カウンター


プロフィール

かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


当ブログ拍手頁

最新の公開拍手コメのレスはこちら それ以前の公開拍手コメ&レスは、各記事の拍手ボタンを再度押していただければ読めます 鍵拍手コメにつきましては、拍手をいただいた記事下コメント欄にレスを書いております

所属してます♪


月別アーカイブ


最新記事


最新コメント


検索フォーム


 
Scene8:半月



「ぎゃああああああああっ・・・!!」

夕闇に、岡部の絶叫が木霊する。
乗り物が停止すると、岡部は、やっとの思いで椅子から降りた。
その顔は、真っ青になっている。

「大丈夫か?」
と声を掛けながらも、
「はい・・」
と返事をする岡部を待たずに、スタスタと先に歩いて行く、薪。

このパークに着いてから、岡部は薪に、アトラクションに付き合わされた。
フリーホールなら、コースター系の物より、乗っている時間自体は短いと踏んで、これを選んだのだが・・。

「移動するぞ」
そう言う薪の前で、待ち受けているのは。
さっきから、自分達の行く先々で現れる無人のクラシックカー。

車に乗り込み、薪が一言、行き先を告げると、
「かしこまりました。出発致します」
車の前方からアナウンスが流れ、車が走り出す。

夕日の中、帆船が並ぶ港を横目に眺めていると、すぐ目的地に到着した。
目の前にそびえるのは、古き良き時代を思わせる、豪華客船・・。

薪に続き、岡部も中に足を踏み入れると、そこには、広々としたダイニングルームがあった。
機械仕掛けの人形達のサービスを受けながら、薪と岡部は、そこで食事をした。

次々と出て来る料理を平らげながら、岡部は、テーブルを挟んだ相手の姿を眺める。
薪は、細い指にナイフとフォークを持ち、優雅な所作で、オマール海老を切り分けている。

今日の薪は、ウィングカラーの白いシャツに、クロスタイというスタイルだ。
パールピンで留められた、細身のえんじ色のタイは、薪の栗色の髪に、よく似合っていた。

クラシックでゴージャスなこのダイニングルームで、目の前に居る薪の姿を見ていると、岡部は、違う時代の、違う世界にやって来たような錯覚を覚えた。

ふと、岡部は気付いた。
「・・動いてる?」
「客船なんだ。動いて当然だろう」

岡部は立ち上がり、窓の外を見やる。
船は、ゆっくりと川を抜け、湖に入るところだった。

「いや・・地球の遊園地は、この船は動かなかった筈ですよ。子供の頃行ったきりで、定かじゃありませんが」
「あくまで、モデルにしただけだ。このパークの方が、規模としては遥かに大きい」

・・そう言われてみれば。
確かに、地球で見た物より、川幅は広く、湖も大きい。

その広大さに。
岡部が改めて見とれていると、船は、湖の真ん中で、停止した。

「フリーホールは苦手なのに。船酔いはしないんだな」
薪が、岡部を見て、言う。

「これだけ大きい船なら、揺れはほとんど感じませんよ。それに、船上ライブに招かれることも、よくありますし」
「船上ライブ・・」

薪がつぶやき、岡部が振り返った。




薪と岡部は、船の上。
風がそよ吹く、デッキに居た。

「中に、コンサートホールがある。必要な物があれば、用意する」
薪はそう言ったが。
「ギター1本あれば、充分ですよ」
岡部はそう言い、そして、この場所を選んだのだった。

「ここからの眺めが、好きなんだ」
薪は、デッキの端に立って、言う。

大きな湖の真ん中で。
辺りは闇に包まれ。
湖を囲む、街灯や、並び立つ建物から漏れる灯りが、浮き上がって見える。

「・・綺麗ですね」
岡部も隣りに立って、そう言った。

薪は、一度目を伏せて夜風を吸い込み、それから目を開けた。
夜の闇の中で、薪の瞳は、生き生きと輝いて見える。
岡部が、薪の横顔を見ていると、薪も顔を上げ、目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。

「・・・・・・」
岡部は、その顔を見て。
不思議な感覚が、胸をかすめるのを、感じた。

薪は視線を遠くに戻し、手を伸ばして指を指す。
「見えるか? あの塔が、さっき乗った・・」

「っ!!・・」
身を乗り出した薪が、一瞬バランスを崩す。
そして、薪が気付いた時は、自分の身体は、岡部の太い腕の中に、納まっていた。

「危ないですよ」
「・・・・・・」
薪は、大きく目を見開いていたが。
次の瞬間には、するりと身を交わして、その腕から逃れていた。

そして、岡部を睨み付けると、プイと向こうを向いた。

岡部は、頭を掻いた。
数時間前には、薪を人質にとすら思い浮かべたのに。
それどころか、とっさにその身を守ってしまった。

しかも、何という素早い身のこなしだろう。
これでは、薪を捕まえることなど、出来るわけが無いと思った。

「青木」
薪が振り向いて、その先に現れた人物に近付く。
「これでよろしいですか? じゃあ、オレは向こうに居ますから」

青木がその場を離れると、薪は、届けられたギターを手に、岡部の傍に戻ってきた。
薪が、ギターを岡部に示すと、受け取る前に、岡部は言う。
「お借りします。ですが、必ず返しますから。これもお前にやるなんて、言わんで下さいよ」

薪は一度岡部を見上げ、それから手にしたギターに視線を下ろし、言った。
「・・これは、お前でも、やるわけにはいかない」
薪の言葉に、岡部は改めてギターを見る。
それは、最高級品には間違いないが、ヴィンテージ物というわけでもない、使い込まれた感のある物。

「これは、父の形見なんだ。だから、誰にもやれない」
薪は、静かに言い、岡部は、胸につかえる物を感じた。
「・・・・・・」
薪がそっとギターを差し出し、岡部も、黙って受け取った。

「保存状態はいいですね。ただ少し、チューニングが・・」
岡部はその場に座り込むと、弦を鳴らしながら、調整を始めた。

薪もその前に座り、岡部の姿を、じっと見ている。

「ブルース・ギターは、父の趣味だったんだ・・」
薪は、岡部を前に、静かに話し出した。

「母は、早くに亡くなり、僕にはその記憶すら無い。父は、忙しい人だったから、息子の僕を相手にするような暇は、ほとんど無かった。だが・・ギターを手にしている時だけは、父はリラックスし、今のように、僕はその様子を傍で見ることが出来た・・」

・・岡部は黙って、ギターを爪弾いている。

「弾き語りをすることもあった。お前の歌を初めて聴いた時・・僕は、その声が、父に少し似ていると感じた・・」

「・・・ストラップは、ちょうどいいか」
調整を終えたのか、岡部は、改めてギターを抱え直し、ギターストラップを肩に掛け、立ち上がる。
薪も立ち上がり、少し離れて、手すりにもたれる。

岡部は、曲を弾き始めた。

「・・・・・・」
明らかに、さっきまでと違う岡部の顔つきに、薪は、思わず見入る。
岡部のかき鳴らすギターの音が、湖面に流れて行く。

弾きながら、岡部は深呼吸をし、リズムを合わせ、歌い始めた。
「The thrill is gone・・・」


スリルは去った。
スリル溢れる日々は、去ってしまったよ、ベイビー

君は間違ったことをした
分かってるだろう?
でもいつか、悔やむ日が来るだろう

君とのスリル溢れる日々は
オレのもとを去った
オレは、なんとか生き延びながら
きっと、とてつもない寂しさを味わうだろう

スリルよりも
もっと良い暮らしが待っている
いつか、オレは全てを終わりに出来るだろう
そう、賢い男ならそうするように

オレは自由だ、ベイビー
君の束縛から解き放たれた
そして、全てが終わってみれば

オレに出来ることは
君の幸せを願うことだけ


出だしは静かに。
やがて激しく。
深く響くその声が、夜のしじまに、溶け込んでゆく・・・

キュ~ン・・・と、最後の一音が鳴り止んで。
岡部は、目を上げる。
薪と、目が合う。

途端に薪は目を見開いて、慌てたように顔をそむけた。

ほんの一瞬。
向こうを向く薪の目に、光る物が浮かんでいたように・・見えた。

久々にギターを鳴らし、歌い上げたことで。
岡部は、充実感を味わっていた。
一気に火照った身体に、吹き寄せる夜風が心地良い。

薪を見ると、薪は、空を見上げていた。
その視線の先には、いつの間にか上っていた、月。

「半月ですね」
岡部は、薪から数歩離れた隣りに立ち、言った。

「聞いてみたかったんですが」
岡部の言葉に、薪は顔を上げる。

「オレに会うことが目的なら・・どうして、事務所に依頼しなかったんですか?」
薪は、岡部を見つめている。

「コンサートの予定は詰まっていましたが、1日や2日、この惑星に寄る位なら、いくらでも融通が利いたでしょう。あなただったら、事務所が、他の予定をキャンセルしてでも、ここでのコンサートを優先したくなるような報酬を提示出来たんじゃないですか?」
「・・・・・・」
薪は、一度目を伏せ、それから、顔を上げて、言った。

「・・そしてお前は、バンド仲間や、マネージャーや、沢山のスタッフを引き連れて、この星に乗り込むことになる。バンドのギタリスト、ブルース・キングとして」
薪は、デッキから、湖面を見ている。

「客は、僕一人。17歳の子供一人相手に、お前もスタッフも、頭を下げる。たとえ僕が、勝手な要求をしても、きっと拒まない。内心ではこんな子供と思いつつ、笑顔を貼り付け、僕のご機嫌を取るだろう。僕が・・金を出す人間だからだ」
「・・・・・・」
岡部は、何も言えず、薪を見つめた。

「今までも、そうだった。僕がしたいと望むことは、全て叶えられた。誰も、僕の要求を断わったりしない。皆、僕に・・僕が持つ金という物に頭を下げ、かしづいた。僕を本気で叱るのは、亡くなった父一人・・父だけだったんだ」

「父が亡くなった当時、多くの人間が、よからぬ思惑で僕に近付いた。まるで、ハイエナのように・・。だから僕は、青木と二人、ここに居る。この星に住むことは、自己防衛の手段なんだ」
その時、岡部は、自分達が居るデッキから少し離れた奥の部屋で、ガラス越しにこちらを見ている、青木の姿に気が付いた。

「・・後から思えば、父がこの星を僕に買い与えたのは、最初から、そういう目的があったんだろう。父は、いつか訪れる自分の死期の為に、僕の居場所を、作っておいてくれたんだ」

「だが・・いつまでも、ここに、この星に居られるわけではない。一年後には、外に出ねばならない。だから僕は・・お前を呼び寄せたいと望んだ」
薪は、じっと岡部の顔を見つめる。

「こんなことが出来るのは、今年が最後だ。だから僕は、無理を通した。大勢のスタッフを引き連れて、コンサートを開く為にやって来るお前を望んだんじゃない。岡部靖文、お前自身に、会いたかった」
「・・・・・・」
岡部は無言のまま、薪の話を聞いていた。

「・・ここに来てすぐ」
薪は、つぶやくような声で、言う。

「お前は、僕に怒って見せたろう」
「え・・え?」
岡部は、頭を巡らせる。

「僕が用意した物を、全て拒否して。僕が、どれだけの人間を苦しめているのか考えろと。いい加減目を覚ませと、お前は言った」
「あ・・」
確かに、岡部には、そんなことを、言った覚えがあった。

「誰かに叱られるのは・・久しぶりだった」
薪は下を向き、もう少しで、風に掻き消えてしまいそうな、小さな声で、言った。

「薪さん・・・」
岡部は、立ち尽くしたまま、薪を見つめた。

「お前は最初から、僕という人間を見てくれた。その瞬間・・まるで、父が帰ってきたようだった。周囲に、そんな人間は居ない。だから・・だから岡部・・」

何かが肩に乗せられた感触に、薪は顔を上げた。
「薪さん」
岡部が、薪の肩に手を置き、薪を見つめていた。

「薪さん、言ってましたよね。欲しい物は、何でも買ってやる。不自由はさせない。だから、このまま、傍に居てくれないかと」
そう話す岡部の目は、優しい光を湛えていた。

「薪さん。自分自身を見てほしいと望むなら、金で何かを買ってやろうなんて思わない方がいい。いつかきっと・・きっと、あなた自身を見てくれる人が、金なんか払わなくても、あなたの傍に居てくれる人間が現れます」
「岡部・・」

「・・でも、それはオレじゃないんです」

・・青木が見ているガラス窓の向こう。
その先で。

二人の人間が、寄り添っていた。

岡部は、薪の肩に手を置き。
薪はうつむいて、じっとしている。

薄闇の中。
月明かりに照らし出されたそのシルエットが、青木の目に映った。

やがて・・岡部はまた、薪から離れ。
ギターを持ち直し。
何かの曲を弾き始めた。

薪は、船の手すりにもたれ。
岡部が紡ぎ出す音色に、聴き入っているようだった。





関連記事

コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○9/8に鍵拍手コメント下さったAさま

コメントありがとうございます。
レスが遅くなってしまい、すみませんでしたm(_ _)m

遊園地デートは元ネタには無いですが、3話目で薪さんが、「乗ってみるか?」と言った瞬間に、実際に乗ってらっしゃる画が浮かびました(^^;)
薪さんと遊園地デート、自分だったら、フリーホールだろうがジェットコースターだろうが、恐さも忘れてお隣りの薪さんに見とれていそうです(笑)

原作岡部さんの懐の深さが、お父さんを思わせるのかもしれません。
それに、薪さんは家族思いなイメージがあります。
なのに天涯孤独だなんて・・悲しいですね(TT)

マーティが放った言葉を、言い方とシチュを変えて岡部さんにおっしゃっていただきました。
深みがあるとのこと、嬉しく思います(*^^*)

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

■この記事のトラックバックURL

⇒ http://kanon23.blog36.fc2.com/tb.php/794-69cc1a79

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

■この記事へのトラックバック

 | BLOG TOP |