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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene2:定義



それは、警大での研修を終えた記念にと、打ち上げをしていた席でのこと。
居酒屋の広い座敷を貸し切り、同期の皆で飲んでいた。

「よう、鈴木」
その声に鈴木が顔を上げると、よく話をする同期の男が、ビール瓶とグラスを手に、立っていた。

「飲むか」
そう言って男が隣りに座ると、鈴木はうなずいた。
互いにビールを注ぎ合い、ゴクゴクと音を立てて飲む。

それから男は、座敷の先に視線を走らせ、言った。
「薪ってさ・・どこの大学出身なんだろうな。お前、知ってるか?」

その言葉に、鈴木もその先を見やる。
薪はあぐらを掻いて座り、隣りに座る男が話しかけるのに合わせ、時々顔を上げてはうなずいていた。
もっぱら聞き役に徹しているようで、薪の方は、ほとんど口を開いていない。

薪と鈴木は「偶然にも」警大の寮で、ルームメイトとして過ごすこととなった。
昔は、4人部屋や6人部屋という例もあったらしいが、今は、2人部屋が基本になっている。

ここで、薪と鈴木は、共に寝起きし、共に食事を取り、同じ講義を受け、武道などの実技を体得した。
自由時間には、共にランニングをして身体を鍛えたり、読書や音楽鑑賞といった、趣味に勤しんだりもした。

二人は、自他共に認める友人であり、また、訓練では、常にトップを走る薪に対して、その後を追い争う鈴木という、ライバル関係でもあった。

「お前と仲がいいようだから、一部では、お前と同じ大学出身ということで通ってるが・・違うんだろ?」
相手の言葉に、肯定も否定もせず、グラスを手にしたまま、鈴木は、ただ目を上げる。

「あの成績だ。有名大学出身なのは間違いない。でも、ここに来るまで、オレも薪のことを知らなかったし、他の東大や京大から来た連中に聞いても、大学時代に、薪を見た覚えのある奴が、一人も居ないんだ。本人に聞いたら・・」
そこで、男は肩をすくめた。

「『そんなこと、ここでの生活に、関係があるんですか?』って、言われたよ」

鈴木は、クスッ・・と笑った。
そう答える薪の姿が、目に見えるようだったからだ。

「とにかく、誰も薪の出身大学を知らないんだ。お前なら、聞いてるかと思って」
「そうだな・・」
鈴木は、これまでに、他の人間にも聞かれたことがあるその問いに、いつもと同じように、答えた。

「確か・・留学してたって聞いたことがあるな」
「そうか!・・いや、そうじゃないかと思ったんだ。あれだけ成績が良くて、しかも、見た目があんなで・・。同じ大学に居たら、たとえ学部が違っても、目に付きそうなもんだからな。一体どこなんだ?」
「さあ・・そこまでハッキリと聞いたことは無いな」

「ハーバードか? それとも、ケンブリッジかオックスフォード・・だからあんなに語学科目も得意なのか」
納得したようにうなずく同期に、鈴木は、冷静な顔を作りながら、内心は、笑いをこらえるのに必死だった。

「でも・・だったら何で、聞いた時に、そう答えないんだろうな」
首をかしげる同期に、鈴木は言う。
「たぶん、経歴をひけらかすような気がして、イヤなんだろう。留学してたと言えば言ったで、すぐに噂が広まるだろうし」
「まあな・・」

卓上の講義でも、実技の訓練でも、抜群のセンスを見せる薪は、他者を圧倒していた。
そして・・その容姿も加わり、薪が訓練生達の噂の的になるのに、時間は掛からなかった。

それなりの思慮分別とプライドを持ったキャリア組の彼らは、大っぴらに薪を揶揄することは少なかったが。
薪が何をしても、何を言っても、その言動は、密かに、だが確実に広まるのだった。

「けど・・噂が広まるのは、薪自身が、かえって自分のことをほとんど話さないせいでもあるんだぜ。大学名だけじゃない、専攻や、出身地、家族構成・・自分のことを話さないのはもちろん、他愛も無い無駄話をしてても、ほとんど口を挟まない。教官に意見を求められると、あんなにスラスラと答える癖に。他のこととなると、ろくにしゃべらず、まるで、じっと周囲を観察してるようで・・・」

観察しているというのは当たっている、そう、鈴木は思う。
薪は、頭脳は明晰だが、人間との交流という物には、免疫が無い。
だから、じっと黙って観察し、状況を把握して分析し、学習しているのだ。

実際、薪はよくこなしていると、鈴木は思う。
しゃべり方すら、最初はぎこちなかったが、鈴木と会話しているうちに、すぐに自然な口調で会話がこなせるようになった。
他の同期の人間や、教官達との交流も、最初は戸惑っているようだったが、やがて、相手の話を聞き、態度を見極め、それに合わせることを覚えた。

だが・・やはりそれは、「合わせる」という、技術に過ぎない。
相手を信頼し、心を開くということは、自らの生い立ちや経歴を明かせないこともあり、なかなか難しいようだった。

「お前とは、よく話してるようだがな・・いつも、どんなこと話してるんだ?」
問われて、鈴木は顔を上げる。
「どんなって・・その日学んだ講義のこととか、読んだ本のこと、音楽のこと・・色々だよ」
「へえ・・」

『何故、こんなことを今更勉強する必要があるんだ? 皆、これまで勉強してきて、試験も突破してきた人間ばかりだろう。なのに、こんなことも分からないのか?』
薪の疑問に、鈴木は答えた。

『一口に勉強してきたと言っても、皆、専攻はバラバラだ。それに、国家Ⅰ種試験に合格するには、広範囲な知識や応用力が求められるが、警察官になる為の専門性のある勉強をした上で受けるものじゃない。警察官として社会に出ると決まった上で、改めて必要なことを学ぶんだ。これは、警察官に限ったことじゃない。それに君だって・・世の中の何もかもを知ってるわけじゃないだろう?』

『・・・・・・』
薪は黙り・・特に、鈴木の最後の言葉を、反芻しているようだった。

読書や音楽鑑賞も、勧めたのは、鈴木だ。
最初、薪は『知っている』と言った。
本なら、そのタイトル、作者、ストーリーの概要、出版社や出版年月までも。

『じゃあ・・実際に、読んでみたことは?』
『・・・・・・』
薪は、目を大きく見開き、鈴木が手にしていた本を、受け取った。
それから、本当に文章が頭に入っているのかと疑う程、信じられないスピードで、ページをめくっていった。

『終わった』
そう言い、すぐに続いて、言ったのだ。
『もっと、読みたい』

読書は、薪のライフワークの、一つになった。
薪は、この数ヶ月の研修の間に、膨大な量の本を、読破することになった。

音楽鑑賞は、また少し、違った。
最初、薪は、読書さながら、曲を早送りして聴こうとした。

『ちょ・・ちょっと待てよ』
鈴木は、音楽プレイヤーのスイッチを押す薪の指を止めた。
『そのまま再生するなんて、時間の無駄だ。早送りして聴いても、曲の内容は認識出来る』
そう言う薪の手を自分の手で包み、鈴木は言った。

『そういう問題じゃない。音楽は、ゆっくり聴くんだ。短時間に大量に聴く必要は無い。一曲でもいいから、音楽を聴くことを、その時間を、楽しむんだ』
『・・・・・・』
ニッコリ笑いかける鈴木を、薪は、じっと見つめる。

改めて薪は、部屋のベッドにもたれて座り、曲を聴き始めた。
鈴木も隣りに座り、同じ曲を、聴いた。

鈴木が、そんな光景を思い出していると、同期の男が、言った。
「とにかく・・謎が多いんだよな。オレ達、普通の男とはどこか違うって言うか・・薪は、エロ本を見たりするのかな」

ブッ・・と、鈴木はビールを吹いた。
そして、手の甲で口を拭う。

薪に出会った初日、鈴木は、薪に尋ねた。
『君は、普通に食事をするのか?』

『それは、1、機械で出来た身体は、何をエネルギー源とするか、2、人間の食べる食事を摂取した場合、機械の身体に支障は出ないのか、3、人間で言う三大欲求を、ロボットは抱えているのか、以上3つの質問のどれと理解したらいい?』

『・・・・・・』
予想外の切り返しに、驚きを覚え、束の間無言になった後、鈴木は言った。

『3つ、全部かな』
『では、順に説明しよう』
薪は、話し始めた。

『1、機械で出来た身体は、何をエネルギー源とするか。電気、あるいはガソリンといった燃料を、補給する為の接続部や開口部は、僕の身体には無い。口から食物を接種することにより、身体の内部でそれをエネルギーに変え、余計な物は体外に排出される。基本構造は、人間と同じだ。よって、2、人間の食べる食事を摂取した場合、機械の身体に支障は出ないのか、この答えは、支障は無い、だ』

薪の話に、鈴木は、感心したようにうなずいた。

『3、人間で言う三大欲求を、ロボットは抱えているのか、これは、YESとも、NOとも言える。食欲については、エネルギーが枯渇すれば、補給せねばならないという信号が脳に伝わる。これを、食欲と言い換えることも出来る。だが、人間のように、数時間で腹が減るということは無い。体内に蓄積されたエネルギーと、それを消費する量を自動計算し、最大96時間、食物を接種せずとも通常どおり動くことが出来る』

『つまり、4日間、飲まず食わずも可能ということか・・』
鈴木がつぶやくと、薪は言う。
『あくまでも、最大で、だ。身体や脳を通常以上に動かせば、当然エネルギー消費も早くなる。ただ、接種エネルギーを蓄積出来るシステムがある分、無駄なく利用出来るということだ』
よどみなく、薪は話す。

『睡眠欲についても、同様だ。休息することで、身体の修復や再生を促すことが出来る。例えば、僕の身体の表面は、人間とほぼ同じ構造の皮膚に覆われており、怪我をすることもある。修復にエネルギーを注ぐ為に、身体や脳の動きを停止する必要がある。また、怪我をせずとも、休息時間を設けなければ、エネルギー消費の効率が悪くなる。よって、睡眠は欠かせない行動の一つだ』

『だが睡眠も、食事と同じで、蓄積することが出来ることが、人間とは異なる点だ。時間のある時に頻繁に睡眠を取り、その後、3日3晩、一睡もせずに通常どおり動くことが可能だ』
『なる程・・』
鈴木は、うなずきながら聞いていた。

『それから、性欲についてだが』
食欲や睡眠欲について語るのと同様、ごく冷静に、薪は話す。

『これは、通常の生活では、無いと言っていいだろう。ただ・・一定の条件下において、発生することもあるが』
『条件・・?』

『一般の人間の男性のように、不特定多数の異性の裸体を見ることに快感を覚え、性的欲求を満たしたいという衝動が起こることは無い。そんな物は、人間社会でロボットが生きていく上で、不必要だからだ。だが、時と場合により、必要と判断すれば、性交渉に至ることも可能だ』

『せ・・!』
大胆な単語を口にしながら、あくまでも淡々とした薪の物言いに、鈴木は、思わず目を見張る。

それから、疑問を覚え、薪に尋ねる。
『必要というのは、つまり・・?』

薪は、言った。
『それが、僕にインプットされているデータの中で、定義が曖昧な部分の一つだ』

それから薪は、やや首をかしげて、話す。
『僕の脳には、人間に交じって生きていく上で必要な、様々なデータがインプットされている。だが、正確に定義付けられていない部分も多い。特に、人間との交流における対処法というのは、経験することでデータが補充され、その積み重ねによって、最善の方法を選択するようになる。いわゆる、学習機能が重要な部分だ』

『明確な定義付けがされていない部分においては、徐々に学習していくことになる。だがいずれにせよ、性欲は、食欲や睡眠欲と違い、ロボットが生きていく上で、必要不可欠な物ではないし、この先、発生することは無いと言っていいだろう』

・・つまり、薪がその手の本を見ることは、無いということだ。
そんなことまで、同期の男に説明する必要も義理も無いが・・。

そんな話をしているうちに、宴会の席の一角が、ひときわ盛り上がりを見せた。
一気飲みをけしかける声が聞こえ、「いいぞー!」と叫ぶ者も居る。

「あ」
鈴木は小さく叫び、立ち上がった。
「鈴木、どうした?」
隣りに居る男の声を無視し、その場を後にする。

一気飲みで盛り上がる座を一べつし、立ち上がった薪の姿を、鈴木は追っていた。
居酒屋の出口で、鈴木は薪に追い付いた。

「薪、帰るのか?」
薪が、振り返る。

「ああなると、ちょっと僕は」
そう言って、薪は肩をすくめた。

薪は、アルコールに弱い方ではない。
アルコールの身体への吸収を抑える機能があるからだ。
だが、以前にも、次々と一気飲みをする同期に囲まれ、薪もそれを強要されそうになったことがあった。

薪は、そういった場をかわすことが不得手であり。
厳しい目でその場を去り、残った座は白けるばかりだった。
それからは、強要される前に、早々にその場を去ることが、薪なりの対処方法だった。

「・・・・・・」
薪を見つめ、鈴木は言った。

「オレも・・オレも帰る。今、上着を取ってくるから。ちょっとだけ、待ってくれ」
鈴木の言葉に、薪は肩をすくめる。
「鈴木は、もうちょっと飲んで行けよ。じゃあな」

「薪・・!」
鈴木は呼び掛けたが、薪は歩き出してしまった。
鈴木は慌てて、一度席に取って返すと、声を掛ける友人達には目もくれず、上着を掴み、外へと走り出た。

鈴木は、いつもそうして、薪の傍に居た。
二人は、自他共に認めるライバルであり・・・友人だったのだ。





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