カウンター


プロフィール

かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


当ブログ拍手頁

最新の公開拍手コメのレスはこちら それ以前の公開拍手コメ&レスは、各記事の拍手ボタンを再度押していただければ読めます 鍵拍手コメにつきましては、拍手をいただいた記事下コメント欄にレスを書いております

所属してます♪


月別アーカイブ


最新記事


最新コメント


検索フォーム


 
Scene13:金色



「薪さん、昼飯を食べに行きませんか?」

青木が、薪から稿料を受け取り、最初に出た言葉が、これだった。

「・・まずは、着替えを買うべきだと思うが」
薪は、青木を見上げて言う。
青木も、自分の姿を見下ろした。

夕べ着替えた、借り物の浴衣を身に着けていて、あとは、ハンガーに掛けてある洋服一式しか無い。
「・・そうですね」
「近くに洋品店がある。場所は・・」

薪が道を説明すると、青木は、目を瞬かせ、考え込んでいた。
薪の説明は明確なのだが、なまじ80年代の東京の街を知っているだけに、この時代の現状に合わせた道程が掴めないのだ。

「理解出来ないのか?」
「オレ、方向音痴なんですよね」
「・・それでよく、東京まで出てきたな」

薪と共に、青木は外に出掛け、紳士物の店で買い物をした。

この時代の店で、青木の身体に沿う服を揃えるのは、容易ではなかった。
ズボンは、コーデュロイパンツが一本だけあり、それを購入することが出来たが、上着は見つからず、仕立てを注文することになった。
ネクタイやベルトや靴は、元から持参した物を身に着け、下着やシャツは、在庫が見つかったところで、替えの分まで買い求めた。

青木が店で着替えをさせてもらい、試着室から出ると、薪が精算を済ませていた。
店から出ると、薪は言った。
「稿料と言っても、大した額は渡してないからな。後で返せ」
「・・すみません」

青木は、しおらしく侘びを入れたが、すぐに明るい顔になって、言う。
「その代わり、昼飯はご馳走しますから! 薪さん、何が食べたいですか?」
「・・・・・・」
薪は、そんな青木を、呆れたような顔で、見上げた。

二人で食事を済ませ、劇団の稽古場へと歩いて戻る。

歩く道すがら、青木は、すれ違う多くの人間が、こちらを見ていることに気が付いた。
それは、性別や年齢を問わず。
ごくさり気なく、振り返っては、薪のことを眺めていく。

青木は、改めて薪を見やる。
自分だって、スクリーンで薪を初めて見た途端、目が離せなくなったのだ。
そんな人間と、自分が、並んで歩いていることが、誇らしかった。

しかも自分は、この人に。
自分が書いた物を。
オリジナルではないとは言え、自分が脚色した物を、薪に認められたのだ。
そのことも、青木は、嬉しくてならなかった。

途中、イチョウの大木が並ぶ、小さな公園があった。

「凄い・・薪さん、こっちを抜けて行きませんか?」
「おい!お前・・」
立ち止まる薪に構わず、青木は、公園の中へと入っていく。
フウ・・とため息を付いて、薪も、公園に足を踏み入れた。

薪が追い付くと、一本の大木の前で立ち止まっていた青木が、振り返った。
「今が盛りですね・・」
そう言って、上を見上げる。

薪も、顔を上げた。
それは、見事な紅葉だった。
木々も、足元も、金色に燃えるようなイチョウの葉で、覆われている。

青木は、傍らに立つ薪の姿に、目をやった。
白い長袖のシャツに、やや細身の茶色いタイを締め、ベージュのスラックスに、ベストを羽織った、薪。
脱いだコートを片腕に掛け、スラックスのポケットに軽く手を入れ、背筋を伸ばして立っている。

イチョウを見上げる薪の瞳は、大きく見開かれ、生き生きと揺らめいている。
栗色の髪は後ろに流れ、その毛先が、そよ吹く風に、もて遊ばれている。

金色の風景の中に、薪の姿が、くっきりと、浮かび上がって見えた。

青木の胸に、先程、出掛ける前に、薪と交わした会話が浮かんだ。
「皆さんは、どちらへ?」
「家に帰った者も居るし、勤めに出た者も居る。稽古は午後からだ。僕も一度、家に着替えを取りに戻った」
「勤め・・?」
「舞台の収益だけでは、そうそう生きて行けないからな。他に働きながら舞台に出ている者も多い」

・・皆、苦労しながら、ここに集い、一つの舞台を作り上げているのだ。
満足の行く脚本が書けないという自分の嘆きが、とても小さな物に思えてきた。

「・・?」
薪が、青木の視線に気付き、振り返る。

「オレ・・考えたんですけど」
時折、イチョウの葉がハラハラと舞い降りる中、青木は話し出す。

「出来れば、その・・この世界に、いや、この東京に、ずっと住み続けたいと思って」
その言葉に、薪は、目を見開いて、青木を見つめた。

「元の・・オレが住んでいた所には、もう、戻らなくていいと、そう思うようになったんです」

青木のその言葉は、本心だった。
どうしたら、元の世界に戻れるのかと、そんなことを考えていたが。
いっそ、もう戻らなくていいと、そう、思うようになった。

元の世界と決別し、この時代に生きるのは、生易しい物ではないだろう。
だが、何もかも無くなったところから、全てを一から作り上げていく・・この時代の人々にそんなエネルギーを感じて、自分も、その中に身を置きたいと思った。

何より・・・。

青木は、目の前に居る人を、見つめる。
その傍らに居られるのであれば。
他の全てを捨て去ることなど・・大したことではないように思えた。

「・・・・・・」
薪は目をそらし、視線を下に向ける。
その先には、散り落ちたイチョウの葉が、敷き詰められていた。

青木は、言葉を繋ぐ。
「皆さんが働いているように、オレも、どこか働き口を見つけて・・そして、今回のように、脚色のお手伝いが出来たら。脚色だけでなく、もし構わなければ、いつか、オリジナルを書かせていただきたいとも思っています」

「もちろん、そんな役割は必要ないと言われれば、雑用係でも構いません。舞台に立つのは無理でも、掃除をしたり、道具を運んだり、それなりに役に立てると思います」
青木は、そこで一度言葉を呑み込み、真剣な面持ちで、言った。

「薪さん、お願いします。どうかオレを、文由座の一員にして下さい・・!」
青木は、薪に向かい、深く、頭を下げた。

・・しばらくして、何の返答も無い様子に、青木は、頭を上げてみる。
薪は、横を向いたまま、目を伏せている。

「薪さん・・」
青木は、薪に一歩歩み寄り、それでも、薪がこちらを見ようとしないので、そっと、その肩の片方に手を掛けた。
ピクン・・と、薪の身体が、こわばった気がした。

「薪さん。・・これから、座長と呼んでもいいですか?」
青木の言葉に、薪は、ゆっくりと、そらしていた顔を青木に向ける。

青木を見上げる、淡い茶色の大きな瞳と、薪を見下ろす、青木の黒い瞳が、互いの姿を映し出す。
そして、薪は言った。

「呼び方など、何でも構わない。お前の好きにしろ」

青木は、みるみるうちに笑顔になる。
「・・・ありがとうございます!」

薪から手を離し、青木は再び、薪に頭を下げた。
それから顔を上げ、明るい顔で、イチョウを見上げる。

薪は、そんな青木を見つめる。

自分の目線のすぐ脇に、青木の肩が見える。
そこから視線を降ろしていくと、先程自分の肩に触れた手が下がっている。

夕べ、自分の頬を覆ったその大きな手の感触が。
温かさが。
ふいに、思い出された。

それから薪は視線を上げ、青木の横顔を辿ってから、自分もイチョウの木を見上げた。





関連記事

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

■この記事のトラックバックURL

⇒ http://kanon23.blog36.fc2.com/tb.php/745-9df9b3b0

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

■この記事へのトラックバック

 | BLOG TOP |