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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene14:予言



「・・・で、青木は、うちの劇団の専属脚本家になるわけですか?」
控え室で、青木が書いた原稿を手に、岡部は言う。

「そうだ。お前が言ったように、悪くはない。これなら、今後も使えると思う」
「ええ。悪くないですよ・・それどころか、良く出来ています。正直、驚きました」
薪に原稿を返しながら、岡部は言った。

「19世紀の小説が、実に現代的で、普遍的な物語になってますよ。それに・・」
岡部は、薪が手にする原稿を指差して、言った。

「主役のヤーコフですがね、これは単純に、偏見を抱いた哀れな男だと描く方法もあったでしょう。ですが、このヤーコフの人物像は、実に複雑です。面白い解釈だ。たぶんこれは・・薪さん、あなたをイメージしたんでしょう」

薪は、岡部を見上げる。
「僕を?」
「ええ。このヤーコフは、あなただ。あなたが演じることを念頭に置いて、書かれた物だと思います。・・青木が自覚してるかどうかは、分かりませんが」

「・・・・・・」
薪は黙ったまま、原稿に、そっと手を添えた。

「・・その青木は、どこに居るんです?」
岡部は顔を上げ、辺りを見渡した。
「稽古場の、窓を磨いてる」
「あ?」

稽古場では、前日に引き続き、雑巾を手にしている青木の姿があった。

「青木、ちょっとこっちに手を貸せ」
「はい!」
団員達とも、今やすっかり馴染んでいる。

「雑用を引き受けると言ったのは、あいつだ。劇団の人間は、裏方から表舞台まで、全て自分達でやらねばならない。あいつが入ることで、他の者達も、もっと演技に専念出来るだろう」
薪は、言葉を継いだ。

「青木は、働き口を探すと言っていたが。岡部、当てはあるか?」
「そうですね・・」
岡部が思案していると、そこに今井が顔を出した。

「失礼します。薪さん、ちょっとご相談があって。この場面なんですが・・」
今井は、手にした台本を、薪の前で開いて見せた。
そこで、岡部が言った。

「そうだ。今井、この辺りだったら、お前の方が顔が広いだろう。何か、青木が出来るような仕事の口に心当たりはあるか?」
「ああ。そうですね、健康でやる気のある男だったら、いくらでもありますよ。・・肉体労働でも良ければですが」
「構わんだろう」

そこに、青木も顔を覗かせた。
「稽古場の掃除、終わりました。他に、何かやることはありますか?」
「ちょうどいい。ちょっと来い」

岡部に手招きされ、青木は皆の傍に歩み寄る。
「今井が、お前に仕事を紹介してくれるそうだ」
「ありがとうございます!」

青木が今井に礼を言うと、今井は尋ねた。
「肉体労働でもいいか?」
「・・あまり経験はありませんが、やってみます」

そんなやりとりから、薪は一歩離れて、今井が広げた台本を見ている。

「そう言えば・・薪さん」
今井が、思いついたように言った。

「映画の仕事は、どうされるんですか? 皆、心配してるんですよ。薪さんが、しばらく舞台から抜けるんじゃないかって」
「・・僕が居ない方が、稽古が進むとでも?」
「いえ!決してそういうわけでは。ただ、田城監督まで出向いて、ああおっしゃっていたので・・」
「いたので・・何だ?」
「え・・?」

薪が顔を上げ、今井をじっと、見ている。
ここに来て、今井は、薪がその話題を好まないことに気が付いた。
「・・いえ!何でもありません!失礼致しました!」

今井は大きく礼をすると、急ぎ足で部屋から出て行った。
そもそも、何の用事でここに来たのか、持ち込んだ台本を、その場に置き去ったまま。

「・・皆が噂してるんでしょう。今井は、皆の気持ちを代表して尋ねてきたのだと思いますよ」
岡部が言ったが、薪は、無言のままだ。

薪にしてみれば、今、一番気に障る話題に、今井がうっかり触れてしまったということなのだろう。
この件に関しては、周囲が口を挟むことではなかった。
「じゃあオレは、先に稽古に戻りますんで」
それだけ言って、岡部も部屋から出て行った。

後には、薪と、青木が残された。
「あの・・・」
青木が、薪に声を掛ける。
「今、監督が出向いたということでしたが・・」

薪は、ちらりと青木を見る。
「先日、田城監督が、文由座の舞台を見に来て、僕に映画への出演を依頼してきたんだ」
「!!・・映画監督がわざわざ? それって、凄いことじゃないですか。それに、田城監督って言ったら、名匠ですよ」

「名匠と言える程、監督作品は多くないぞ。ほんの数本だ」
「あ・・これから名匠になるんです」
「・・?」
青木は、田城が『青い空へ』の後、数々の名作を残したことを、思い起こしていた。

「僕は、映画に出る気は無い」
「何故なんですか?」
「・・・・・・」
薪は、青木を見上げる。
この男は、どうしてこう、直球で疑問をぶつけてくるのか。

「僕は、舞台俳優だ。舞台の上で、自由な表現をしていきたいと思い、今日までやって来た。それに引き換え、映画界は、戦時中、国家に要請された戦争映画を上映していたんだ。そこは、僕の居るべき場所じゃない」

薪のキッパリとした物言いは、どこか、有無を言わせぬ物があった。
『戦争』『国家』そういった物に、深い憎しみが見えて・・・。

「・・でも、映画界だって、その時は、強制されてやっていたことでしょう?」
薪の言うことも分かる。
だが青木は、映画界に携わる者として、薪に、そんな思いを引きずって欲しくなかった。

『だが、映画界の人間が皆、好きでやっているとは限らないだろう』
薪の胸の中で、また、かつての友の言葉が重なる。

「映画界だけじゃない。文学、写真、絵画・・様々な分野で、国のプロパガンダの為に、協力を強制された芸術家が、沢山居たと聞きます。生き残る為には、自分の芸術活動を続ける為には、そうするしか無かったんでしょう。そして彼らは・・戦争の終結後、今度は、戦争協力をしたと追及された・・」

「辛い時代だったと思います。いえ・・オレが、そんな簡単に言えるものじゃない。でも、そんな時代は、もう終わったんです」

『もう、時代が違うんです』
薪の中で、今度は、自分の声が聞こえた。

自分がずっと、胸の中にくすぶっていた思い。
昨日、会長へ吐露したばかりのその言葉を、何故、今目の前に居る男が、繰り返しているのだろう。

「これから日本には、新しい時代が来ます。日本人は皆、夢中で働き、経済は成長し、日本は、欧米各国に負けない国になる・・それは、芸術の分野でも同じです」
「誰もが、自分の力で、望み、努力すれば、道が開ける時代になった・・そういうことか?」

「そうです。そのとおりです。もちろん、いいことばかりじゃない・・弊害だって出て来る。公害、貧富の格差・・でも、そこには、新しい未来があるんです。戦争という傷は、決して忘れられない、いえ、忘れてはならないことでしょう。でも、過去に捉われるばかりでなく、前を向いて進んだからこそ、その後の日本の発展があるんだと思います」

「お前は・・」
薪は、じっと青木を見て、言う。
「お前の言い方は、まるで、未来を予言しているかのようだな。それも、確信を持って」
「え・・」

青木は、自分の口に、こぶしを当てた。
薪に考え直してほしいからと、つい、余計なことまで話してしまった気がする・・。

薪は思う。
『あなた自身が時代の遺物だ。僕はもう、あなたに縛られはしない』
自分は、そう言ったが。

自分はまだ、これまでの出来事に、過去に、縛られ続けているのではないだろうか。
これ程までにハッキリと、新しい時代の到来を告げる言葉は、初めて聞いた・・。

「お前は・・不思議な男だな」
「え?」
戸惑う青木に、薪は、茶封筒を差し出した。

「見てみるか?」
「・・・・・・」
青木は、それを受け取り、中の書類を取り出した。
『青い空へ』の企画書と、脚本・・。

青木は薪を見上げ、それから、脚本を読み始めた。
その姿を見て、薪は、部屋から出て行く。
青木は、いつの間にか椅子に座り、読み込むことに熱中していた。

物語は、混血ゆえに、不当な差別を受けながらも、それに負けず、やがて事業家として成功する一人の男の姿が描かれ・・・

「・・・?」
青木は、首をひねる。
映画館で見た『青い空へ』とは、大分印象が違うのだ。

大筋は同じなのだが・・展開の仕方が全く違う。
登場人物のセリフを見ても、どうも、薪がこの主役を演じる姿が、想像出来ない。

どういうことだろう・・・。

青木は、同封されていた企画書を手に取った。
これは・・!

急に辺りが騒がしくなり、稽古を終えた団員達が、控え室へと入ってきた。
「今日は、早めに終わったな」
「飯食いに行くか」
「先に風呂に入りてえな」

青木は顔を上げ、彼らに聞いた。
「薪さんは・・?」
「薪さんなら、もう帰ったぞ」
曽我が答える。

「帰った?」
「ああ。今日は、稽古が終わるとすぐに・・」
青木は、脚本と企画書を封筒に仕舞い込むと、それを掴んで飛び出した。

「青木、どうした?」
「おい!」
団員達の声を背に、青木は外へ出る。

角を曲がり、左右を見渡すと・・・見つけた!
街灯の付いた夜道を、人垣を避けながら歩いていく、その姿。

青木は走った。
「・・薪さん!」

薪が振り返る。
瞳がこぼれ落ちそうな程に、目を見開いて。

追い付いた青木は、ハアハアと息を付き、ツバを呑み込んだ。
薪は黙って、そんな青木を見ている。

「薪さん・・これ」
青木は、脚本を取り出す。
「これって、薪さんが主役の企画じゃないんですか?」

青木の問いに、薪は肩をすくめる。
「僕が主役?・・違うぞ」





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