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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene11:弾圧



その名は、鈴木克洋。
演劇の理想のもとに、共に、文由劇団を設立した、友。

劇団長は、鈴木が務めることになった。
「演出を手掛けたい」
そう言う薪と、責任を振り分ける形を取った。

薪にとって、鈴木と共に歩む日々は、新鮮さに満ちていた。
新劇の発展と共に、劇団の未来も、明るい光に溢れているように・・思えた。

「薪、ここに居たのか」
舞台の道具倉庫の奥に、鈴木は足を踏み入れた。

「ああ。以前使った道具を、今度の芝居でも使えないかと思って・・」
そう言う薪は、棚に立て掛けたハシゴに登っていた。

「取ろうか?」
鈴木が近寄り、ハシゴに手を掛け、薪に声を掛ける。
「大丈夫だ。そこに・・あった!」
薪は、棚の奥に置かれた木箱に手を掛けた。

「たぶんこれだ」
言いながら、木箱を手前に引き出して・・・

ガッ!
「っ!!」

薪は、予想以上に重かった木箱を手に受け止めようとして、ハシゴから足を滑らせてしまった。

ガタガタガタッ!!・・・・。
派手な音を立てて、木箱と、その中に入っていた小道具の数々が落ちた。

「・・・ゲホッ、ゲホッ」
舞い上がるホコリに咳き込みながら、薪は、自分の身体を床に打ち付けることも、落ちた道具を身に受けることも無く、無事であることに気が付いた。

それは何故かと言えば、自分の身体が、鈴木の身体に納まっていたからだった。
ハシゴから足を滑らせた薪を、鈴木は背後から腕に受け止め、その反動で床に尻を付きながらも、とっさに胸の中に薪を抱き込み、自分の背を盾にして、薪の身を守ったのだ。

・・ゴトン。
棚の先に引っ掛かっていた、最後の小道具・・パイプが落下し、鈴木の頭にぶつかり、床に転がった。

「・・ダッ!」
それまで黙っていた鈴木が、その瞬間に、声を出した。
薪を抱いていた腕をほどき、手で自分の頭をさする。

「鈴木!」
薪は叫び、振り返る。

周囲には、木箱が横倒しになり、小道具が散らばっていた。
その多くが、鈴木の身体にぶつかったに違いなかった。

「鈴木・・大丈夫か?」
薪は膝を付き、片手を鈴木の肩に、もう片方の手を鈴木の頭に置いて、その様子を伺った。
「オレは無事だ。薪は、怪我は無いか?」
全てを自分の身で受けながら、薪を気遣う鈴木の言葉に、薪の声が、かすれた。

「怪我はしていない・・どこも」
「そうか。良かった」
床に座ったまま、鈴木は、ニッコリと笑って、そう言った。

それから二人は、散らばった道具を、拾い始めた。
集めた道具を木箱に納めながら、二人は話す。

「薪、映画出演の打診・・本当に、断わっていいのか?」
「ああ」
薪は、拾った小道具のステッキを手にして立ち、言った。

「今の映画界が、何を上映してると思う? 国家に要請された戦争賛美映画ばかりだ。映画だって、文学や演劇と同じ、自由な表現の場であるべきなのに・・。僕は、そんな世界に足を踏み入れる気は無い」
「確かにな。だが、映画界の人間が皆、好きでやっているとは限らないだろう」

「とにかく、僕は、この世界で、舞台の上で生きて行きたい」
薪はキッパリと言い、くるくるとステッキを回すと、それを床に付いて、肩をすくめた。

「・・・・・・」
鈴木は、そんな薪を見つめ、それからクスッと笑い、薪のステッキに手を伸ばす。
薪がステッキを渡し、床にしゃがんでいた鈴木が、それを木箱に納める。

木箱のフタを閉めながら、鈴木は言う。
「薪がそう言うなら、それでいい。だが、そういうことは、あまり大きな声で口にしない方がいい。今や、演劇関係者にも、特高警察の手が伸びているという噂だ」
「大丈夫だ。お前と共に居れば、恐い物は無い」
「薪・・」

鈴木は薪を見上げ、微笑む。
「そうだな。薪、『ペンは剣よりも強し』という言葉を知ってるか?」
「リットンの戯曲か」
「言論や思想は、武力よりも力があるんだ。オレ達は、舞台を通して、自由に表現し、世の中に訴えることが出来るんだ」

薪と鈴木は見つめ合い、共に、微笑んだ。

それから鈴木は立ち上がり、木箱を棚に乗せた。
そして言った。
「今度のサルトルの演目は、きっと、オレ達、文由劇団の新境地になるな」
「ああ」

薪が返事を返した、その時。

突然、開いたドアから、騒ぎが聞こえた。
人々の悲鳴、怒声。
多数の靴音。

「・・・!!」
薪と鈴木は、ドアに向かって走る。
そして、鈴木は、ドアの一歩手前で立ち止まると、薪に言った。

「薪、ここから出るな!」
「何を・・」

鈴木は薪を振り返る。
それは、ほんの一瞬のこと。

「オレは、お前を・・・・・・」

鈴木は、そう、つぶやいたようだった。
そして素早く鈴木はドアの外に出、ドアを閉めて、鍵を掛けた。

「鈴木・・開けろ!・・鈴木!!」
道具倉庫は、盗難に合わぬよう、窓も無く、丈夫なドアと鍵で守られていた。
薪がドアにすがりつくも、その扉は開かなかった。

劇団員達は、稽古場の隅に、集められていた。
口ひげをたくわえた制服姿の男が、サーベルを手に、その前を歩く。

「責任者は、誰だ?」
言いながら、男は、ピタリと止まった。

「お前か?」
「ヒッ・・!」
視線を向けられた団員は、悲鳴を呑み込む。

「それとも・・お前か?」
男は、サーベルを、団員の首にあてがった。

「オレです」
届いた声に、男は振り返った。
奥から、長身の男性が現れた。

鈴木は、躊躇せず、男に向かって歩いた。
その目の前に辿り着くと、言った。

「オレが、文由劇団の団長です」
劇団の人間らしい、低音だが澄んだ、その場に響き渡る声だった。

「そうか。お前が・・」
男が言うなり、鈴木の前に、何かが飛んだ。

ガシッ!!

「ぐっ・・!」
思わず悲鳴を上げたのは、見ていた団員達の方だった。
男は、サーベルの柄で、鈴木の顔を殴り付けたのだった。

その場に倒れた鈴木は、顔を上げ、男を睨み付けた。
その唇には、血が滲んでいた。

「国家に逆らう非国民めが・・!」
男の言葉に、鈴木は立ち上がり、言う。
「オレ達は、国家に逆らう気はありません。ただ、芝居を通して、自由な表現をしているだけです」
「ふん・・同じことだ」

男は、鈴木の首にサーベルをあてがいながら、言った。
「取調べ室でも、そんな口が聞けるかどうか」

男が合図をし、部下と思われる男達が、鈴木の腕を後ろ出に捕まえた。

「団長!」
「鈴木さん・・!」

団員達が、口々に鈴木の名を呼ぶ。
だが、男達に睨み付けられ、それ以上、何も言うことが出来ない。

「心配するな。すぐに戻ってくる。後を・・・頼む」

最後の言葉を口にする際、鈴木は、男達に悟られないよう、そっと視線を奥に向けた。
それを見て、団員の一人も、そっと視線を奥に泳がせ、それから、黙ってうなずいた。

「来い!」
男達に引っ張られ、鈴木は、そこから去って行った。

薪が、ぐったりと寄りかかっていた、倉庫のドアが開けられたのは、彼らが、完全に去った後のことだった。
多くを聞くまでもなく、鍵を開けた団員の様子に、薪は何が起こったかを察し、即座にそこから走り出た。

外に出ても、鈴木は居ない。
どこにも・・・居なかった。

鈴木を救い出そうと、薪は、あらゆる手を尽くした。
だが、その全ては徒労に終わり。

鈴木は、二度と・・・戻ってこなかった。




「お前は・・誰だ?」
そうつぶやいた後、黙り込んだ薪を、青木も、黙って見つめていた。

薪は、青木を前に、鈴木のことを、思い返していた。
だが、青木に話すつもりは無かった。
話したところで・・どうなると言うのだろう。

あの時。
鈴木よりも、一歩、自分が先にドアを出ていたら。
どれ程、繰り返し、悔やんだことか。

「薪さん」

だが、もう、終わったことだ。
全ては・・過ぎ去り、取り返しは付かない。
失った物は、二度と戻らない・・・・・。

「薪さん・・!」

薪は、ハッとした。
青木が、薪の顔を覗き込み、手を伸ばし・・その頬に触れたのだ。

青木の大きな手が、薪の頬を撫でる。
そこで初めて、薪は、自分の頬を、涙が伝っていたことに気が付いた。

青木の手は温かく、薪の頬を包み込んだ。

「うっ・・くっ・・」
薪は、嗚咽を漏らした。
薪の頬に、後から後から涙が溢れ、青木の手を濡らす。

青木は、他にどうすることも出来ず、ただ、薪の涙をぬぐい続けた。





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