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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene15:生命



二人は、洋食屋で、テーブルを挟んで座っていた。

道端で、矢継ぎ早に質問を畳み掛ける青木に、薪は、近くのこの店に入ろうと告げた。
食事を済ませ、最後のコーヒーを、薪と青木は、向かい合わせで飲んでいた。

「何故、僕が主役だなどと、思ったんだ?」
「・・・・・・」
青木は、何とも答えようが無かった。
あなたが主演した映画を見たからです・・と、言えるわけもない。

「僕は、映画の世界では、デビュー前の新人だ。そんな人間を主役に据えるような冒険はしないだろう。主役に名が上がっているのは、既に有名な俳優だ。実際にアメリカ人との混血でもあるし、この役を担うのは、必然と言える」

青木は、企画書にあった主演俳優の名を思い浮かべた。
この時代、いくつもの作品で主役を演じた、いわゆるスター俳優だ。
名鑑にも、長身で精悍な顔立ちの、この俳優の写真が掲載されていた。
だが・・・

「僕は、準主役である、ライバル企業の子息の役を打診された」
「確かに・・この御曹司も、薪さんに合うとは思いますが・・・」
青木は、脚本を封筒から取り出すと、それを見つめて、考え込んだ。

この脚本なら、確かに、主役よりも、準主役の方が、薪のイメージにふさわしい。
主人公とぶつかりながら、やがて、一番の理解者となる役柄だ。
新人でありながら、スター俳優に次ぐ役を与えられるというのは、充分、破格の扱いと言えるのだろう。

「でも・・これでは、薪さんという人が、生かしきれません」
「うん?」
青木の真剣な眼差しに、薪は、目を上げる。

「これでは、薪さんを、『俳優 薪剛』を、生かしきることが出来ません・・!」
「・・・・・・」

薪は、呆気に取られた顔だ。
「お前・・プロの書いた脚本に、文句を付ける気か?」
「脚本としては、確かによく出来ています。オレも学ぶところが多々あります。でも、薪さんが演じる役は、それだけでは駄目なんです!」

薪の顔は、驚きから、不愉快さを表す物に、変わっている。
「・・どんな役であれ、その役に身を預け、演じきるのが俳優だ。お前、僕がそれを出来ないとでも・・?」
「そういうわけじゃありません。確かに、この役だって、薪さんは見事に演じることでしょう。でもだからこそ・・もっと薪さんの魅力や実力を発揮出来る脚本が、ある筈なんです・・!」

「・・・・・・」
薪は、無言になった。
青木が手にする脚本を見て、それからまた、青木を見た。

そして言った。
「・・お前は、どうしたいんだ?」

「オレに・・書かせてくれませんか?」
青木は、じっと薪を見つめて、言った。

「オレに、もう一つの脚本を、書かせて下さい」




青木は、控え室に入り、テーブルに向かって座った。

洋食店で、冷めたコーヒーの残りを前に、青木は言ったのだ。
「あの控え室を、使わせてもらえませんか? 稽古場に寝泊りして、書かせていただきたいんです」
「僕は・・映画には出ないと言った筈だ。監督も、もう、僕を当てにせず、別のキャストで企画を進めているだろう。お前がそれを書いたところで、どうなると言うんだ?」

「時間を下さい。とにかく・・書かせてほしいんです」
「・・・・・・」
青木の言葉に、薪は、しばらく言葉を失っていたが。

「勝手にしろ」
最後に、そう言った。

青木は、薪から稽古場の鍵を借り、一人戻った。
この日、団員達はそれぞれ自宅に帰り、ひっそりとしている。

青木は、書き始めた。
前夜もろくに寝ておらず、身体は寝不足の筈だが、気力がそれを上回った。

とにかく、書きたくてたまらなかった。
薪に直接出会ってからこれまでの間に、見てきた様々な薪の顔が、その姿が。
鮮やかに浮かぶ。

儚げでいながら、強く。
大胆でありながら、その実は繊細で。
そして、誰よりも優しい・・・・・

あの人は、生命力そのものだ。
全ての無を有に変える、創作意欲を生み出す、脚本家の生命・・・。

何日もの間。
青木は、そこに、こもり続けた。

「おい、差し入れだぞ。サンドイッチ、食えよ」
小池が食事を差し入れても、青木は、そちらを見もしない。

「放っておけ」
薪が言う。

青木は、時々、気を失ったように眠り。
時には、買い出しに行って、飯をほお張り。
憑かれたように、書き続けた。

文由座は、公演が入り、稽古場よりも、劇場に詰めていることが多くなった。
薪が主演のその公演は、好評を博した。
そして・・・・。

「青木!・・おい、青木!」
曽我が身体を揺すっても、青木は、目を覚まそうとしなかった。

「寝せとけ。そのうち起きるだろう」
岡部は言った。

「それより、道具は運び終えたのか?」
「はい。大体終わりました」
「全部点検したら、解散だ」

公演を終え、使った道具を、劇場から稽古場に運んできたところだった。
控え室を覗いたら、畳敷きの部分で、腕を枕に、横になって眠っている青木が居た。

部屋を出ようとして、岡部は、テーブルの上に置いてある、原稿用紙の束に気付く。
「・・・・・・」
岡部は原稿を手に取ってパラパラとめくり、最後のページに『完』と書いてあることに気が付いた。

「岡部、皆集まっている。解散を・・」
薪が、部屋に入ってきた。
そして、イビキを掻いて寝ている、青木を見やる。

「・・ぶっ通しで書いてたんでしょう。これ、完成したようですよ」
岡部は、薪に原稿を渡すと、部屋を出て行った。

「・・・・・・」
薪は、椅子に座り、その原稿を読み始めた。




「ん・・・」
青木は、目を覚ました。
起き上がって、あくびをし、伸びをする。

それから、頭を掻きながら、テーブルに目をやって・・・
「!!」
青木は、目を見張った。

原稿が、無い・・!!
焦って周囲を見渡すと、薪が、その原稿を手にしていた。

ホーッ・・と、青木は息を付く。
それから畳敷きの部分から降りて、声を掛けた。

「薪さん・・それ、読んでくれたんですか?」
「・・・・・・」
薪は答えない。
椅子に座ったまま、原稿を手に、動かずに居る。

「・・どうでしょう?」

薪は立ち上がった。
原稿の束をテーブルに置き、青木を振り返る。

「薪さん・・?」
薪の表情は、静かだった。
薪が何を考えているのか、そこからは読み取れない。

「あの・・」
「僕は」
青木の声に、薪の声が重なる。

青木は黙って、聞き耳を立てた。
薪が言う。

「僕は、この役を、演じてみたい」

「・・・・・!!」
青木は一瞬、何を言われてるのか分からなかった。
だが、その意味を受け取ると、途端に、その顔に笑みが広がった。
そして同時に。

「薪さん!!」
「っ!!」

薪は、目を見開いた。
青木が、薪に抱き付いたのだ。

青木は、嬉しくて仕方がなかった。
薪が、演じたいと言ってくれたことが。

嬉しくて嬉しくて・・薪をその両腕に、捉えてしまったのだ。

「・・・・・・」
青木の腕の中で。
薪は、身動きが取れずに居た。

やがて、青木はハタとその状況に気が付いた。
「す・・すみませんっ!!」
慌てて薪から腕をほどいて離れる。

薪の顔を見ると、薪は、こちらを睨み付けている。
座長にこんなことをして・・きっと怒られる・・と身を縮めていると。

「・・だが、実際に演じられるとは思えない」
薪は言った。

「え?・・」
青木が薪を見ると、薪は、平静な顔で話している。
どうやら・・怒られずには済んだようだ。

「お前の脚本が日の目を見て、僕がこれを演じられる日が来るとは思えない。たかが新人の俳優が、出演を散々断わった挙句、書き換えた脚本を持って乗り込むなど、前代未聞だ」

青木は、頷いて目を伏せる。
薪の言うことは、もっともだった。

「だが・・僕は、これを見て、この役を演じてみたいと思った。これが映画化されるところを見たいと・・。いいのだろうか。そんな風に思って、僕は・・・」

薪の瞳が、ふと、遠くを見る。

映画界の誘いを断わり続け、舞台に夢を見続けた。
その結果・・悲劇を招いたとも言える。
そんな自分が、映画の世界に飛び込んでみたいと・・本当に・・・

「薪さん・・」
青木が、また一歩近付いて、薪を見つめる。

覗き込む青木の顔を、薪も、じっと見て、言う。
「青木、もう一つ、言っておきたいことがある」

「何ですか?」
青木は、姿勢を正して、続きを待った。

薪は言った。

「青木、風呂に入ってこい」





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