カウンター


プロフィール

かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


当ブログ拍手頁

最新の公開拍手コメのレスはこちら それ以前の公開拍手コメ&レスは、各記事の拍手ボタンを再度押していただければ読めます 鍵拍手コメにつきましては、拍手をいただいた記事下コメント欄にレスを書いております

所属してます♪


月別アーカイブ


最新記事


最新コメント


検索フォーム


 
Scene8:稽古



「薪さん」
戻ってきた薪の姿に、岡部は、ホッとした声を出す。

「・・あいつは?」
「それが・・」
岡部が、部屋の吐き出し窓を指差す。
薪がそちらを見やると、ガラスの向こうに、戯れる子供と大人の姿が見えた。

芝生の上に、布を乗せた台を置き、ベーゴマに興じている、男の子と、そして青木。
薪が、吐き出し窓のガラスを開けると、風が入り込み、白いレースのカーテンが、ふわりと揺れた。

きゃらきゃらと、子供の笑い声が響く。
「おじさん、下っ手くそだなあ」
「初めてなんだから、大目に見てくれよ」

笑顔で頭を掻く青木は、そこで、開いたガラスの向こうに、薪が立っていることに気が付いた。
「薪さん・・!」
「おじさん、次はビー玉で遊ぼうよ」

「・・・・・・」
薪が何も言わず、部屋の向こうに入る様子を見て、青木は男の子に言った。
「ごめん。おじさんは、もう行かなくちゃ」

再び車に乗り込むと、薪は言った。
「あのまま遊んでいたって、良かったんだぞ」
「・・置いていかれても困ります」
「そんな也をしていて、子供みたいな奴だな」
「・・・・・・」

薪は、窓に顔を向けていて、青木からは、薪の表情は見えない。
ただ、白い首筋と、長い睫毛の先だけが、見て取れた。
岡部は助手席から振り返り、そんな二人を見やった。

車は、下町の一角で薪達3人を降ろし、去って行った。
「腹減りましたね。蕎麦でも食いますか」
岡部の言葉に、青木はためらう。
何しろ、自分は一文無しなのだ。

岡部は薪と目を合わせ、それから青木に言う。
「来い」
「はい」

蕎麦屋に入り、薪と岡部が並んで座り、その向かいに青木が座る。
3人で、ざる蕎麦を食べる。
薪は一枚、青木と岡部は、それぞれ二枚。

「薪さん、もう食わないんですか?」
「今日はいい・・食欲が無い」
「薪さんも、二枚以上食べたりするんですか?」

青木は、顔を上げて言う。
薪の細身の身体に、大盛りの蕎麦は、そぐわない気がした。

「薪さんだって、食う時は食う。舞台は、体力を使うからな」
「そうなんですか・・」
薪は、黙々と蕎麦を食べている。
確かにすすり上げているのに、音がほとんど聞こえないのは、何故なのだろう。

ズズズ・・ズルズルッ。
対して、豪快に音を立てて食べていた岡部が、蕎麦を飲み込み、言った。
「そうだ。薪さん、こいつなんですが、金が無くて、国に帰れないんですよ」
岡部は、青木のことを、薪に話して聞かせた。

「・・そんなわけで、オレでは、汽車賃が賄えなくて」
「福岡・・」
蕎麦を食べ終えた薪が、青木を見上げ、言う。
「本当に、海を越えて来たわけだ」
「え?」

最後の一口を飲み込んだ青木が、目を上げる。
だが薪は、それ以上、何も言わなかった。

店を出ると、薪は、持っていた封筒を、岡部に渡した。
「何ですか?」
「企画書と脚本だ・・映画の」

「映画・・!そう言えば、映画『青い空へ』の撮影は、もう済んだんですか?」
青木は、思わず言った。

薪が、この映画の撮影をするところを見たいと思い、この年に来ることを願った。
旅立った日が初夏だったのに、辿り着いたのは、秋も深まったこの季節になったのが、何故なのかは分からない。

もしかしたら、撮影はもう終わってしまっているかもしれない・・。
そんな懸念が、青木の胸をよぎったのだ。

「・・お前」
薪がつぶやくと、岡部は言った。
「何を言ってる? 薪さんは、映画に出演したことは、一度も無いぞ」

青木が薪を見ると、薪の顔は、何故か蒼ざめていた。
「お前が何故・・企画段階の映画のタイトルを知っている?」
「え?」

岡部が封筒の口からその中身を取り出すと、まさしく、『青い空へ』というタイトルの脚本が出てきた。
「あ・・」
青木は、幾度か瞬きをした。

そうか・・この時代は、80年代の世界と違い、撮影から公開までの期間が短いのだ。
1949年公開の映画だから、前年には撮影が行なわれると思っていたが、まだこの時点では、企画中だったのだ。

青木が、内心で思い巡らしていると、薪は言った。
「岡部でさえ、タイトルまでは、この瞬間まで知らなかった筈だ。それを、何故お前が知っている? 昨日上京したばかりの脚本家志望の男なら、それを知るわけが無い。映画会社の人間か? それとも・・。誰の差し金で、何が目的だ。僕に近付いて、一体何をしようとした・・?」

「え・・!」
そこまで言われて、青木はやっと、薪が蒼ざめているのは、怒りのせいだと気が付いた。

「あの・・」
青木は、何かを言おうとして、言葉を呑み込んだ。
この場で、どう説明したらいいのだろう・・。

「お前は最初、僕の友人だと偽っていたな。財布をすられたと言うのも、嘘なのか?」
「いえ、それは・・」
青木が口を開いたが、薪はもう、青木に背を向けてしまっていた。
岡部は、ちらりと青木を見たが、すぐに、早足で歩く薪の後を追った。

「あ・・・・」
青木は、その場に立ち尽くした。
未来に居たからこそ知っている情報を、不用意に口にした自分が悔やまれた。

本当のことを言ったところで、信じてもらえるものではないだろう。
かと言って、ことを誤魔化し続けても、不審がられるのは、当然だとも思う。
一体、どうすれば・・。

ぼんやりと、二人が去った後を見送っていたが、やがて、ハッとして顔を上げた。
二人が曲がった、1ブロック先の路地を曲がる。

二人の姿は、どこにも無い。
落ち込み、青木は目を伏せたが、ふと顔を上げ、目の前にある建物を見上げる。
その入り口には、『文由座』と書かれた、木の看板があった。

入り口から入るのもためらわれ、青木は、建物の壁に沿って歩いた。
裏手に出ると、開け放たれた窓があった。
覗き込む気が無くても、青木の身長では、自然に中の様子が目に入ってしまう。

随分広い・・木造の体育館のような場所だ。
そこで、シャツ姿や浴衣姿の人間が入り交じり、大きな動作と共に、声を張り上げている。

岡部は、午後は稽古があると言っていた。
それを聞いて、てっきり、実際の舞台を使っての稽古だと青木は思い込んでいたのだが、いつも劇場を使用出来るとは限らないのだろう。
ここは、文由座専用の稽古場と思われた。

そこに。
「そうじゃない!前にも言ったろう!!」
よく通る、そして鋭い声が響いた。

「小池!セリフが早過ぎる!間を置くという意味が、お前は分からないのか!」
「曽我!余計な動作を入れるな!そんなことをするのは、千年早い!」
「今井!お前は既に、上手で待機している筈だ!」
薪が、団員達を、次々と叱り飛ばす。
そして・・

「岡部!登場の間合いは、お前が計る筈だろう!これまでの稽古で、一体何をやっていた!」
岡部の身体をめがけて、何かが飛んだ。
「ヒッ・・!」
皆が、一斉に身を縮める。

バシッ!
「・・・・・・」
岡部の肩に、薪が放った台本がぶつかり、木の床に落ちた。
皆、息を潜めて、その様子を見ていたが・・・。

「申し訳ありません」
岡部は言い、身をかがめて台本を拾った。

「続けろ」
薪は言い、その場にあぐらをかいて座った。
そして、そそくさと持ち場に戻った団員達の稽古を、アゴに手を当て、じっと見ている。

「・・・・・・」
青木は、窓の外から、薪の姿を、唖然として見つめた。
薪が、こんな凄まじい剣幕で怒鳴る人間だったとは。
行動を共にし、信頼していると思えた岡部さえ・・・。

・・いや、だからこそ。
団員達と、信頼関係が成り立っているからこそ、こんな稽古が出来るのかもしれない。

薪は、白いシャツに、カーキ色の長ズボン姿だった。
スリーピースのスラックスとは違うから、稽古着に着替えたのだろう。

青木は、稽古の様子に見とれた。
いわゆる通し稽古ではない。
同じ場面を、繰り返し繰り返し、やっている。

何時間も、休憩も取らずに。
薪は、演じていない。
主演俳優が、演出に専念するとは、珍しい光景のように思えた。

白熱した稽古が続き、団員達が、息を付いている。
立って指示する薪の前髪の間にも、玉の汗が浮き出ていた。

「薪さん」
岡部が、薪に近付く。

「何だ」
「少し、休憩を取った方がいいんじゃないですか?」
「まだだ」
「皆が、疲れてきています。それに薪さんも、お顔の色が・・・っ!」

岡部が目を見開く。
薪の身体が崩折れ、床にぶつかりそうになった身体を、岡部が間一髪、腕を掴んで支えた。

「薪さん!」
「薪さんっ!!」
口々に叫ぶ団員達の中に、飛び込んでくる人影があった。

「お前・・!」
岡部は、青木の姿に叫ぶ。

「どうしたんですか? 薪さんは・・!」
「・・まあいい。お前も手伝え。そこ、ドアを開けろ! 誰か、控え室に布団を敷け。それから、冷たい水を用意するんだ!」




こちらを見つめる、二つの瞳が見える。
優しく、温かい眼差し。

それが急に陰りを見せ、やがて、見えなくなる。

待て。
行くな・・・・・!!

「・・・!」
冷たい感触に、薪は目を開ける。
感じるのは、額に乗せられたタオルの感触。
見えるのは・・ヒゲをたくわえた顔。

「薪さん・・」
岡部は、横になっている薪を見下ろし、言う。
「大分汗をかいているので、着替えた方がいいですね。替えのシャツは持ってきてないでしょう? 浴衣だったら、ここに置いてあるんで・・」

「岡部」
薪は、岡部の言葉をさえぎった。

「あいつ・・どうした?」
「あいつって・・」
岡部は、聞き返す。

「青木。・・窓からこちらを見ていたろう。どうしてる?もう居なくなったか?」
「・・薪さんも気付いてらしたんですか」
岡部は、青木が見ていることに、とうに気付いてはいたが、薪の集中力を切らすことも無いと思い、何も言わず、放っておいたのだ。

「あいつなら、稽古場の掃除をしてますよ」
「・・?」
「窓から、土足で上がり込んだんです。床が汚れたんで、ついでに全体を掃除させてます」

その頃、青木は、身体を床にかがめ、せっせと雑巾がけをしていた。

「・・・・・・」
天井を見つめる薪に、岡部は言う。
「変わった奴ですよね。一体何が目的なのか、皆目見当が付かない。ただ・・」
薪は岡部の顔に視線を移し、その続きを待った。

「あいつが、財布をすられたというのは、嘘ではないと思います。あいつの目的は分かりませんが、少なくとも、薪さんを・・オレ達を、騙そうとしているようには見えなかった」
「・・分かっている」
薪の言葉に、岡部は目を見開く。

「分かっている。あの目は・・人を騙そうとしている目じゃない。あの目は・・似ている・・」
「似てるって・・昨日も、薪さん・・」
岡部はそこで、言葉を途切らせた。

薪も岡部も、それぞれに、何かを思い巡らしているようだった。





関連記事

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

■この記事のトラックバックURL

⇒ http://kanon23.blog36.fc2.com/tb.php/740-378ef764

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

■この記事へのトラックバック

 | BLOG TOP |