カウンター


プロフィール

かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


当ブログ拍手頁

最新の公開拍手コメのレスはこちら それ以前の公開拍手コメ&レスは、各記事の拍手ボタンを再度押していただければ読めます 鍵拍手コメにつきましては、拍手をいただいた記事下コメント欄にレスを書いております

所属してます♪


月別アーカイブ


最新記事


最新コメント


検索フォーム


 
Scene17:疼痛



どれ位の時間が過ぎたのだろうか。
たった数秒だったのかもしれないし、もっと長かったのかもしれない。

青木の中で、時は止まり。
時間の感覚が無くなってしまったようだった。

ふと気付くと、薪が身体を離し、こちらをじっと見上げていた。
「あ・・」
青木は、幾度か瞬きをし、それから、薪に言った。

「あの・・この近くに風呂屋はありますか?」

アパート専用の共同浴場もあるらしいが、それは狭いと聞き、また、少し歩きたい思いもして、青木は、一人銭湯に行った。
稽古場からは、ごく近くに銭湯があったのだが、ここは、少し歩いた先の、路地を入ったところにあった。

身体を洗い、湯船に身を沈め、青木は、ハーッ・・と、息を付いた。
湯の中に見える、自分の腕を見つめる。
そこには、さっき腕の中にあった、薪の身体の感触が、残っていた。

細い肩。
平らな背中。
柔らかな髪。
立ち昇る甘い香り・・・

そう。
以前、自分から抱き付いてしまった時は、意識しなかったが。
薪からは、何とも言えない、心地良い匂いがした。
思い返せば、薪の傍らに居る時はいつも、その匂いがしていた気がする。

そして・・自分を見上げた、長い睫毛に縁取られた、大きな目。
淡い茶色の、揺らめく瞳。

薪の美貌は、スクリーンで初めて見た時から、分かっていた筈なのに。
何故今になって。
改めて、強く意識されるのだろう。

青木は、自分にとって、薪が一体どんな存在なのかを、胸の中で反芻した。

脚本家の自分にとっては、創作の源。
映画ファンの立場から見れば、目を引き付けられる俳優。
そして・・文由座の一員にしてみれば、敬愛出来る座長だ。

そうだ。
敬愛する人間が、自分をここまで信用し、認めてくれたのだ。
自分はそれが、嬉しいのだ。

ドクン。
薪の顔が目の前に浮かび、再び音を大きくする自分の胸に、青木はそう、納得させた。




映画の撮影が、始まった。

青木は、薪を撮影所まで送り、そして薪の後を付いて、様々な雑用をこなした。

脚本家が現場に立ち入る機会は多くは無いが、それでも、映画界のことは、それなりに熟知している。
時代の違いはあれど、業界のことを心得た青木は、臨機応変に気を回して動いて見せた。
それは、舞台の世界しか知らず、ここでは新人の薪にとっても、意外な程、心強いものだった。

愛想が良く、気の付く青木は、現場のスタッフとも、すぐ顔馴染みになった。
他のキャスト達も、薪や青木に、好意的に接してきた。

それは、当初、主演の予定だった俳優が、率先して薪を気遣う姿勢を示したせいも、大きかったようだ。
青木が、映画を見た記憶どおり、この俳優は、企画段階で薪が演じる筈だった、準主役を演じることになった。
薪と役を交替することになって、プライドを傷付けられて不快感を表すのではないかと、青木は懸念していたのだが。

撮影に入る前に、薪は、青木に話した。
「どうやら・・主演俳優が、僕を推していたらしい」
「クラーク・シン、がですか?」
「元々、彼が僕を監督に推薦して、田城監督は舞台を見に来た。そして、監督も気に入ったということだ」

脚本が変更され、薪を主役に差し替えたいと監督から聞かされた時、彼は、不満を示すどころか、愉快そうだったと、田城は言った。

青木は、薪の行く所、どこにでも付いて行った。
撮影所の外でロケがあるとなれば、そこに薪を送った。
撮影がどんなに長引いても、薪を待ち、出迎えた。

遠くから、近くから、薪の撮影の様子を、その演技を、見ていた。

寒風吹きすさぶ中、薄着で撮影することもあった。
ワンシーンを、丸一日かけて撮ることもあった。
そして田城は・・その柔和な印象からは想像出来ない程、俳優達の演技に、厳しかった。

「考えてみれば・・僕は、ここまで他人に厳しく演技指導されたことは無い」
薪は、青木に言った。
疲れているようだったが、その表情は、生き生きと輝いていた。

青木は、いつも薪を見ていた。
その姿を、片時も見逃さないように。
薪が、撮影の合間に振り返ると、そこにはいつも、青木が居た。

撮影が終われば、共に家に帰り。
薪はベッドで、青木は隣室に敷いた布団で、寝た。

やがて、撮影が終了した。

クランク・アップの日。
薪は、花束を受け取り、他のキャストやスタッフから、大きな拍手をもらった。
様々な人間から、肩を叩かれ、握手を求められた。
薪の才能は・・皆に、認められたのだった。

そこに、大きな紙が用意された。
皆が、薪にサインをしろと言う。
薪は、紙の一部を使って、サインを書いた。

残った部分には、他のキャストやスタッフ、全員で名前を書こうということになった。
この映画にかけた皆の熱意を、一つになったその証を残しておこう、そして、ヒットを祈願しよう。
そんな趣旨からだった。

青木は、その様子を、離れたところから見ていた。
薪が、皆の中心に居るその様子を、じっと・・・。

そんな青木に、薪が気付き、こちらへ来いと手招きをした。
青木が近付くと・・。

「お前もここに、名を書け」
薪が言った。

「え?」
青木は、戸惑った様子を見せる。
薪が、近くに居た田城の様子を伺うと、田城も、うなずいた。

「だってオレ、ただの付き人ですし」
「お前だって、この映画に参加したんだ。・・他に名前を残してやれないのは悪いが」
「薪さん・・」

薪の気持ちが、青木は痛い程、嬉しかった。
他のスタッフから渡されたペンを手に持ち、その紙に向かう。

その瞬間・・
青木は、ハッとした。
これは、自分が、あの映画館で見た・・・!

「どうした?」
薪に促され、青木は、そこに自分の名前を書いた。

青木も、皆に肩を叩かれる。
皆が笑顔で、この映画に携わったことを、喜んでいた。

青木は、薪を見上げる。
花束を腕に抱いた薪が、青木に向かって、微笑んでいた。




薪と青木は、薪の部屋に帰った。

「明日は休むとしても、あさってには、劇団の稽古場に顔を出すつもりだ。映画も、編集が終われば、関係者の試写に呼ばれるだろう。それから、宣伝の為の取材が入る。まだ、やることはあるが」
薪の明るい声を聞きながら、青木は何故か、胸が塞ぐのを感じた。

「・・・・・・」
青木が黙っているので、薪は、青木を振り返る。

「薪さん。・・撮影が終わったんですから、もう、毎日送迎をする必要は無くなったんですよね。撮影と違って、試写や取材に、付き人がいつも付いて回る必要も無いでしょうし・・」
「・・・・・・」
青木の言葉を、薪は、黙って聞いている。

「オレ、明日から住む部屋を探します。仕事も始めないと。いつまでも、薪さんの部屋に居候させてもらうわけにもいきませんし・・」
「青木」
薪が、口を開いた。

青木を見上げ、そして、言う。
「風呂にでも、行くか」




薪と青木は、銭湯ののれんをくぐった。

青木が思い返してみると、しばらく一緒に住んでいたのに、二人で銭湯に来るのは、初めてだった。
薪は、アパート専用の共同風呂に入ることが多かったし、たまに銭湯に行くとしても、帰るとすぐに風呂に行きたがる青木に対して、薪は、閉店間際の時間に行っていたからだ。

番台のオヤジは、ちらりと薪を見て、すぐに視線を落とす。
だが、客の反応は、違った。
青木と共に脱衣場に入る薪を、あからさまに凝視している。

薪は、そんな視線にも構わず、さっさと服を脱ぎ、タオルや石鹸の入った桶を持って、洗い場へと入っていく。
青木も、その後を追うように、洗い場に入った。
薪が歩を進めると、身体を洗いながら、湯に浸かりながら、男達が薪を振り返る。
だが・・ちらりとその身体を見て、視線をそらすのだった。

青木は、何故、薪があまり銭湯を利用しないのか。
また、決まった時刻、それも人の少ない時間を選ぶのか、分かるような気がした。
同じ時刻に来る、少々の常連客であれば、薪が男であることは、承知しているだろう。

手早く全身を洗うと、薪は、湯船に入った。
首から上だけが出ている状態では、男性と確認出来ないせいか、後から入った客が、薪の顔を見て、一瞬ギョッとした様子で立ち止まっている。

青木は、そんな周囲の様子が気になって落ち着かず、急いで身体を洗うと、自分も湯船に入り、薪の傍らに座った。

そして薪を見て、無理も無い・・と思う。

薪は、濡れた栗色の髪を、全て後ろに撫で付け、綺麗な白い額が、露わになっている。
そこには、くっきりと弧を描く眉。
伏せた目元には、滴の付いた、長い睫毛。
象牙細工のような鼻先や、ふっくらとした唇、その下に続く鋭角なアゴ、それら全てから滴が滴り落ち、細い首筋を伝っていく。

こんな男性は、どこにも居ないだろう。
いや、女性だって、少なくとも青木は、これ程までに完璧な美貌を持つ人を、見たことは無かった。

銭湯を出て、薪と青木は、並んで歩く。
薪は、青木が初めて薪に直接出会った時と同じ、紺のかすりの浴衣を着ていた。
青木はというと、借り物だった物を、結局そのままいただいてしまった、少し丈の短い縞模様の浴衣姿。

ここでもやはり、薪は、周囲に見られていた。
男物の浴衣姿といい、歩き方といい、紛れも無く男性であると分かるとは思うが。
それでも、男女問わず、薪の姿を見て、すれ違いざま、人々が振り返っていく。

青木は、気が気ではなかった。
初めて薪と二人で歩いた時は、周囲の注目を集める薪と、並んで歩いていることが、誇らしかったが。
今は、誇らしいと言うより、薪の姿を、他人に見られたくないという思いがよぎった。

「・・・・・?」
どこか落ち着かない青木の様子に、薪が、青木を見上げる。

ドクン。
薪の顔を見て、青木はまた、胸が鳴り響く気がした。

湯上りに上気した頬。
湿って首に貼り付く髪。
その下の、前合わせの間に見える、鎖骨の浮かび上がった、白い肌・・

「お?」
男の低い声に、青木は、立ち止まる。
細い道で、薪の前を塞ぐように立った見知らぬ男が、薪の姿を見て、声を出したのだ。

「!・・・・」
青木はとっさに、薪の肩を抱き寄せる。
そして、自分の前に薪の身体を重ねるようにして、男の脇を通り過ぎた。

「・・青木?」
「・・・・・・」
青木は黙ったまま、その場を通り過ぎるとすぐ、薪の肩から手を離した。

何故そんなことをしたのか。
自分でも、説明が付かなかった。

「・・・・・・」
薪も、何も言わなかった。
黙って歩く二人の周囲を、冷たい風が、通り過ぎて行った。

部屋に戻ると、青木は、冷たい水で顔を洗った。
気持ちが落ち着かない。

撮影が終わり、薪は、やり遂げた喜びを味わっているようだった。
撮影所の皆だって、あんなに、薪を祝福していた。
自分だって・・念願の、薪の撮影風景を、見ることが出来た。

全て順調だ。
なのに・・どうして、自分は、今この時を、喜べないのだろう。
胸が疼くのは、何故なのだろう。

顔や手をタオルで拭き、青木は、居間の椅子に座った。
アンティーク調の、肘掛けの無い、木の椅子。
青木はよく、この椅子に座って、薪と共に食事をした。

見渡すと、あそこにも、ここにも、薪とのこの冬の思い出がある。
だが・・それは、一時のこと。

自分は、薪にとって、劇団の一員に過ぎない。
それにしては、分に過ぎる程、良くしてもらった。
薪には、いくら感謝しても、し足りない程だ。
これ以上、甘えるわけにはいかない。

なるべく早く、出て行かねば・・・・・。

そう思っていると、すぐ傍に、人の気配がした。
顔を上げると、傍らに、薪が立っていた。

「薪さん。今まで本当に・・お世話になりました」
青木は、座ったまま、両手を膝に付いて、頭を下げる。
「すぐに、ここから出て行きますから」
明るい声を作って、顔を上げる。

すると、そこに、薪の手が、伸ばされていた。
青木が何か言う前に、薪の手は、そのまま、青木の頭を捉えた。

薪の顔が、青木の、すぐ目の前にある。

「・・出て行くって、どこへ・・?」
薪の口が、青木の前で、言葉を形作る。

「どこへって・・・」
青木が言い掛けると、薪の目が、青木の目を捉えた。
薪の大きな瞳が、じっと、青木を見つめている。

「・・どこへも」
青木は、我知らず、そう、つぶやいていた。

そして青木は。

薪の柔らかな唇が、自分の唇に重なったことに。
気付いた。





関連記事

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

■この記事のトラックバックURL

⇒ http://kanon23.blog36.fc2.com/tb.php/749-34067431

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

■この記事へのトラックバック

 | BLOG TOP |