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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene12:台本



岡部は、銭湯で湯に浸かりながら、目を閉じていた。

出掛ける際、青木は、まだ眠っていた。
その傍らで、薪は、本を開いていた。

青木は、どこか得体が知れない男だ。
だが薪は、そんな青木を、信用しているようだった。
岡部自身、青木のことは、悪い奴ではないと思う。
滲み出る人柄というものは、大体伝わってくるものだ。

だが、薪の場合は、それだけではないように思えた。
きっと、薪が言っていた「似ている」ということが、作用しているのだろう。
一体、誰に似ているというのか・・・。

岡部には、ハッキリとは分からない。
だが、思い当たるフシはあった。

岡部は、薪と出会った頃を思い出す。

戦時中、岡部は兵士として戦地に赴き、負傷した。
肩には、まだその時の傷跡が残っている。
戦争が終結して、真っ先に故国に帰ることが出来たのは、自分が負傷兵であったから優先された為であり、また、港に近い陸軍病院に収容されていたせいでもあった。

無事に故国に帰り、戦後の混乱の中、生き抜く為に必死で働いた。
だが、身体の傷は癒えても、心の傷は、なかなか癒えるものではなかった。
戦地の悪夢と、多くの戦友を残し、生きて帰った自分を責める気持ちが、絶えず自分の中にあった。

あの日、何故、劇場に入ろうなんて思ったのか、それはもう覚えていない。
演劇がどんな物かもよく知らないままに、ふらりと入ったそこで、岡部は薪を初めて見たのだ。

それは、一人芝居だった。
派手な演芸を期待したのか、こんな物はつまらないと、席を立ち去る客も居た。
だが岡部は、最後まで、その舞台から、目を離すことが出来なかった。

それからずっと、岡部は、薪と共に居る。

最初は、薪の奔放さに、振り回されもした。
だがある日、岡部は見てしまったのだ。

「うるさい!気に入らないなら、いつでも出て行け!」
癇癪を起こした薪に、岡部はため息を付き、薪を一人、楽屋に残して外へ出た。
だが・・ふと思い直し、戻ってみたのだ。
すると。

ドア越しに、何かが割れる音が聞こえ、岡部は即座にドアを開けた。
そこには・・・・

楽屋の座卓の上に乗っていた湯飲み茶碗が割れ、周囲に水が飛び散っていた。
その中で、茶碗のかけらの中に腕を付き、座卓の上を繰り返し叩く薪が居た。

「な・・何をしてるんです!!」
岡部が言っても、薪は、こぶしの動きを止めようとしない。

岡部は慌てて薪に走り寄り、その腕を掴んだ。
そのまま、薪の腕を上に掴み上げると、その下にある顔から、涙がこぼれ落ちていることに気が付いた。

「薪さん、どうしたんですか。薪さん!?」
薪は・・・その場で気を失った。

茶碗のかけらで、薪の白い腕は、細かな傷が出来ていた。
岡部は、薪を医者に診せ、傷の手当てを受けさせた。

一体、何が薪を苦しめるのか。
岡部は、あえて尋ねなかった。

自分と同じように。
薪にも、癒えない傷があるのだ。

だが、この一件を境に、薪は、ぽつぽつと、以前の劇団のことを話すようになった。
団長が逮捕され・・そして、戻らなかったことも。

やがて、徐々に団員も増え、薪も最近は、精神的に落ち着いているように見えた。
それが、ここに来てまた・・倒れるとは。

今度の、薪への映画出演の誘いは、再三に渡っていた。
後援会側からも、それを受けるように言ってきている。
だが、薪は断わり続け、余計に、舞台稽古に打ち込んでいた。
そういった、心身の疲労が、溜まったせいだろう。

あるいは・・・・。

あの、青木という男が来たせいで、薪の精神が揺さぶられているのかもしれない。
そんなことも、思う。

「似ている」とは。
戻ることの無かった、団長のことだろうか。
落ち着いているように見えても、薪の心は、傷を抱えたままなのだろう。

青木のことは、早々に遠くに追いやった方がいい、という気持ちと。
どこか、突き放せない思いとが、混在する。

それは、青木の境遇が不憫だからということではなく。
どちらが、薪にとって、より良いことなのか。
自分の中で、葛藤があるからだ。

岡部は目を開け、首を横に振った。
そして、複雑な思いを振り切るように、勢いよく湯から上がった。




岡部が、それを見せられたのは、翌日の午後のことだった。

「・・悪くはないですね」
感想を告げた岡部に、薪は言った。
「僕はこれを、次の公演に使うつもりだ」

「・・・・・・」
岡部は薪を見上げ、それからもう一度、手にした原稿を見つめた。

その前の夜。

控え室の奥、テーブルの隅で、青木は、一心不乱に書いていた。
用意された原稿用紙に、ペンで文字を綴っていく。

「何をやってるんですか? あいつは」
部屋に入った岡部の声も、青木には届かない。

「台本を書かせてる」
「は?」
岡部は、薪の答えに驚き、改めて青木を振り返った。

「僕が、舞台化しようと思った本を、青木が台本に起こしている。上手く書けたら、稿料として、金を渡してやろうと思う」
「そうですか。いや、しかし・・・」
「少なくとも、ボディガード役よりは、当てに出来そうだ」
「はあ」

夜が更け、団員達が寝静まってからも、青木は書き続けた。
頭の中で、ヤーコフが、ロスチャイルドが、オーケストラのメンバーや村人達が、生きて、動いていた。
突き動かされるように、青木はペンを動かし続け・・・

「出来た・・・」
青木は、ホーッ・・と息を付き、ペンを置いた。
夜明けを迎えたことには気付いていたが、窓から入る日差しの高さが、それから更に時間が立ったことを感じさせた。

時計を見ると、もう昼近い。
周囲には誰もおらず、青木は、原稿を手に、部屋の外へ出た。

稽古場の方から声がする。
そこに足を踏み入れると・・・

広い稽古場の真ん中で。
薪が一人、目を伏せ、佇んでいた。
そうかと思うと顔を上げ、セリフを唱える。

それは、普段の薪の声とも、また違っていた。
滑らかな声に、張りが加わり、稽古場の隅々にまで朗々と響いている。

天を仰ぎ、遠くを見つめ、演じる薪の姿。
そこに、夕べの薪の姿が、重なった。
畳の上に座り、うつむいて、身体を震わせながら涙を流す薪は、頼りなげで、儚げだった。
だが、今の薪は、その華奢な身体が、青木の目に大きく映った。

薪は、細い腕をすっと伸ばし、指差す仕草をして振り返り・・

「そこに居たのか」
薪の動きが止まり、青木を見つめる。
「・・・?」
薪が腕を降ろし、やや首をかしげた様子を見て、青木は初めて、自分が稽古場の入り口に立ったまま、薪の姿に見とれていたことに気が付いた。

「あ・・これを、見ていただきたくて」
青木は言い、薪に歩み寄った。

目の前で、青木を見上げる薪は、白いシャツに、カーキ色の長ズボン姿。
シャツの腕を肘までまくり、ズボンも裾をスネまで折り返し、その下は素足だ。
素肌に直に身に着けたシャツのボタンは、上から2つ外してあり、開いた胸元に、汗の滴が光っている。

青木は、薪に、手にした原稿を差し出した。
薪は受け取り、その場に座り込むと、原稿をめくり始めた。

「・・・・・・」
片手をこぶしにして唇に当て、黙々と原稿を読んでいる薪に、青木は、落ち着かない気持ちになる。
青木も、薪の目の前に座り、薪の口が開くのを、ひたすら待った。

最後の頁に辿り着くと、薪は言った。
「ロスチャイルドなど、人物によっては、そのセリフに、やや不自然な部分がある」
「・・そうですか」
いきなりマイナス面を指摘されて、青木は、内心ガックリとした。

青木には、渡された本の翻訳が、古臭い物に思えた。
文学的とも言えるが、舞台化するには、修正が必要だと思ったのだ。

青木は、この時代に沿うようなセリフ回しを意識しながら書いたつもりだが、80年代に生きる自分には、40年代の口調が、正しく表せなかった部分があるのかもしれない。

「それは、稽古をする中で、修正していく。そのことに、依存は無いな?」
「はい。って、え・・?」
青木は、薪を見つめる。
原稿から視線を上げ、青木と目を合わせた薪は、青木に向かって、うなずいて見せた。

薪の言葉は、青木の書いた台本を、劇団で演じるということを、示していた。





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コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○6/21に鍵拍手コメント下さったAさま

こんにちは。
コメントありがとうございます。

永遠のループ、確かにそうですね(^^)
鈴木さんも岡部さんも、薪さんに無償の愛を捧げてますが(「薪さんの無事」という有償を求めてはいますが)、犠牲的とは自分では全く思っていないところが好きです。

「傷ついた薪さんを癒す為に生まれてくる運命」良い言葉ですね・・(;;)

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