなた、こちらで薪さん主演の舞台を見ていたんじゃないですか?」
「あ・・」

何と、ちょうど、薪が立った舞台が終了したところに辿り着いてしまった。
もったいないことをしたと、青木は束の間、落胆する。
だが、すぐに、これからまた見られる機会があるだろうと、思い直した。

「すみません・・ちょっと寝過ごしまして。あの、薪さんは、今どこに?」
「それを聞いて、どうするつもりですか?」
事務員は、怪訝な顔で青木を見上げる。

「実は・・その・・薪さんとは友人で」
「友人?」
「今日、公演を見に来ると約束していたんですが、公演前にお邪魔するのは迷惑かとも思いまして・・まだ、挨拶していないんです。それで・・」
よどみなく嘘が口を付いて出ることに、青木自身が驚いていた。

事務員は首をかしげ、それから、またため息を付き、青木に言った。
「薪さんなら、楽屋にいらっしゃると思いますよ」
「楽屋というと・・」
「ご案内します」

事務員が背を向け、先に歩き出したことに、青木は内心ホッとする。
これ以上何か追及されたら、答えに窮するところだった。

狭い通路を抜け、案内されたドアの前で、青木は、事務員がドアをノックするのを、見ていた。
ここから、薪が顔を出すのだろうか・・そう思うと、急に鼓動が大きくなった。
会いたいと、あんなに願っていたのに、それが今、叶うとなると、何故だか、逃げ出したい思いにすら捉われた。

だが、足はそこから動かない。
逃げ出したい思いよりも、もっと強い思いが、青木をそこにせき止めた。

「はい」
中から聞こえたのは、薪の声ではなかった。
もっと野太い、男の声・・・

「岡部さん、宇野です。薪さんに会いたいという方がいらっしゃいまして」
「薪さんに?」
その声と共に、ドアが開いた。

「こちらの方が、薪さんのご友人だそうで。薪さんにご挨拶をしたいそうです」
「友人?」
宇野の言葉に、明らかに不機嫌な色を含んだ声が、中から顔を出した男の口から出た。

「友人だ親類だと言って、取り入ろうとする関係者や、つきまとう信奉者も居るからな・・」
岡部は、廊下に出て、じろりと青木を見据えた。

岡部は、ガッシリとした体躯と、短い黒髪、鋭い瞳を持つ男だった。
白いワイシャツと、茶色い長ズボンを身に着け、まくった袖から見える手首から肘は、腕毛に覆われ、顔も、短いヒゲに覆われていた。

岡部は、下から上まで、青木に視線を泳がせると、
「・・デカいな。役者志望か?」
そう言った。

「いえ、そういうわけではありません。オレはただ・・」
「いずれにせよ、薪さんは今、舞台がハネたばかりで疲れている。用事があるなら、また出直してくるんだな」
「そんな・・!」

宇野は、岡部と青木のやりとりを、じっと見ている。
青木は、何故宇野が、自分を追及することなく、あっさりとここまで通したのかが、分かった気がした。
薪に会いたいという人間は、こうして、岡部が取り次ぎ、追い払っているのだろう。

青木は、焦り始めた。
せっかくここまで来られたというのに。
自分は、薪に会うことは叶わないのだろうか。

「岡部」
そこで、部屋の中から、声がした。

青木は、そのほんの一言を聞いただけで、そこに、一陣の柔らかな風が吹いたような、錯覚を覚えた。
この滑らかなテノールは・・・・

「何事だ?岡部・・」
「何でもありません!」
岡部が慌てて言ったが、声の主はもう、入り口まで来ていた。
開いたドアから、その顔が覗く。

「一体どうし・・」
言いかけ、薪は目を上げる。
そして、言葉が止まった。

彼らは、そこに居た。

薪の視線の先には、青木が。
青木の視線の先には・・・薪が。





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