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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene20:失跡



「・・・・・・」
ソファーに座り、山本は、黙ったまま、目を見開いて、青木の話を聞いていた。

「ポケットに入っていた紙片は、この時代に、買い物をした際の、レシートでした」
向かいに座る青木は、静かに話していた。

「過去を訪れる前、その服を着たまま買い物に行き、釣り銭とレシートをポケットに入れた。小銭は、残っていてはいけないと思い、全て取り出して確認したんです。でも・・その奥に、レシートが入ったままだった。1981年・・オレは、その日付を見てしまいました」

「見なければ・・それが、その時代にあってはならない物だと、意識しなければ、こんなことにはならなかったかもしれません。でも、見て、しまった・・・」

青木は顔を上げ、窓の向こうを見やる。

「すぐにオレは・・紙片を破り捨て、もう一度、過去に旅立とうとしました。・・薪さんと別れた、その時間に。でも」
そこで、青木は、僅かに唇を噛み締める。

「出来なかった・・気持ちばかりが焦り、もう一度、もう一度・・いくら念じても、同じ現象が起こることは無かった。薪さんに誓ったのに。オレは・・・」
青木は、目を伏せていた。

「オレは、生ける屍になりました。絶望し・・何度も、命を絶とうとすら、思いました」
そこで目を開け、青木は、しっかりと前を見た。

「でも、その前に、薪さんのことを、残しておきたかった。オレが、薪剛という人と出会った証を・・・残しておきたいと思ったんです」

「それからは・・憑かれたように書き続けました。彼のことを書こうとするといつも・・文章が、言葉が、溢れ出るんです。オレは、それに没頭することで、命を繋ぐことが出来ました」

青木は、テーブルの上に置かれた脚本に手を伸ばし、そっと触れた。
「それが・・この脚本です」

表紙に書いてある著者名は『青木ジロー』となっていた。

「・・・・・・」
山本は、言葉を失っていた。

青木が、男性俳優と関係を持ったという告白も、意外ではあったが。
業界では、少なからず、そういう嗜好を持った人間が居ることは、暗黙の了解であり、さして驚くには当たらない。

何より驚いたのは・・やはり、青木が、タイムトラベルをしたという点だった。
脚本の中でも、一人の男性脚本家が、昔の女優に魅せられて、過去へ赴き、結ばれるという展開になっていた。
まさか、それがそのまま、青木の実体験だとは・・・・。

「・・信じました?」
青木の言葉に、山本は顔を上げる。
見れば青木は、静かに微笑んでいた。

「あ・・」
山本は、つるりとした頭に手をやる。

「これは・・やられました。さすが脚本家だ。すっかり引き込まれて、全てが本当だと信じてしまうところでした」
山本が言うと、青木は何も言わず、微笑んだままだった。
それを山本は、肯定だと受け止めた。

「ハハ・・。いや、お見事です。でもお陰で、より映画のイメージが鮮明になりました。青木さん、選り抜きのキャストとスタッフを集めて、最高の映画にしてみせますよ」
「よろしくお願いします・・」

青木と山本は、テーブルを挟んで、握手を交わした。

青木が、イチョウの並木道を去っていくその後ろ姿を、山本は、窓から見送った。
あれは全て、青木の作った物語だったのだろうか。
いや・・そうでなけれは、では、何だと言うんだ・・?

山本は首を振り、現実の仕事に立ち返った。

映画『巡る時』の企画が始動した。
山本は、青木に予告したとおり、優秀なスタッフとキャストを集めた。

ヒロイン役には、知名度よりも、美貌と実力が備わっているかが優先された。
線の細い、けれど凛とした存在感を放つその女優は、この役に、ピタリとはまった。

撮影が始まると、時折、青木が現場に見学に現れた。
「なるべく、この脚本に沿った流れにしたいんです」
山本の言葉に、青木は、笑顔でうなずいて見せた。

そして、撮影風景を眺めては、時に、瞳を潤ませているようだった。
脚本が採用されて嬉しいのだろう、しばらくスランプだったようだから・・青木の様子を見て、密かにそうささやく者も居た。

撮影が終わり、関係者の試写に、青木も立ち会った。
映像が流れ終わると、自然と、見ていた人間達の間で、拍手が沸き起こった。

監督やスタッフ達に、ねぎらいの声を掛ける山本に、青木が歩み寄った。
「山本さん」
「ああ、青木さん、どうでしたか?」

「・・素晴らしかったです」
青木は言い、そして、繰り返した。

「素晴らしい映画でした」

「ありがとうございます」
山本は、笑顔で頭を下げた。
「山本さん、どうもありがとうございました」
青木も、頭を下げ返した。

互いに顔を上げると、青木は言った。
「これで・・今度こそ、気持ちの整理をして、何も思い残すことなく、旅立てる気がします」

「え・・?」
どういうことかと、山本が聞き返す間も無く、青木は、礼をして去って行った。
山本は、しばらくスランプだった青木が、この成功を経て、過去のしがらみを振り切り、新たな脚本家の道に旅立てると、そういう意味なのだろうと、前向きに受け止めた。

この時は、自分自身、気持ちが高揚していて、明るい方向にしか、物ごとが見えなかったのだ。
正直なところ、それからは忙しく、青木のことなど、忘れてさえいた。

それを山本は、後から後悔することになる。
何故あの時、青木の言葉を、きちんと考えてみなかったのかと。




しばらくして、山本が、青木に連絡を取ろうとしたら、いつまでも繋がらなかった。
青木の住所に人をやり、直接会いに行かせたら、もうそのマンションは、引き払った後だと言う。
関係者達に聞いてみたが、青木の引越し先を、知る者は居なかった。

山本は、青木の実家に問い合わせた。
すると・・実家でも、青木の行方を知らなかった。

そこまで来て初めて。
青木は失踪したのだと、皆が、気が付いた。

警察に青木の捜索願いを出し、事件性があるかどうかが、調べられた。

青木が失踪前、月末に引越しをする、だが、しばらく留守にして片付けが出来ないかもしれないので、それを過ぎても戻らない時は、家具を処分してくれと、そう言っていた。
マンションの管理人は、そう話した。
何か費用が掛かれば、敷金・礼金を全て使って欲しいと、青木は、書面にまでしたためていた。

いくつかあった、青木の口座の貯金は、一部が引き出され、残りは、家族に託されていた。
青木の母や姉は、青木が、失踪する少し前、突然訪ねて来たと、そう言った。
引越しをするにあたって、貴重品をしばらく預かってほしい・・そう言って青木は、自分の通帳と印鑑を、実家に置いていったのだという。
仕事が忙しくなるので、しばらく連絡が取れなくなるかもしれない、だが心配するな・・そう言っていたそうだ。

これらの状況から。
少なくとも、事件性は無いと、判断された。
青木は、自分の意思の元に、身辺を整理し、消息を絶ったのだと。

そして、あるいは・・・・

「今頃、どこかの海の底か、樹海の奥にでも居るかもな」
そんな声が、聞こえた。

青木が、3年前の華々しい状況から一転、この数年は、スランプに陥っていたこと。
『巡る時』の執筆前後に、周囲に、執筆作品と現実の区別が付かないような、言動をしていたこと。
そして・・

『オレは、生ける屍になりました。絶望し・・命を絶とうとすら、思いました』
『その前に、証を、残しておきたいと思ったんです』
『今度こそ、何も思い残すことなく、旅立てる気がします』

青木が残した、これらの言葉が。
青木が自ら命を絶つ、それを示唆していたのだと思われた。

青木は、スランプから神経衰弱に陥り、最後の気力を振り絞って脚本を書き上げ、そして・・この世を去ったのだ。
青木の失踪は、そう、解釈された。

一般の人間は、映画脚本家の名など、あまり気にも留めない。
青木の一件は、業界の人間の間のみで噂され・・やがて、それもいつしか立ち消えた。

青木は、居なくなった。

『巡る時』の、脚本を残して・・・・・。





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