カウンター


プロフィール

かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


当ブログ拍手頁

最新の公開拍手コメのレスはこちら それ以前の公開拍手コメ&レスは、各記事の拍手ボタンを再度押していただければ読めます 鍵拍手コメにつきましては、拍手をいただいた記事下コメント欄にレスを書いております

所属してます♪


月別アーカイブ


最新記事


最新コメント


検索フォーム


 
Scene6:晴天



青木は、目を開いた。
天井が見える。
窓からは、朝日が差し込んでいる。

ここは・・どこだ?

「・・・・!」
布団をはねのけ、起き上がった。
急いで、辺りを見回す。
目覚めた瞬間、自分が元の世界に戻っているのではないかと、心配になったのだ。

・・そこは、見慣れた自分の部屋ではなかった。
ふーっ・・と、青木は息を吐き、枕元に置いておいた、腕時計を手に取った。
時刻は、7時を過ぎたところだ。

閉められたフスマの向こうでは、盛んに物音がする。
上下の下着姿で寝ていた青木は、布団から這い出すと、畳んでおいたシャツやソックス、スラックスを身に着けた。

そしてフスマを開け、そこに立つ背中に向かって、そっと声を掛けた。
「・・おはようございます」

「遅いお目覚めだな」
そう言って振り返った岡部の手には、二人分の茶碗と箸が握られていた。

「すみません」
言いながら青木は隣室に入り、フスマを閉めた。
「顔を洗うんだったら、外に出たところに、共用の便所と洗面所がある」
岡部はそう言い、青木に白いタオルを放ってよこした。

青木は、外に出た。
タオルを首に巻いて顔を洗い、そのタオルで顔を拭き、空を見上げ、眩しさに手をかざす。

夕べ、スリに財布を奪われ、途方に暮れていた青木に、薪は言った。
「・・仕方ない。今夜は、こいつを泊めてやるしかないだろう」
「えっ!? こんな、見ず知らずの男をですか?」
岡部は声を上げ、青木は、驚きに口を開けて、薪を見つめた。

「岡部、お前のところなら、一人位泊められるだろう?」
「あ・・ああ。オレのところですか・・」
薪の言葉に、岡部は、ハーッ・・と息を吐きながら首を振り、青木は、幾度か瞬きをしてから、納得したようにうつむいた。

「そうですね。うちなら、後輩の奴らを泊めたりもしてますから、布団もありますし」
「そういうことだ」
薪は肩をすくめ、青木を見上げる。

青木は、薪を見つめ、それから岡部を見て・・
「・・すみません。よろしくお願いします」
岡部に向かい、深々と頭を下げた。

青木が頭を上げると、薪はもう、その場に背を向け、去っていくところだった。
青木は、その背を、じっと見送っている。
そんな青木を岡部は見て、もう一度深くため息を付くと、言った。
「来い。こっちだ」

・・そして青木は、岡部の部屋に、泊めてもらうことになったのだ。
途中、警察の派出所に寄り、被害届の手続きもしたが、財布が戻ってくるのは、絶望的と思われた。

「明日になったら、銀行に行って、金を下ろしてこいよ。預金位あるだろう?」
道々岡部に言われ、青木は答える。

「・・今の東京の銀行には、預金してないんです」
「地方銀行を使ってるのか。そうだ、荷物はどうした? 着替えは? どこかに預けてるのか?」
「持ってきてないんです」
「持ってない!?」

岡部は、目を向いて、隣りを歩く青木を見上げる。
青木は言った。
「その・・現地調達しようかと思ってまして」

青木が用意した昭和初期の衣装一式は、身に着けている物だけだった。
更に着替えを用意したところで、時間を旅するのに、一緒に持って行けるかどうかも分からなかった。

それに、当時の現金や財布、ベルトに靴、腕時計に眼鏡といった小物を揃えるだけでも、調達するのに一苦労したのだ。
紙一枚でさえ、1948年よりも未来を思い起こさせる物があると、その時空に留まることを妨げる・・そう、本には書いてあった。

だから、身に着けている以外で必要な物は、現地で購入するつもりでいたのだ。
それが・・・。

「現地調達って・・お前・・」
岡部は、呆れた声を出す。
「そんな考えで・・このご時勢に、夜道に一人で立ってて周囲を警戒もせず財布をすられるとはな・・」
「・・すみません」
これだから田舎者は・・と、岡部はつぶやいていた。

青木は、朝の空を見上げながら、夕べの出来事を思い返し、岡部の言うとおりだと思った。
この時代に居て、財布を取られてしまったら、自分はどうしようもない。
あの時、薪が声を掛けてくれなかったら、自分はどうなっていたのだろう・・・。

終戦後まだ数年のこの時代に生きるというのは、大変なことなのだ。
自分は何て、甘い考えで、ここまで来てしまったのだろう。

部屋に戻ると、岡部が、飯をよそっていた。
「あの・・何かお手伝い出来ることはありますか?」
青木の言葉に、ちゃぶ台の前に座る岡部は、青木を見上げ、言う。
「いいから座れ。この狭い部屋で、そんな図体で立っていられたら落ち着かん」

青木はすぐさま、そこに座った。
そして、並べられた食事を見た途端、あからさまに自分の腹が鳴る音を聞いた。
「・・食べろ」
「いただきます」

岡部が箸を取るのを見て、青木も、食べ始めた。
白い飯に汁物、それに古漬けといった程度の食事だったが、温かい飯は、心底美味かった。

束の間、男二人で、黙々と飯を平らげた。
食べ終えると、岡部は言った。
「とりあえず、金を貸してやるから、家に帰るんだな。お前、どこから来たんだ?」
「・・・・・・」

実際には、都内の賃貸マンションからやって来たのだが、ここでその場所を言ってしまったら、話の筋が通らない。
青木は、実家のある場所の地名を口にした。
「福岡です」

「!・・九州か? そんな遠い所から一人で旅行とは・・お前、いいところのボンボンか?」
一部の余裕のある者でさえ、新婚旅行で熱海に行く程度だったこの時代、岡部の驚きは無理も無かった。

「・・そうか。自称脚本家だったな。東京の映画会社に脚本を送りでもして、反応が無しのつぶてなものだから、直接売り込もうと、勇んで出てきたとでもいうわけか」
「・・・・・・」
青木は、答えようが無い。

「あのな、この業界は、そんなに甘いもんじゃないぞ。諦めて、国に帰れ」
岡部は、首の辺りを掻きながら、話を続ける。
「・・だがな。そんな遠くだとなると、オレも、お前に汽車賃を貸せる程のたくわえは無い。劇団の皆にカンパを募るか・・」

岡部の話を聞いているうちに、青木の胸に、込み上げてくるものがあった。
「岡部さん・・本当にありがとうございます。見ず知らずのオレに、こんなに親切にしていただいて・・感謝します」
青木は、座ったまま頭を下げた。

「・・・・・・」
岡部は、そんな青木の頭を見つめていたが、プイと横を向いて言った。
「困った時は、お互い様だ。皆、そうして生き抜いてきたんだ。何も、お前に限ったことじゃない。それに・・」

「薪さんが、どういうわけか、お前の面倒を見るように言ってきたからな。あの人の言葉に、オレは付いていくだけだ」
岡部の言葉に、青木は、顔を上げる。
夕べは、薪のことばかり見ていて分からなかったが、岡部の鋭い瞳が、薪の名を口にすると、途端に柔和になることに、青木は気が付いた。

「薪さんは・・一体どういう人なんですか?」

青木の問いに、岡部を視線を上げ、
「うちの劇団の・・文由座の座長で、主演俳優だ。それは、舞台を見たお前も知っているだろう」
そう言った。

その舞台は見ていない・・とは言わず、青木は、更に尋ねた。
「薪さんは、今、どこに居るんですか?」
「薪さんなら、銀座のアパートに住んでる」
「銀座!・・それって、この時代でも・・あ、いや・・今も、一等地ですよね」

青木は、驚いて言った。
少なくとも、1981年の世界では、なかなか銀座に住めるものではない。
この時代の舞台俳優とは、そんなに金になるものなのだろうか。
だが、同じ団員である岡部の部屋は、一等地でもなく、和室二間の、簡素な物だが。

「まあな。あの人は、特別なんだ」
「特別って・・」
どういう意味だろう。
思案する青木をよそに、岡部は、空の食器を手に立ち上がった。

「オレは、これから出掛ける。腹が減ったら、ある物を適当に食っていいぞ。大した物は無いが・・」
「出掛けるって・・どこに行かれるんですか? 今日も、公演があるんですか?」
青木は尋ねた。
公演があるのなら、薪の舞台を、今度こそ見てみたかった。

「今日は無い。その代わり、薪さんと後援会に挨拶に行って、午後は稽古だ」
「薪さんと・・」
青木は、つぶやくと、目を上げて言った。

「岡部さん!オレも・・オレも連れて行ってくれませんか?」
「はあ?」
「お願いします!」
青木の言葉に、岡部はやや間を置いたが。

「・・カンパを募るにも、薪さんに相談しなきゃならんしな。邪魔になるなよ」
「はい!」

青木は、ニッコリと笑った。
それは、薪と離れてからこれまでの間に、初めて見せる笑みだった。





関連記事

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

■この記事のトラックバックURL

⇒ http://kanon23.blog36.fc2.com/tb.php/738-97ebfccb

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

■この記事へのトラックバック

 | BLOG TOP |