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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene16:歓喜



「・・そういうわけで、薪さんは映画に出演することになった」
岡部の言葉に、周囲に立つ団員達から、拍手が沸き起こった。

「しかも、主役だ」

拍手と歓声が、更に大きくなる。
ピーピーと口笛を吹く者も居たが・・その音がする方を薪がチラリと見上げ、曽我は、やり過ぎたかと、口笛を止めた。

「薪さんはしばらく舞台から外れるが、皆、気を抜かずに稽古に励むように」
岡部の言葉に次いで、隣りに立つ薪が言う。
「映画に出るとは言っても、僕は、文由座の一員だ。撮影が終わったら、戻ってくる。その間、羽を伸ばしているようだったら・・小池!」
「ヒッ・・!」

「すぐに分かるからな。覚えておけ」
「は、はいっ!」
小池は、『そうは言っても、座長が居なけりゃ、空気が変わるよな・・』と、曽我に、ごく小声でつぶやいていたのを、まさか薪が聞き取ったのではと、心底怯えた。

薪は、生き生きとした顔で、そこに立っている。
岡部は、そんな薪を、じっと見ていた。

団員達に伝える前、岡部は、ことの次第を薪から告げられた。
「撮影の間、劇団を頼む。本来なら、これを機に、お前に座長を譲るべきだとも思うが・・」
「構いませんよ」
岡部は言った。

「肩書きなんて、どうでもいいんです。薪さんの好きなようにしてもらえれば」
岡部は、そこで薪を、正面から見つめた。

「ただ、オレが座長であろうとなかろうと、劇団に何かあった時に、薪さんが一人で責任を負うつもりだったら、その時は、オレも黙っちゃいませんよ」
「岡部・・」
薪も、岡部の顔を見る。

「そういうことなんでしょう? 薪さんが自分で座長を務めることにこだわるのは。だが、あなたは一人じゃない。それは心得ておいて下さい」
「・・・・・・」
薪は、ただ黙って、岡部を見つめた。

そんなやりとりの末、他の団員達に、このことを発表したのだが。
岡部は、薪が、団員達から一歩下がったところに立っている男を、見ていることに気が付いた。
男もそれに気付き、微笑んでいる。

その男が・・あんなに映画に出演することを拒んでいた薪の気持ちを、ここまで覆してしまったことに、岡部は、驚きを禁じえない。

まだ、薪の前に現れてから、間も無い、あの男が。




青木が、薪に原稿を渡した日から、程なくして。
青木は薪から、それを告げられた。

「お前の脚本が、映画に採用されることになった」
「えっ・・!!」
青木は、目を丸くして驚いた。

「そして僕は・・主役を演じることになった」
「・・薪さん・・!」
青木は、それ以上言葉が出ない。

薪が、田城監督に連絡を入れると、監督は大層驚き、そして、喜んだ。
既に自分は企画から外されているものと、薪は覚悟していたが、薪が演じる予定だった役は、まだ決まらぬままだった。

他の候補も検討されたのだが、監督を納得させる俳優が見つからず、準主役の枠が空いたまま、企画は動き始めていた。
そこに、薪からの連絡が入ったというわけだ。

薪は、出演を決定する前に、見て欲しい物があると言った。
そして、監督のもとに直接出向き、青木の書いた脚本を見せた。

「監督・・怒りませんでした?」
「・・怒っていたと思う。新人俳優ごときが、何を考えているのかと。だが、それを表には出さず、まずは、脚本を開いたんだ」

薪をソファーに座らせ、田城はデスクに向かい、脚本を読み終え、もう一度読んだ。
そして言った。
「これは・・誰が書いたのかね?」
「僕の劇団の・・文由座の専属脚本家です」

フーッ・・と、田城は、ため息を付いた。
「参ったな・・。脚本家の倉辻先生は温和な人だけど、それでも、自分の脚本をこんな風に書き換えられて、納得するとも思えないし・・」

それから、田城はデスクの上で、両手を組み合わせて言う。
「僕はこれを、映画化したいと思う」
「!」
薪は、目を見開いて、田城を見た。

更に田城は、薪を見据えて、言った。
「そして、出来れば、この役・・・主役は、薪君、君に演じてほしい」

「!!・・・・」
薪は、思わず立ち上がった。

「ここまで来て・・色々と面倒だけど。これを読んだら、君が主演する映像が浮かんでね。もう、他のイメージはどこかに消えてしまった。是非やってほしい。引き受けてくれるかな?」

薪は、驚きのあまり、束の間、目を見開いていたが。
やがて徐々に視線を下げ、
「はい。・・ありがとうございます」
そう言って、田城に向かって、深く、頭を下げた。

田城も立ち上がって薪に歩み寄り、二人は、固い握手を交わした。

「・・・・・・」
青木も、感無量だった。
これで薪は、自分が見た『青い空へ』の主役を演じることになるのだ・・。

「・・でも、主役を差し替えるって、大変なことですよね」
青木が言うと、薪が答える。
「ああ。・・だが、もう契約は交わしてしまった。後は、田城監督に任せるしかない」

それから、薪は青木を見上げる。
「それと・・」

薪が、言い淀んでいる様子に、青木は、薪の顔を覗き込む。
「何ですか?・・あ、風呂には夕べも入りましたけど!」
薪に言われて以来、青木は、毎晩銭湯に通い、服を取り替え、洗濯をしていた。

「・・そうじゃない」
薪は、青木を見て、眉根を寄せる。

「脚本は、あくまで、倉辻先生の作品ということになる。それを書き換えたのは、あくまで現場側・・監督が、自分の都合で書き換えたと。現場で脚本の内容が変えられるのは、よくあることだ。監督の指示であるということになれば、誰も、文句は言えない」

「あ・・」
青木は、薪の言いたいことが分かった。

「お前の名前は・・どこにも出ない。本来なら、脚本に携わった者の名は、連名で表記するところだ。だが、今回は、色々と前例が無いことだけに、そういうわけにも行かなくなった」
薪は、静かに言い結んだ。

「オレは構いません」
青木は、言った。

「元々、倉辻先生の脚本が無ければ、オレだって、あれを書くことは出来ませんでした。オレはあくまで、書き換えただけで、あれは、倉辻先生の脚本です」

それに。
青木にしてみれば、あの脚本は、自分が未来に見た映画の焼き直しに過ぎない。
自分が過去に書いた物を、それと知らずに見ていたとは・・・。

見た映画のセリフを全て覚えていたわけではないが、映画を既に見ていたからこそ、あの脚本が出来たのだ。
それは、自分が生み出した物だと、果たして言えるのだろうか。

「だから・・オレの名前が出ないのは構いません。気にしないで下さい」
「・・いいのか?それで」
薪が、青木を見上げる。

「オレは、薪さんがあの映画に出てくれて・・しかも、オレの脚本で演じてくれる。それで充分に満足です」
青木は言い、ニッコリと、笑った。




団員への発表後、薪は、映画の顔合わせに行った。
運転手に、青木を連れて。

「薪さん、車、持ってらしたんですね」
「後援会から提供された。これから、何かと必要になるからな」
青木は、免許証は手元に無いと正直に言ったが、薪は、運転が出来さえすればいい、と、あっさりと言った。

どうやらこの時代は、運転免許については、まだそれ程厳しくないようだった。
だが、薪の為に、近々この世界で運転免許証をちゃんと取得せねばと、青木は思う。
しかし・・住民票も無いこの世界で、果たして免許証が交付されるのだろうか・・。

薪が顔合わせから戻ってくるのを待つ間、そんなことを、青木はつらつらと考えた。

夕方近くになって。
薪は、車に戻ってきた。

「お帰りなさい!」
思わず、そんな言葉が出る。
薪は目を上げ、車に乗り込んだ。

「その・・どうでしたか?」
「・・・・・・」
青木が尋ねても、薪は何も答えない。
表情は静かで・・だが、頬の色は、上気しているようにも、見えた。

「お前、どこに向かってる?」
青木が車を出すと、薪は言った。
「どこって・・稽古場ですが」
「稽古場には戻らない。今日から、自宅に帰る」

そうだった・・と、青木は思う。
薪はしばらく、舞台から遠ざかるのだ。

薪の指示で、青木は銀座の薪のアパートへと向かう。

自分は、薪を送り届けてから、稽古場へ戻ろうか。
そんなことを、青木が考えていると。
「お前も、稽古場で寝泊りすることは、しばらく出来ないぞ」
「えっ?」
薪の言葉に、青木は聞き返した。

「お前から返された鍵だが・・あれは、今井に渡した。僕が居ない間、二つある鍵を、岡部と今井で管理することになる。お前が勝手に稽古場で寝泊りしたら、彼らに迷惑だ」
「え、でも・・・」

青木は、運転しながら考えた。
だったら自分は、これからどこに泊まれば良いのだろう。
安い部屋を探すか・・だが、すぐに見つかるだろうか。
考えてみれば、自分は、身分を表す何の書類も持たないのだ。

ホテルに泊まる・・と言っても、持ち金には限りがある。
とりあえず、安い旅館に宿を取り、アパートを探すしか無いだろうか・・・

「何を考えている?」
「え?」
思わず青木は振り返り、
「前を見て運転しろ」
そう言われる。

「はい」
青木は、とりあえず、運転に専念することにした。

「映画俳優には、付き人というものが、必要だそうだ」
薪が、口を開いた。

「付き人・・ですか?」
「主演級の俳優には、付き人が付くのが常だそうだ。だが、劇団の人間は、舞台が忙しい。それに、見知らぬ人間を傍に置くのも都合が悪い」

薪の結論が、青木を驚かせた。
「お前は、運転手兼付き人として、しばらく、僕の傍に居ろ」
「!!・・」
青木は、また振り返る。

「前を見ろ!!」
「はいっ!」
青木は小さくなり、ハンドルを握り締める。

それから、ゆっくりとした口調で、言う。
「そうしたら・・これから、映画撮影の間、薪さんの傍に居られるんですね?」
「そうだ」

「っ!!」
くうとも、ぐうとも言えない、奇妙な声を、青木は発する。
顔は、喜びに紅潮していた。

ずっと、望んでいたこと。
薪が、あの映画の撮影をするところを見たいという、その願いが。
遂に、叶うのだ。

しかも、ただ見ているだけじゃない。
撮影所への行きも帰りも、撮影中も、薪の傍に居られる。
青木の胸は、喜びに、はち切れそうだった。

青木のそんな顔を見て、薪が密かに微笑んだことに、青木は気付かなかった。

「それから」
薪は言う。

「しばらくは、僕の部屋に泊まれ」
「えっ!?」
今度は青木は、振り返るのを思い留まった。
だが、ハンドルを握って前を向いたまま、目も口も大きく開いていた。

「撮影の間、お前は僕の部屋に泊まれ。撮影が済んだら、住むところを探すんだな」
「・・ありがとうございます」
「これから、撮影所への運転は、お前がするんだ。よそから通って、遅刻でもされたら叶わない」
青木の礼の言葉に、薪はそう、返した。

青木は、薪への感謝で、胸がいっぱいになった。
・・いや、感謝だけではない。
ずっと薪の傍に居られるという喜びと、それに・・・。

何故だか・・戸惑いも交じった、何とも説明し難い、不思議な気持ちに包まれていた。

「・・・・・・」
急に無口になった青木を、薪は、黙って見つめていた。

「・・お邪魔します」
青木は、部屋に上がる。

薪の部屋は、岡部のところとは、比べ物にならない程、近代的な造りだった。
だが、室内は、必要最小限な家具しか置いておらず、簡素に思える程だった。

玄関ドアを入ったところに、ごく狭い、台所兼居間のようなスペースがあり、更にもう二部屋あるようだ。

「そう言えば・・顔合わせは、いかがでした?」
先程、車内では答えが返らなかったことを、青木は、再び聞いた。

青木に背を向けて、荷物や上着を置いていた薪は、そこで、立ち止まる。

「その・・皆さんの反応とか」
余計なことかもしれないが、新人俳優である薪が、いきなり主役に変更になって、風当たりがあるのではないかと、青木はずっと気になっていたのだ。

「皆・・一つになっていた」
「え?」
青木は、薪の背を見つめる。

「舞台と同じ・・心を一つに、皆で作品を創り上げようと、そういうエネルギーを感じた。僕は、その場に居られることに、喜びを感じた」
「薪さん・・」

薪は、振り返る。
また、頬が上気している。
それが・・映画への高揚感なのだと、青木は、その時気が付いた。

「新しい世界に踏み出した気がした。・・信じられない程、僕は、喜びを感じたんだ」
薪が、青木を見上げる。
生き生きと、揺らめく瞳で。

「僕は今、嬉しくてならない。どうすればいい? お前なら、こういう時、どうするんだった?」
「え・・?」

次の瞬間、薪は、青木の腕に飛び込んだ。

「・・・!!」
青木は、驚きに言葉を失った。
薪が、自分の胸に顔を埋め、両腕を背中に回している。

強く、強く抱き締められて・・青木は、自分の胸が高鳴る音を聞いた。

「あの・・・」
何か言い掛けても、薪は、ギュッと、青木にしがみ付くばかりだ。

「・・・・・・」
青木も、そっと腕を上げ、薪の背に、手を回した。

薪の華奢な身体が、自分の腕の中に、納まっているのを、感じた。





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