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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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第ニ話:一見の客



それは、雨のせいだったのか。

人通りはまばらで、店の前で客が足を止める気配は無い。
馴染みの客からの、宴席や屋敷へのお呼びも無い。

普段は、常連客や、常連客に紹介された客ばかりを相手にしていて、初めての客は、滅多に引き入れない山の井が。
この日に限って、通りを歩く客を呼び止めたのは、このままでは、一日客が取れないと見込んだからだった。

声を掛けたのは、薪だ。
相手は、誰か目ぼしい人間は居ないかと、薪が店先に顔を出した折り、ちょうど通りかかった男。
山高帽をかぶった洋装姿で、傘を差して歩いていた。

目の前に立ちふさがった薪の姿に、男も立ち止まった。

「旦那、寄って行きませんか?」
初対面の相手と見て、丁寧な口調で、薪は誘う。
見上げた薪のその容貌に、男は、言葉を忘れたようだった。

この日の薪は、紺色の無地の着流しに、淡い茶色の帯を締めた姿。
やや襟元は開いているが、はだけてはいない。
色子にしては、ごく地味な成りではあったが、小雨を受け、しっとりと濡れた額や鎖骨の辺りから、得も言われぬ色香が立ち昇っていた。

男は微笑むと、黙って薪の頭上に、自分の傘を差し掛けた。
そのまま、男が薪を傘に入れる形で、店の中まで入って行った。

そんなきっかけで、この男は、山の井に上がることとなった。

薪と男は、二階の六畳の小座敷に入り、運ばれた酒を飲み、肴をつつきながら、座って話をしていた。
男は、まず薪の名を聞き、それから年を尋ね、驚いた顔をした。

その後は他に話題も無く、男は、薪の素性を尋ねるしかなかった。
「士族の出か? それとも、平民か?」
「さあて」
男の問いに、薪は、まともに答えようとしない。

男は、なおも問う。
「先祖に、異人の血が入っているのは確かだろう。親は、異国から渡った人間なのか?」

薪は、ちらりと男を見上げると、とっくりを手にし。
「そう。僕は、道ならぬ恋に落ち、日本へと渡ったオランダ国の王女の息子。世が世なら、僕は王子。王子の酌を、謹んで受けるがいい」
そう言って、傍らの膳に乗ったお猪口へと、酒を注いだ。

「おい。客の猪口を膳に置いたまま酌をする奴があるか」
「これが、山の井一家の流派ってやつでね。置き注ぎなんて、まだいい方だ。畳に酒を飲ませたり、客に一気飲みをさせる作法もある。そして、気に入らない客には」
言いながら薪は、とっくりを、今度は自分の猪口へと傾け、客に許可も得ずに酒を注ぐ。

「酌をしないっていう作法もある」
最後にそう言うと、薪は、自分の猪口へと注いだ酒を、ぐいっとあおいだ。

酒を飲みほしたその口を手の甲でぬぐい、薪は、客の顔を見つめる。
客は怒る気配も見せず、ただただ、薪の言動に見入るばかりだ。
そして、フッと微笑むと、改めて、薪に尋ねる。

「お前の経歴を聞いてみたいものだ。ただの色子とは、とても思えない。どんな素性で、どういういわれでここに来た? 役者志望か? ここに居る目的は何だ?」
矢継ぎ早な男の質問にも、薪は、肩をすくめるだけだ。

「なあ」
男は、猪口を手にする、薪の横顔を、じっと見つめ、言った。

「こういう商売だ。嘘で固めねば、やっていけないところもあるだろう。だが、お前から、この店に誘ったんだぞ? 少しは自分のことを話したっていいだろう。一体、誰の為にここに居るんだ? 親兄弟の為か?」
真剣なその声に、薪は、顔を上げる。
男の瞳と、薪の視線が、ぶつかった・・・。

「そんなこと、とっくに忘れた。所詮、こんな仕事をしている身だ。この先だって知れたことか」
「・・・・・・」
投げやりに放った薪の言葉を、男は、黙って受け止めた。

しばらくの沈黙の後、男は言う。
「・・この仕事をしていたって、いくらでもやり直しは利くだろう。お前なら、例えば役者としてだって、充分やっていける筈だ。身受けして、傍に置きたいと言う人間だって居るだろう。それとも、そんな決まった道は、お前には窮屈なのか?」

「そんなところだ。その日その日で、訪れる客と過ごす。それが僕の生き方だ。客の方だって、そのつもりでやって来る。一時の遊びの相手・・その場の熱が冷めてしまえば、僕など、用の無い生き物だ」

薪の言葉に、男は、首を横に振る。
「自分に、そんな言い方をするもんじゃない。第一、さっきだって、店先で誰かがお前に言づてしたいと言っていたと、店の者が伝えに来たじゃないか。その場限りではない相手が、誰か・・居るんじゃないか?」

薪は、男を見つめ、話し出す。
「お前は・・何故、そんなことを聞く。ああ、確かに。僕に夢中だと言い、共に暮らそうと言ってきた輩も中には居た。だが、そんなことは、一時のことだ。現実を見てみれば、親や、店の主人の目が怖くて、僕のような者を囲えっこない。結局は、相手の方から離れていく・・いつものことだ」

話し終えると、薪は、一度フッ・・と息を吐き、それから、顔を上げて言った。
「こんな話をして、何が楽しい。もっと楽しむ方法を教えてやろう」

薪は、パンパンと、力強く手を叩いた。
仲間の男達がやって来る。

「薪さん。何かご用ですか?」
小池が、座敷に顔を出して言った。

先に小池に言葉を掛けたのは、客の方だった。
「おい、薪が懇意にしている男というのは、何と言う名だ?」
「は!?」
突然の客の質問に、小池は一瞬うろたえたが。

「・・そうですね。薪さんが懇意にしている男というのは、今、目の前に居る旦那じゃありませんか?」
そう言って、小池は、ニッと笑って見せた。
客の前で、他の男の名を口にするのは、無粋過ぎる。
小池の口から、とっさに出た機転だった。

「オレは、今日上がったばかりの客だぞ。一体何を・・」
苦笑して、小池と薪を交互に見やる男を見て、小池は、調子に乗ったのか。
「旦那の職業を、当てて見せましょうか」
そう言って、細い目をじっと、客の顔に向ける。

「そう見るなよ。オレは、ただの官吏だ」
客は、手を振り、笑いながら言う。
官吏とは、今で言う、公務員のことである。

「日曜でもないのに、遊んで歩いてる役人が居ますか。全く、嘘はいけませんよ」
小池は、真面目な顔で言う。

「だったら、何だと思う? 分かった人には、褒美をやろうか」
その場の雰囲気を面白がったのか、客は、財布を取り出して見せた。

「そうだな。じゃあ・・」
薪は立ち上がり、同時に、すかさず客の手から財布を奪う。

「このお方は、華族様だ。仕事なんてしなくていいご身分。そういうことだろう」
言いながら、薪は客に遠慮もせず、財布の口を開け、金を取り出す。
「華族の殿様。小池にこれを預けて、皆の者に祝儀を遣わしてはいかがか」

「え・・ちょっ・・!」
薪のその様子に、慌てたのは、客ではなく、小池の方だった。

「ま、薪さんっ! いくら何でも、そんな勝手なことを・・」
「ここから今日の支払いを済ませ、残りは皆で分けろ。殿のご厚意だ」
焦る様子の小池に対し、客はと言えば、薪のそんな様子を、微笑みながら見ているだけで、止めようとする気配も無い。

小池は、ツバを呑み込み、
「本当に・・よろしいんですか?」
客に念を押し、相手が肩をすくめるのを確かめると。

「ありがとうございます・・!!」
そう言って、頭を座敷に深々と垂れ、顔を上げた途端、薪が差し出す金を素早く掴み、部屋を出て行った。

「腰が低いようで、肝心なところは持って行った。大した奴だ」
客は、小池の後ろ姿を見送ると、感心したようにそう言った。

薪は、軽くなった財布を客に返すと、それから窓辺に歩み寄り、障子を開けた。
手すりに寄りかかり、外を眺める。

そんな薪を見て、男が言う。
「薪。お前は? 金が欲しくはないのか?」
薪は振り返り、手にした紙片のような物を、かざして見せる。

「僕は、他に欲しい物があったから」
「あ!・・オレの名刺。いつの間に・・」
男は、驚きに見開いた目で、薪を見やる。

「すずき、かつひろ」
薪は、名刺の文字を読み上げた。

外の雨は、いつの間にか止んでいる。
通り過ぎるそよ風に、髪を波打たせる薪を、鈴木はじっと・・見つめた。

「その名刺は、お前にやる。その代わり、オレにも何か・・そう、お前の写真をくれ」
鈴木は、言った。

薪は、窓辺にもたれたまま、鈴木に顔を向ける。
その顔をなおも見ながら、鈴木は言った。
「写真は、持っていないか? だったら、今度、写真館に一緒に撮りに行こう」

薪は何も答えず。
ただ・・そっと、微笑んだ。

帰り支度を始めた鈴木を、薪は、引き留めようともしなかった。
鈴木は、上着を羽織り、山高帽をかぶって、階段を降りていく。

客が帰ると知り、小池や、店の主人を始め、この店の者達が、一斉に店先に集まってきた。
やって来た車に乗り込む客に、
「ありがとうございました! またのおいでをお待ち申し上げております!」
唱和する声が木霊した。

むろんこれは、先程鈴木の財布から出た、ご祝儀のせいに他ならない。

一人、二階の窓から見送っていた薪は、店の前から走り出す車を、眺めていた。
車が去ると、階段を上がってくる、大勢の足音が聞こえる。

「さすがは薪さん!」
口々に褒めそやし、礼を言う店の者達に薪が囲まれたのは、そのすぐ後のことだった。






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