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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene7:時代



青木と岡部は、共に、銀座の交差点に立っていた。
二人とも、スーツにネクタイ姿で、岡部はソフト帽をかぶっている。

朝はよく晴れていた空が、今は、曇り空になっている。
青木は、周囲の様子に見入っていた。

行き交う自動車、バイク、自転車。
着物姿と洋装の入り交じった歩行者。

そして、青木が立つその通り沿いには、カフェに洋食屋、中華料理店に寿司屋と、飲食店が軒を連ねていた。
しかも、そのいずれもが真新しい。

「凄いですね・・こんなに活気があるなんて」
青木が感心したように言うと、岡部はちらりと店舗を見やり、言う。
「・・この辺りは、一面焼け野原になったからな。終戦から3年立った今になって、次々と店が創業したんだ」
「ああ・・」

青木は、納得したようにうなずく。
そうだ・・空襲を受けて、多くの人が死に、何もかもが無くなって・・それが、自分が住む世界では、あれ程までに発展を遂げた、そのスタートが、ここだったのだ・・・。

「・・・・・・」
青木が沈黙し、何事かを思っている様子を、岡部は、じっと見ていた。

「あ」
岡部が、視線を遠くに移し、声を上げる。
青木も顔を上げると、その先から、薪が歩いてきた。

「薪さん、おはようございます」
「まだ、迎えは来ないのか?」
薪は、岡部の傍に来て立ち止まり、横を向いて、周囲を伺う。

「・・・・・・」
青木は、岡部に続いて、自分も薪に挨拶をしようと思ったが、すぐに用件に入る薪の会話運びに、声を掛けるタイミングを失った。

薪は、ベージュのスリーピース姿だった。
前日の、シャツの上からコートを羽織っていたラフな格好とは違い、ベストのボタンをきちんとはめ、ジャケットを羽織り、ネクタイを締めている。
ネクタイは茶色で、よく見ると、ごく細い金色のラインが入った、レジメンタルだった。

薪は、こちらに近付いた時、一瞬、自分と目を合わせた気がしたが、次の瞬間には、もう横を向いてしまっていた。
薪の横顔は、その鼻筋とアゴのラインの完璧さを、際立たせていた。

「あの・・薪さん!」
青木は、薪のお陰で、岡部の世話になったことを、その礼を薪に言おうと口を開いた。
そこに。

クラシックなフォルムの黒塗りの車が現れ、彼らの目の前に停まった。
制服姿の運転手が降り、開いた後部座席のドアから、薪が車に乗り込んだ。
薪も運転手も、何も言葉を交わさず、まるでそれが当然のように。

「岡部」
薪の一声に促され、岡部は、自分で助手席のドアを開き、そこに乗り込む。

青木は、自分はどうしたものかと戸惑ったが。
「早く乗れ」
薪の言葉に、自分も後部座席に座った。

運転手がドアを閉め、運転席に乗り、車が走り出す。

青木が、車の窓から見える風景を眺めていると、岡部の声がした。
「薪さん。今日は、後援会事務所に行くんじゃなかったんですか?」
「会長に呼ばれたんだ。屋敷に来るようにと」
「・・そうですか」

二人のやりとりを聞いていた青木を見て、岡部が言った。
「こいつは、車に待たせておきますか?」
「いや、連れて行く。けん制になるかもしれない」
「・・・・・・」

けん制? どういう意味だろう?
青木は疑問に思ったが、薪と岡部は、そこで押し黙ってしまった。

車は、東京の中心部を抜け、郊外へと走る。
やがて辿り着いたのは、大きな門のある家。
門が開くと共に、車が敷地内に入っていく。

その先に現れたクラシックな洋館を、青木は、窓に顔を寄せて眺めた。
車から降り玄関に向かうと、ドアが開き、黒いスーツ姿の、執事と思われる男が現れた。

「お待ち致しておりました。薪様・・岡部様」
執事は、ちらりと岡部を見やってから、うやうやしく頭を下げる。
そして、皆がドアの中に入ると、執事は岡部の帽子を預かりながら、薪に向かい、言った。

「主人から、薪様お一人でいらっしゃると伺っておりましたが」
「・・・・・・」
薪は、何も答えない。

「こちらは・・?」
更に執事は、青木を見上げ、薪に尋ねた。

「ボディガードだ」
「っ!?」
薪の言葉に、青木は、声を出さずに驚いた。

「では、お二人には、あちらでお待ちいただいて・・薪様はこちらに」
慇懃に、それでいて有無を言わせぬ口調で、執事は、そう言った。

青木と岡部は、玄関ホールに近い小部屋に通され、薪は、執事に促されて奥へと歩いていく。
岡部は、薪を心配げに見送った。

青木と岡部が、出された飲み物を飲んでいると、パタパタと足音が聞こえてきた。
「坊ちゃま。そちらに行ってはいけません!」
ドアが開き、長袖のシャツと半ズボン姿の男の子が、こちらを覗き込んだ。

何事かと目を向く岡部に対して。
「こんにちは」
青木が、ニッコリ笑って言う。
その笑顔につられたように、子供も、ニッコリと笑う。

「ねえ。おじさん達、お爺ちゃんのお客様なんでしょう? 一緒に遊ぼうよ」
「坊ちゃま」
使用人と思われる若い男が、困った様子で子供をなだめている。

「何をして遊びたい?」
青木の言葉に、使用人の男も、岡部も、青木を振り返る。
「うーんとね・・おじさん、ベーゴマ出来る?」
「ベーゴマかあ・・。普通のコマなら経験あるけど・・」

「やろうよ。こっちにおいでよ!」
「坊ちゃま!」
「お、おい。青木!」




重厚なデスクの向こうで、ワイシャツにセーターを重ね着した男が座っている。
年は、60を少し超えた位だろうか。
いかつい体格で、唇は厚く、鼻も目も大きく、額は広く、白髪交じりの前髪を、後ろに撫で付けている。

彼は、左右の肘掛に肘を付き、指先を組んで、前を見つめている。
その視線の先には・・スリーピースに身を包んだ、俳優の姿。

「話が遠い。もっと近くへ」
男は、肘を付いたまま、相手を手招きした。

「・・・・・」
薪は、数歩、歩み寄った。

「映画の仕事を、断わったそうだね」
「僕は、舞台俳優です」
薪は一言、そう言った。

「そんなことにこだわる必要がどこにある? 今や映画は最大の娯楽だ。小さな劇場で、一部の人間を集めている舞台より、遥かに大勢の客を相手に出来る」
「僕は・・舞台の世界で、生きていきたいと思います」

「舞台をやめろとは言っていない。それはそれで続けたらいい。映画で名前が売れれば、今度は舞台に足を運んでみようという客も増えるだろう。名前が売れ、金が入る。メリットこそあれ、デメリットはどこにも無い。我々、君の後援会としても、旨味は多い」

「僕のではなく、文由座の後援会でしょう?」
静かにそう言う薪に、男は、フッと笑って見せる。

「文由座は、君でもってるんだよ」
「僕だけじゃない。劇団員、全ての力です。誰が欠けても成り立ちません」
「・・綺麗ごとを言うようになったな」

男は口元を上げて笑うと、今度は視線を下げ、デスクの上の茶封筒を指差した。
「持っていきたまえ。映画の企画書と脚本だ」
「必要ありません」
「いいから、持っていけ」
それは、静かな強制だった。

「・・・・・・」
薪は、無言でデスクのすぐ傍まで歩み寄り、封筒に手をかけた。

「っ・・!!」
薪の動きが止まる。

デスクの上に差し出した薪の手に、男の手が、重ねられていた。
そのまま男は立ち上がると、薪の耳に顔を寄せ、言った。
「今度は屋敷ではなく、どこか、別の場所で会おう」

「・・・!」
薪は身をひるがえし、封筒を手に、後ろへと退いた。
その表情は、怒りを秘めている。

「今更、何故そんな態度を取る。私と君の仲で」
「あなたと僕との間に、何があったと言うんです」
「何も無かったと・・そういうつもりかね?」

「戦時中、僕が生き延びられたのは、あなたのお陰だ。それは確かです。だが・・それは、僕自身が望んでいたことではなかった。あの頃の僕は・・僕であって、僕ではなかったんです」

「薪君」
男は、じっと薪を見つめて言い、それから首を横に振った。

「今となっては、何とでも言える。だが君は、私が世話したところに住み続けているだろう」
「いつでも、出る用意はあります。どこに住んだって、僕は構わない」
「治安の悪い安アパートに君を住まわせるなど、考えただけで君の身が心配でね。あそこなら、私の傘下が経営しているから、安心だ」

それから男は、じっと薪の顔を見据え、言った。
「君と、君の劇団の命運は、未だに私が握っていることを忘れるな」

「もう、時代が違うんです」
薪も男を見返し、静かに、しかしキッパリと言った。

「もう、権力のある者にすがらなければ、生きられない時代は終わったんです。皆、自分の力で、望み、努力すれば、道が開ける時代になった・・あなたのやっていることは時代遅れだ。いや、あなた自身が時代の遺物だ。僕はもう、あなたに縛られはしない」

「・・・・・・」
男は束の間、黙って薪を見つめていたが。

「ハッハッ・・ハハ・・」
声を上げて、笑って見せた。
薪は、静かな表情で、それを見ている。

「素晴らしい。薪君、君は本当に素晴らしい役者だ。是非、映画にも出演するべきだ。君の才能が、小さな劇場で埋もれてしまってはもったいない」

笑い声を納めると、今度は冷たい視線を薪に向け、言う。
「今の君の言葉は、飼い犬が吠えてみたようなものだと、受け止めておこう。飼い犬がいくら吠え、庭の中を走り回ったところで、痛みは感じない」

「・・ご用件が済んだようなので、僕はこれで失礼します。団員が待っておりますので」
礼をし、その場を去ろうとする薪に、男は言う。
傍らの窓に歩み寄り、外を見下ろしながら。

「ここから見ていたが、岡部君を伴ったようだね。私は、一人で来るようにと言った筈だが。更に、連れていたのはボディガードだと聞いたが、どういう経緯で雇ったんだ? 確かに、いい体格をしているが、訓練された動きのようには見えなかった。軍の人間の中にも、あんな男を見た覚えは無いが」

「彼は・・海を渡ってきた者です」
「支那人か」
「とにかく・・僕にも、団員達にも、簡単に手出しは出来ないと思って下さい」

失礼します・・と再び言って、薪は、男に背を向ける。

「君が、自由に走り回る姿を見るのも一興だ。だが、飼い犬は飼い犬らしく、主人の敷地内からは出ないことだ。いいな」

声を背に受け、薪は振り返らず、部屋を出て行った。





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