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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene9:座長



「おーい!ミヨシ米店から、にぎり飯が届いたぞ!」
その声に、団員達は一斉に入り口に集まり、次々とにぎり飯が入った桶を運ぶ。

「美味そ~!」
「お前、その手、洗ってこいよ」
「何だお前、米店のお嬢さんに、またフラれたのか?」
「自分でオート三輪を運転してくるような女だぞ。もう諦めたらどうだ?」

わいわいと話しながら、稽古場の一角に車座になって、にぎり飯をパクつく団員達。

「おい」
肩を叩かれ、床を磨いていた青木は、振り返った。
声を掛けてきたのは、小池と呼ばれていた俳優だ。

「お前も食え」
親指を、団員達が座る方に向け、小池は言った。

「はい。・・ありがとうございます」
勧められるままに、青木は、にぎり飯を手にして、団員達より一歩下がったところに座った。
一口かじると、その美味さが、腹に沁みこんで来た。

「おい、間抜け野郎、もっと食うか?」
小池が、桶の一つを青木に差し出しながら、言う。
「・・・・・・」
青木が、一瞬無言になって小池を見ると、小池は、肩をすくめて言う。

「この呼び方が気に入らないなら、名前を教えろ」
「・・青木です」
「オレは小池だ」
改めて名を言う相手に頭を下げ、青木は、にぎり飯を手に取った。

それを見ていた坊主頭の男が、団員達の輪の中から抜け出し、青木に近付いてきて、言った。
「オレは曽我」
そう言って、その男は、その場に座る。

「お前さ、夕べ財布をすられて、岡部さんの世話になってるんだって?」
「誰から聞いたんですか?」
青木の問いに、小池が答える。
「はるばる上京してきたはいいものの、財布をすられて文無しになった間抜け・・岡部さんが、そう言ってたぞ」

突然飛び込んできた男に、団員達は驚きを隠せなかった。
一体誰なのだという彼らの疑問に、岡部がそう、説明したのだった。

「そうですか。・・それ以外は、何か?」
「オレ達が聞いたのは、それだけだ」
曽我と小池の言葉に、青木は、岡部が自分を不審人物だと皆に言わないでくれたのだと・・そう思った。

「金が無くて帰れないと聞いたが、都合を付けられないでもないぞ」
「今井さん」
首だけ後ろを振り返り、青木に声を掛ける団員の名を、曽我が呼んだ。

「皆、懐は寂しいが、力を合わせれば、何とかなる」
今井はそれだけ言うと、また、顔を戻し、他の団員達と談笑し始めた。

「・・・・・・」
皆の心遣いに、青木は、またも胸がいっぱいになる。

それから青木は、疑問に思っていたことを、口にした。
「薪さんは・・演出もやるんですか?」

曽我と小池は、顔を見合わせ、そして言う。
「薪さんは、俳優をやりながら、演出もやる。そういう人なんだ」
「まあ確かに、新劇の世界で、座長と演出と俳優を兼ねるっていうのは、珍しいけどな」
「元々は、演出の方に興味があったって、聞いたことがあるぞ」

「座長だけでも、岡部さんがやってもいいんじゃないかと思うけどな。実際、実質的なことは、岡部さんが担ってる部分も多いし。文由座が再結成された当初から居るんだしな」
「再結成・・それ以前の劇団員の方は、薪さん以外、居ないんですか?」

青木は、薪のプロフィールを思い出していた。
文由座は、戦時中に一度解散し、戦後に再び劇団としての活動を始めたとあった。

「居ないだろう?」
「だって・・最初、薪さんと岡部さんと、オレ達だけだったもんな」
「そうなんですか。じゃあ、薪さんだけが、座長として劇団を続けているわけですか」

青木が言うと、曽我が返した。
「いや・・以前は、座長は別に居たって、オレは聞いてるけど」
「そうなのか? ま、何にせよ、今の薪さんは、人に座長や演出を任せたくないんだろうな。まあ、あの性格じゃ、誰も薪さんには逆らえないからなあ・・」

「あの性格とは、どんな性格だ?」
すぐ傍で聞こえたテノールの声に、曽我と小池が凍りついた。
曽我は、そっと振り返ったが、小池は、振り返ることも出来ない。

「是非、説明を聞きたいところだが」
小池の肩に、長い指を持つ白い手が、置かれた。

「小池。飯を食い終わったら、それぞれ準備運動を済ませてから、稽古の続きを始める」
「・・・はい」
「お前の出番から始めるからな。すぐに取り掛かれるよう、皆より先に準備をしておけ」
「はい・・」
「腹筋運動は、自分が望ましいと思う回数をこなせよ」
「っ・・・!」

小池は、早々にその場を離れると、稽古場の反対側で、黙々と腹筋運動を始めた。
「薪さん・・食後にあんなに飛ばしちゃ、かえってマズイんじゃないですかね」
薪の後ろに居た岡部が、小池の様子を見て、言った。

「僕は、自分の判断でやれと言っただけだ。何回やれと指示した覚えは無い」
「・・・・・・」

岡部は、もう何も言わなかった。
曽我は、とうに他の団員達の輪の中へと戻っている。

青木も、言葉を失っていた。
小池が言っていた、薪の「あの性格」と言うのは、稽古に厳しい姿勢を指すのかと思っていたが、どうやら、それだけではないようだ。

食事を終え、桶を片付ける者、用を足しに行く者、準備運動や発声練習を始める者など、それぞれに散らばっていく。

「・・薪さん!」
浴衣姿で、台本を手に、立って岡部と話している薪に、青木は声を掛けた。
薪が、振り返る。

「あの・・身体はもう、いいんですか?」
青木をちらりと見上げ、すぐに顔を向こうに戻し、薪は言う。
「少し、疲れが出ただけだ。問題無い」

薪が、控え室に横たえられた後、青木は、岡部に聞いた。
「薪さんは・・どこか、具合が悪いんですか?」
「うん?」

岡部は、青木の顔を見て、それから、言った。
「別に。そういうわけじゃない。疲れがたまってたんだろう。よくあることだ」
「え!? こういうことが、よくあるんですか?」
青木は、驚いた様子で言う。

「あ・・いや、そうでもない」
「え」
青木は、腑に落ちない顔だ。

岡部にしてみれば、薪が倒れた姿を、幾度か目にしているのだが、他の団員達は、初めて見た筈だ。
余計なことを言うものではない。

そんなやりとりがあって、青木は、薪の身を案じていた。
夕べからこれまでの、たった一日の間に、何て多くの薪の顔を見ることになったのだろう。
そして今は、まるで何ごとも無かったかのように、平静な顔で、台本に向かう、薪。

自分は、何故、ここに居るのだろう。
青木は、改めて思う。

薪に直接会い、脚本を書きたいと、そう思った。
自分はもう充分、薪の様々な顔を、見ることが出来た。
胸の中に、薪を主役に据えたストーリーが、多々見える気がした。

ここに居ては、周囲に迷惑を掛けるばかりだ。
もう・・元の世界に戻った方がいいのかもしれない。

だが、どうやって・・?

青木は、自分が、元の時代に戻ることまで、深く考えていなかったことに気が付いた。
何しろ、過去に飛べること自体、半信半疑だったのだ。
無我夢中で実行に移しはしたが、その先のことまでは、考える余裕が無かった。
それが思いがけず、こうして成功してしまった。

・・あの本の理論によれば、また、同じことをすれば、元の世界に戻れる筈だ。
精神を統一し、その時代に帰ると念じる・・そうすれば。

だが。
元の世界に戻ったら、また、この世界に来られるのだろうか。
薪が居る世界に、再び、戻ってこられるという確証が、どこにあるだろう。

そう思うと。
青木は、出来うる限りこの世界に留まりたい・・そう願う気持ちが押し寄せるのだった。

「青木」
声を掛けられ、青木は、振り返った。

「掃除道具を運び出せ。それから、控え室も片付けておけ」
「はい!」
岡部に言われ、青木は、バケツや箒を手に、その場から出て行った。

「やたら素直に動きますね」
青木を見送りながら、今井が言う。
「タダ飯食らってるんだ。これ位やらせないとな」
岡部は言った。

実際、青木としても、動いている方が良かった。
金を失くし、皆に迷惑を掛けている自分が、少しでも役に立つのなら、その方が気持ちが楽になる。

控え室に入り、その場にあった椅子や座布団を並べ直し、茶碗を洗う。
畳敷きの部分に敷かれていた布団は、きちんと畳んで、隅に重ねて置いてあった。

室内の片付けを終え、青木は、畳に座る。
先程まで、薪がここで休んでいたのだと思うと、何か・・胸が疼く気持ちになる。
それは、倒れるまでに消耗した、薪の身が心配だからだろう。

座ってみたら、ドッと疲れが出た。
考えてみれば、夕べは、フスマ越しに聞こえる岡部のイビキと、この世界に来た興奮とで、明け方まで眠れなかった。
それに、慣れない雑巾掛けなどしたものだから、身体のあちこちが軋んでいる

ほんの少し・・そう思い、青木は、畳の上に横になった。
自分の腕を枕に、横向きになる。
瞼が、自然に降りてくる。

瞼の中に、薪の姿が見えた。
何故自分は、こんなにも、薪を追いかけているのだろう。
脚本のイメージを求めてのことなら、もう、ここから去ってもいい筈だ。

けれど自分は。
何故・・・・・。

答えの出ない問いを繰り返しながら、青木は、眠りに落ちていった。





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