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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


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Scene5:街灯



「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
薪は青木を、青木は薪を、宇野は、そんな二人を交互に見つめていた。

青木は、そこに立つ、一人の俳優を見ていた。

薪は、紺地のかすりの浴衣姿だった。
舞台衣装から着替え、舞台メイクを落としたところだと思われた。

スクリーンで見た時も、男性とは思えない細身の身体だと思ったが、実物は、もっと華奢だった。
肩幅は狭く、浴衣の前合わせから見える鎖骨が浮き出、そこから白く細い首が伸びている。

その上に乗った頭も小さく、そして・・白黒映画ではよく分からなかったが、髪は、柔らかな栗色だった。
真っ白な顔のその肌には、シミもシワも一つも無い。
そして、素顔だというのに、舞台メイクがまだ施されているかと見紛う程の、くっきりとした顔立ち。

髪同様、映画では分からなかった瞳の色は、淡い茶色で、それが、青木を見ながら、好奇心に押されたかのように、揺らめいた。

映画の中で輝いているスターでも、ひとたびスクリーンから離れると、冴えない印象を与える人間も、少なからず居る。
だが、薪はそうではなかった。

スクリーンと同じように・・いや、それ以上に、鮮やかな光を放っていた。
青木は、薪に出会えたら言うべきだった言葉の数々の、その全てを、失った・・・。

沈黙を破ったのは、岡部だった。

「薪さんは、何も気にせんで下さい。ただの売り込み野郎ですよ」
「売り込み・・?」
青木は、それが自分を指しているのだと気付くと、すぐに否定した。

「違います!さっきも言いましたが、役者志望とか、そういうわけではありません」
「お前は・・もういいから出て行け」
「じゃあ、誰なんだ?」
「え・・?」

薪の問いに、残りの3人が、一斉に薪に目を注ぐ。
薪は、繰り返す。
「お前は一体、誰なんだ?」

「あ・・」
青木は、今度は自分に集中する視線を感じながら、言った。
「あの、オレは、青木一行といいます。・・脚本家です」

そして、薪を正面から見据え、ニッコリと、笑った。
今、自分は薪と話している、そのことが、信じられなくて。
同時に、嬉しくてたまらなくて。

その笑顔に、薪は、目を見開いて、青木を見つめる。

「脚本家?」
声を上げたのは、岡部だ。

「じゃあ・・舞台の台本を書くのか?」
「いえ、映画の方です」
青木は、岡部の問いに、正直に答える。

「ふう・・ん。じゃあ、例えば、お前が書いた映画作品にはどんな物がある。言ってみろ」
岡部の言葉に、青木は一瞬、答えに詰まる。

「あの・・今はまだ、映画化されてないんです」
これも、正直な答えだ。

「素人か。つまり、自称映画の脚本家で、まだ一つも映画化されていない人間が、何か作意があって、薪さんの友人を装い、今ここに立っていると、そういうことか」
岡部が言い、青木は内心、焦りを覚えた。

「作意だなんて」
「じゃあ聞くが、こちらも納得が行くような、お前が今ここに居る正当な理由が、何かあるのか?」
「それは・・」
青木は、またも返答に詰まった。

自分が今ここに居るのは、薪に、会いたいと望んだからだ。
会いたくてたまらず・・その願いを叶える為に、夢中になった。

だがそもそも、何故会いたいと思ったかと言えば、直接薪に会うことで、いい脚本が書けそうな、そんな予感がしたからだ。
そこに、脚本家としての身勝手な打算は無かったと、果たして言えるのだろうか・・・。

黙り込んだ青木を見て、岡部は、ため息を付き、それから薪に目を向け、確かめる。
「薪さん、こいつは、友人でも知人でもないんでしょう?」
「・・・・・・」
薪は、束の間、青木を見ていたが。

「知らない男だ」
そう言った。

その一言で、もう充分だとばかりに、岡部は、宇野に目配せをすると、薪と共に部屋の中に入り、ドアを閉めた。

「あ・・待って下さい!」
追いすがろうとする青木を、宇野が制する。
「そういうことですから。お引取り下さい・・・分かったろう? もう出て行けよ」
薪や岡部の態度を見て、それまで青木を客と見なして対応していた宇野も、口調がぞんざいになった。

「薪さん・・オレは・・薪さん!」
「しつこい奴だなあ」
叫ぶ青木を、宇野は容赦なく追い立て、青木は、劇場の外まで出されてしまった。

「っ・・・・!!」
目の前で閉まる劇場のドアを、青木は、ただ見守るしか無かった。




薪は、楽屋の奥に座り、鏡に映る自分を見ながら、襟首を手ぬぐいで拭いていた。

「しかし、あいつは・・薪さんの友人を偽ってここに来て、堂々と自己紹介をして。一体、どういうつもりだったんでしょうね」
岡部が、周囲の服や小物を片付けながら、そう言った。

「・・・・・・」
薪は、黙って視線を下に落とす。
胸に去来するのは、たった今、目の前に現れた、男の姿。

「似ている・・」
「え?」
薪のつぶやきに、岡部が振り返る。

「似てるんだ。あいつは・・」
「似てるって・・誰が、誰にですか?」
岡部の問いに薪は答えず、顔を上げ、髪を櫛ですき始めた。

劇団員達が、一斉に、楽屋から、裏口へと続く階段を降りていく。

先頭を歩く薪に、岡部が声を掛ける。
「薪さん、今日の公演も盛況に終わったことですし。どこかで一杯やりませんか?」
「あ、いいですねえ! 久しぶりに、あずさちゃんが居るお店に行きたいんですよね~。でもオレ、今、金が無いんですよ」

控えめとは言いがたい態度で、たかろうとする後輩を振り返り、岡部は言う。
「曽我、誰がみんなで行こうなんて言った? オレがお誘いしたのは、薪さんだけだ」
「そんなあ」
「あ、オレは飲みに行く位の金はありますよ。今日、ひいきの客がおひねりをくれたんで」

笑顔で軽く挙手する団員に、曽我が言う。
「どうせ、お袋さんが駆け付けてくれたとか、そんなんだろ」
「お前・・! あのな、この小池様目当てで、劇場に通う客も居るんだ」

「随分、変わり者の客だな」
「何だとっ!」
「やるか!」
「そこまでだ。金が無い奴は、その分オレが払ってやる」

言いながら割って入ったのは、薪とはまた違うタイプで、客を呼ぶもう一人の看板スターだ。
「いよっ!さすが今井さん!」
「いい男ですね。一生付いていきます!」
「・・お前達、こういう時だけ調子がいいな」

周囲で騒ぐ団員達の声を聞きながら、薪は、裏口から外へ出た。
次の瞬間、ハッとした様子で、顔を上げる。

「大体、お前はさ・・」
なおも言い合う団員の声を、薪が制した。
「シッ。静かにしろ!」

薪が言うと同時に、前方で、車のライトが瞬いた。
キキーーーーーッ!!

「あいつ・・!」
薪が、早足でそこへと急ぐ。

薄暗い街灯の下で、背の高い男が、尻を付いて座り込んでいた。
そこに、車から降りた男が、背の高い男と何か言葉を交わし・・また車に乗り込んで、去っていく。

青木は立ち上がり、服に付いたホコリを落とした。
去っていく車のライトを見ていると、すぐ傍に、人が近付く気配がした。

青木が振り返ると。
「薪さん・・!」
そこには、グレーのコートを着た薪の姿。

薄暗くてハッキリは見えないが、コートの下から伸びているのは、チャコールグレーのスラックスのようだ。
帽子はかぶらず、ネクタイと上着も身に着けず、白いワイシャツの上から直にコートを羽織っている。
この時代の、ぼんやりとした街灯の下でも、薪の頬と鼻筋は、浮き上がって見て取れた。

「何をしている」
薪の言葉に、青木は答える。
「あ・・車にひかれそうになりまして・・。いえ、こちらが飛び出したのが悪いんですが。運転していた方から、怪我は無いか、送って行くかと尋ねられました。大丈夫だからと断わりましたが、とても親切に声を掛けていただいて・・この時代、車を持つのはまだ限られた裕福層だからでしょうか」

「・・・・・・」
薪は、束の間黙り込み、そして言った。
「・・そんなことを聞いてるんじゃない。お前が飛び出してひかれそうになったのは、僕もこの目で見ていた。こんな時間まで、ここで何をしているのかと、聞いている」
「あ・・」

そこに、他の団員達も追いついた。
「薪さん、どうしました?」
「あ?・・お前か。何でまだ、こんなところに居るんだ?」
彼らは口々に、薪と青木に話しかける。

だが二人は、そんな声に答える様子も無く、互いの顔を見たまま、話を続けていた。
「本当に・・どこにも怪我は無いのか?」
「はい。ちょっと手をすりむいた程度で、大丈夫です」

「・・薪さん?」
岡部は、薪の様子を、じっと見つめた。
薪は、一度目を伏せ、ふーっ・・とため息を付くと、くるりと青木に背を向けた。

「え? ま、薪さん?」
スタスタと歩き出す薪に、岡部が追いすがる。
「帰る」
薪は、そう言った。

「えーっ」
「飲みに行かないんですかあ?」
そこに立ち止まり、ざわめく団員達を残して、薪は歩いていく。
それを、じっと見ていた青木が、突然、早足で薪を追いかけ始めた。

「・・おい!」
青木が脇をすり抜け、岡部も負けじと、薪を追う。

「薪さん、あの・・待って下さい!」
青木が追い付き、薪に言う。
薪は、歩調を緩めない。
顔を上げようとも、しない。

「お前も、帰れ」
その言葉に、青木は、ハタと立ち止まった。
「帰る・・・?」

急に困り果てた声を出す青木に、薪は、前を向いたまま数歩進んだが・・結局、立ち止まった。
くるりと振り返り、青木を見上げる。
「・・どうした?」

その場に追い付いた岡部と、目の前に立つ薪を、交互に見ながら、青木は、言った。
「オレ・・帰るところが無いんです」

「は!?」
薪は、眉根を寄せて、青木を見つめる。

「お前、帰る家が無いのか?」
「その・・遠いところから旅してきたもので」
・・嘘は付いていない。

「旅行者か」
そう言ったのは、岡部だ。

薪は言う。
「だったら、宿泊している旅館に戻ればいいだろう」
「・・まだ、泊まるところは探してなかったんです。ここに着いてすぐ、劇場を訪れたもので・・」
「今から探せばいいんじゃないか?もう遅いが、交渉すれば、泊めてくれるところも見つかるだろうが」
岡部が言った。

「それがその・・金が無いんです」
「ああ?」
「・・・!!」
聞き返す岡部に対して、薪は、声も出ない。

「さっき、何かもめてるような声が聞こえた。お前が車の前に飛び出したのは、そのせいか?」
「・・・はい」
「ちょ・・ちょっと待って下さい。もめてたって?何があったんですか?」
薪と青木の会話の展開に、岡部は付いて行けず、割って入った。

薪を振り返り、それから岡部を見て、青木は話す。
「薪さんが・・皆さんが裏口から出て来ると思って、オレは、その前で待っていました。すると、見知らぬ男がぶつかって来たんです。『失礼』と言っていって・・最初は気付かなかったんですが、その男が急に走り出したのを見て、気付きました。それで追おうとしたら、そこに車が」

「気付いたって・・何にだ?」
岡部はまだ、話の内容が見えない。

「財布を・・すられていたんです」

そう言うと、青木は、ガックリと肩を落とした。





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