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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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Scene4:空気



「・・では、そこに、室長と副室長、お二人で並んでいただけますか?」
カメラを向ける人間がそう声を掛けると、捜査員達が割って入った。

「何で二人だけなんですか。室長、オレも入れて下さいよ」
「何やってんだよ、お前!」
部下達の声に、薪と鈴木も笑う。
その瞬間、フラッシュが炊かれた。

この日は、日本で初めて、実際にMRI捜査が始まる日。
広報誌に記事を掲載する為に、広報課の者達が取材に来たのだ。

和やかな空気が流れたが、他部署の人間が消え去ると、薪はきびすを返し、足早に室長室へと向かった。
「失礼します」
後を追う鈴木が、開いたドアの前でそう言いながら、続けて中に入る。

「何故、あんな大勢で押しかけるんだ? 取材なら、一人で済ませられる筈だろう。広報課の人間は、そんなに暇なのか? だとしたら、人員を削減した方がいい」
捜査資料を手に取りながら、薪は言った。

「取材にかこつけて、第九の様子を見てみたかったんだろ。こんな機会でもなければ、同じ警察機関の人間と言えど、そうそう中には入れないからな」
言いながら、鈴木が手を差し出すと、薪は一部を抜き取り、残った資料を鈴木に手渡した。

「どうせ、あの人間の中に、第九に勤務することになる者は居ない。将来の職場見学にすらならないのに、何故、見る必要があるんだ?」
「・・・・・・」
鈴木は、薪を見下ろした。
キツく聞こえる物言いだが、薪にしてみれば、事実と疑問を、率直に述べているだけに過ぎない。

「誰だって見たいさ。オレだってそうだ。・・それからな、薪」
呼び掛けられて、薪は、鈴木を見上げる。

「これから、口の聞き方には、気を付けた方がいい。お前に悪気が無くても、相手の立場にしてみたら、見下げられたような気分になることもある。そんな誤解を招くことは、お前自身にとって、不利になるだけだ」
「・・・・・・」
鈴木を見つめる、薪の淡い茶色の瞳が、大きく見開かれた。

だがすぐに、薪は平静な顔になり、
「始めるぞ」
そう言って、鈴木の横を通り過ぎた。

鈴木が配った資料を元に、捜査員全員で、事件の概要の確認がなされた後、いよいよ、MRI捜査が始められた。
「どこから見たらいいですか?」
部下の言葉に、薪は言う。

「事件当日の朝からだ。周囲の人間の証言によれば、被害者の学生は、朝の9時頃に大学に登校し、講義を受け、サークル仲間と食事をし、夜帰宅する際に、事件に合っている。逮捕された前田容疑者は、この学生を尾行していた可能性が高い。いつから学生を狙っていたのか、審理する際の、重要な証拠となる」

「つまり、まずは、画面の中に前田が映り込んでいるかどうかを、チェックするわけですね」
鈴木の言葉に、薪はうなずいた。
「自宅からの距離を考えると、起床は朝の6時ないし7時頃と見ていいだろう。まずは2時間毎に振り分けて、被害者の画を追うことにする。前田の姿を確認したら、僕に報告を」

「じゃあ、加藤は6時から、横山は8時から。オレは、10時からの検証をする」
鈴木と、二人の部下が、それぞれ、システムに向かう。

脳データを起動させ、目的の時刻の画を呼び出す。
機械が検索をしている間、鈴木は、身が引き締まるのを感じた。

そして現れた、その画像・・・
「!!・・・」
鈴木は、息を呑む。

研修を行なった際に見たサンプル画像とは比べ物にならない、その、鮮明な画・・・!

「画面の左端、視覚者から数えて8人後方に、前田が居る」
その声に、皆が振り返った。

部下達の起動の様子を、背後から確認していた薪が、横山の画面を見て、言ったのだ。
「し・・室長! この人込みの中から、見つけたんですか!?」
横山が叫ぶ。
それは、学生の通学途中の、雑踏の画。

実に、日本初のMRI捜査が開始され、画像が現れてから、45秒。

「白いTシャツに、グレーの上着。赤い文字のロゴが入った、白いキャップをかぶっている。かなり目深にかぶっているので、最初は確信が持てなかったが、今、顔を上げて学生の方角を見たことで、顔全体が確認出来た」
「・・てことは、いつから前田だと、目星を付けてたんですか・・?」

皆、呆気に取られている。
薪は、その画像だけを見ていたわけではない。
三人分の画面が起動する様子を、見ていた筈だ。
それなのに・・・

「お・・おい、さっきのところまで、画を戻せよ」
加藤が立ち上がり、その画面に近付いた。

「あ、ああ」
横山は、慌てて画面に向き直った。
既に画は、薪が容疑者を発見した場面から、ずっと先に進んでしまっている。

薪は言う。
「確認は後でいい。先に進めろ」
「え!? はい! あ・・・!!」

画面が、真っ暗になった。
戻せと言われたり、進めろと言われたりして、焦った部下は、操作を誤ってしまったのだ。

「はあ・・」
何も映さなくなった画面を見つめ、横山は、肩を落とした。

「研修で習ったことを、覚えていないのか?」
薪の言葉に、横山はギョッとした顔をし、身を硬くする。

「・・すみません」
「だったら、研修をし直した方がいいな」
「あ・・・・・」
横山は、それ以上、言葉も出ない。

「加藤」
「はいっ!」
薪と横山のやりとりを見ていた部下も、名を呼ばれ、慌てて返事をした。

「人の見ている画を確認する暇があったら、さっさと自分の仕事を進めろ!」
「・・・・・・」
加藤も、顔を引きつらせる。

「薪」
鈴木が、声を掛ける。
「こっちでも、それらしき人物が出た。見てくれ」
薪が顔を上げ、鈴木に近付く。

横山と加藤は、ホッとした顔だ。
「何をしている」
座ったまま首を伸ばし、二人に言ったのは、鈴木だった。

「横山、画の復旧は、すぐに出来るな。疑問点があれば、オレに質問を」
「あ・・は、はい!」
「加藤、お前も、室長の言葉が聞こえたろう。すぐに続きを検証しろ」
「はいっ!」

そして、それぞれが、自分の持ち場に戻った。

休憩に入り、室長室で、鈴木は、薪に言った。
「彼らに、あまり厳しいことを言うな。誰もが、お前のように、一瞬で画面の全てを認識出来るわけでもないし、研修で行なったとは言え、すぐにシステムの操作に精通出来るわけでもない」
「厳しい・・?」

薪は、意外そうな目で、鈴木を見上げ、言う。
「部下の覚えが悪いのなら、覚えるまで何回でも教えるのが、上の責任だ。必要なら、研修に戻してやることも検討せねばならないし、お前か僕が、教え直す時間を作ってもいい。だから、横山には、習ったことを覚えているのかどうか、確認したまでだ」

「・・そういうつもりだったのか」
鈴木は、微笑んだ。
「そうでなければ、何だと言うんだ」
薪は、鈴木を見つめたまま、言った。

それから薪は、デスクに向かって座り、コーヒーの入ったカップを手にした。
「なあ、薪」
鈴木は、その傍らに立ち、デスクに片手を付き、片手をポケットに入れて、薪に話しかける。

「お前の言うことは、全て正論だ。だが、正論であればいいというものでもない。部下を動かしていく限り、相手がどう受け止めるかも考えないと。こんなやり方じゃ、皆が、お前から、第九から離れていくぞ」
「だったら、離れていけばいい」
薪は、こともなげに、そう言った。

「そうじゃなくて・・」
鈴木は身体を起こし、片手で頭を掻きながら、ため息を付いた。

「もし、それが問題だと言うのなら、鈴木、お前が彼らを擁護すればいいだろう。さっきだって、今ここで言ったことを、彼らの前で、言ってやれば良かったんだ。何故、違うことを言う。さっきのお前は、まるで、僕の意見をフォローしているように見えたが・・」
「室長と副室長で、部下に対する態度が違ったら、彼らは、混乱するだろう」
鈴木は、薪の言葉をさえぎり、言った。

「それに、彼らの前で、オレが彼らを庇うような発言をすれば、ハッキリと物を言うお前に対して、オレはまるで、部下思いの物分かりのいい上司という役割になる。そんな役目を担うのは、御免だ。オレは、室長のお前に付いていく。その姿勢を変える気は無い」
鈴木は、キッパリと言った。

「・・・・・・」
薪は、鈴木を見上げていたが、やがて目を伏せ、コーヒーを一口、二口、飲んだ。
それからカップを置き、改めて前を向いて、言う。

「・・人間ていうのは、難しい生き物だな」
「?・・」
静かに話す薪の、その顔を覗き込むようにして、鈴木は聞き入る。

「心に思ったことを、心のままに口にする。ただそれだけのことが、許されない。組織の一員である為、人と人とが繋がりを保つ為には、心と違えたことを口にしたり、表現を変え、装飾を施したりせねばならない。これまでにも、嫌という程、思い知らされてきたが・・」

「・・難しいか?」
鈴木の問いに、薪は、目を伏せる。
「出来ないことは無い。だが・・本分である職務以外に、余計なことに神経と時間を使うことは、大変な無駄だと感じる」

「じゃあ・・」
鈴木は、言った。

「笑ってみろよ、薪」
「・・・?」
鈴木の言葉に、薪は不思議そうに、目を上げる。

「お前は、他の人間が居ると、滅多に笑わない。言葉を変えることが難しければ、とりあえず、笑顔を見せてみろ。それだけで、空気が一変する」
「・・空気、が?」
薪は、怪訝な顔だ。

「そうだ」
「・・・・・・」
薪は、難しい顔をしたまま、何度も瞬きをした。
鈴木の言葉が、今一つ、納得出来ないようだった。

「それと」
鈴木は、言葉を繋いだ。
「オレの前では、何も、作る必要は無いからな」

「・・鈴木」
薪の、こぼれ落ちそうに大きな瞳が、鈴木を見上げる。
それから、その瞳が徐々に細くなり、そこに、笑顔が広がった。

ほら。
お前の笑顔が、どんなに温かい空気を呼ぶか。
お前自身は、気付いていないかもしれないが。

捜査は、事件の、その現場へと進んだ。
分担しての捜査ではなく、捜査員全員で、モニターに映し出した、同じ画面を検証していた。
追われ、捕まり、生きたまま凄惨な扱いを受け、死に至る、視覚者の、その恐怖・・・・・・

「ぐっ・・!」
加藤が、口を手で塞ぎ、耐えている。
だが薪は、驚愕に目を見開きながらも、部下の様子には目もくれず、画面を食い入るように見つめている。

加藤が、助けを求めるように鈴木を見上げ、鈴木が無言でうなずくと、加藤は、口を塞いだまま、よろよろと室内を歩いて行き、ドアの外に出ると同時に、駆け出して行った。
続いて、横山も同様に、真っ青な顔で、部屋を出て行った。

鈴木も、胸に込み上げる物を感じていた。
だが、ここで、へたばるわけには行かない。
自分は、第九の捜査員なのだ。

「・・幻覚が混じっている」
薪の声がした。

「さっきまでは、現実の、実際に犯人にされている行為が視角に入っていた。だが、今は、現実の行為に、幻覚が混じっている」
薪の言葉に、改めて画面を見直してみれば、確かにどこか、先程までの画像とは違う、独特の雰囲気が漂っていた。

「報告会議では、この、現実と幻覚を区別した資料が、必要になるな」
「・・・・・・」
鈴木は、息も絶え絶えに、あえいでいた。

そこで何故か、画像が一時停止し、次いで消えた。
そして、部屋が明るくなる。

ふーっ・・と、鈴木は大きく、息を吐いた。
「鈴木」
薪が、鈴木の肩に、手を乗せる。

「大丈夫か?」
「ん・・」
何度も深呼吸をして、鈴木はうなずいた。

「・・情けないな。まだ捜査は始まったばかりなのに、しょっぱなからこんな調子で」
鈴木は、髪をかき上げながら、苦笑した。

「少し、楽な体勢になった方がいい」
薪は、椅子に座る鈴木の前に立つと、鈴木のネクタイに手を伸ばし、その結び目を緩めた。

「・・・・・・」
薪の白い顔が、鈴木の首に近付き、細い指が伸びたその時。
一瞬、心地良い香りが、鈴木の鼻腔をかすめた。

「加藤と横山は、トイレに駆け込んだみたいだな」
鈴木が言うと、
「・・すまなかった。もっと早く、画を停止して、休憩を取るべきだった」
薪が、静かな声で、言った。

「大丈夫か? 薪」
鈴木の言葉に、薪が、顔を上げる。

「僕は心配ない。僕は人間と違って、そんなにデリケートじゃない。分かっているだろう?」
「確かに。残酷な画を見ても、吐くようなヤワじゃない。でも、さっき、視覚者に、感情移入してるようだったから」
「・・僕が?」
薪は、驚いたように目を見開き、首をかしげた。

「お前は、画面を食い入るように見つめてた・・唇を噛んで。犯行の残忍さに、怒りに身を震わせていた。だから、画を止めるどころではなかったんだ・・」
言うと同時に、鈴木は、薪の片腕を引き寄せる。

「!!・・」
驚く薪の、その顔に手を伸ばし、鈴木は、薪の唇に触れた。

「ほら」
鈴木が、自分の指先を薪に見せると、そこには、微かに赤い物が付いていた。

「・・・・・・」
薪は、自分で自分の唇をなぞる。
切れる程に、自分は唇を噛み締めていたのかと、その時、気付いたようだった・・・。

「・・本当は、誰よりも、被害者の気持ちに寄り添っているのは、お前だ、薪」
鈴木が言い、薪も、何かを言おうと口を開きかけた時、部下達が戻ってきた。

「う~・・参った~・・・」
「鈴木さんは、大丈夫ですか?」
「オレもちょっと参ったけどな。心配ない」
まだ青い顔をして、鈴木に話しかける部下達を背に、薪は、室長室へと入って行った。

「・・室長は、捜査中に抜け出したこと、怒ってるんでしょうか」
「でも、あれを正視出来る方が、異常だよ」
部下達の言葉に、鈴木は言う。
「別に・・室長は、怒っているわけじゃない」

「そうですか? だって、何の言葉も無く、行っちゃったじゃないですか」
「大体、室長は、こんなの見て、よく平気ですよねえ」
彼らの言葉を、鈴木が制した。

「室長だって、平気なわけじゃない。それに、怒っているわけでもない。憶測で物を話すな」
「・・・・・・」
部下達は、互いに顔を見合わせる。
それから、鈴木に向かい、言った。

「副室長は、どこまでも室長の味方なんですね」
「室長よりは、少しは分かってくれると思いましたが、上司が二人とも部下の頑張りを認めてくれないとなると、オレ達も辛いですよ」
「そんなんじゃない。室長は、職務を全うしたいだけだ。分かってほしい」

ドアの向こうの会話は、薪の耳に届いていた。
部下達は、薪には聞こえないものと思って話しているようだが、薪の耳は、人間よりも小さな音を拾うことが出来るのだ。

「・・・・・・」
薪は、鈴木が、自分と部下達の間に入り、苦心しているその会話を、聞いていた。
これまでにも、幾度となくあった、同じような光景が、薪の脳裏によみがえる。

周囲で、自分がロボットだと知る、唯一の人間。
その鈴木に、余計なことに神経と時間を使うことは無駄だと言いながら、いつも、余計な苦労を背負い込ませているのは、他ならぬ、自分ではないか。

最初の頃は、それが、鈴木がプロジェクトを担うことを、契約したからだと思っていた。
ロボットの自分を守ること、それが彼の任務だから、こなしているに過ぎないと。

だが・・・・・・

『笑ってみろよ』

鈴木の言葉が、薪の中で聞こえた。
そして薪は、その言葉を自分の中で反芻しながら、鈴木が触れた自分の唇の、その傷に、触れた。





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