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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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第五話:指



青木は寝苦しさに、目が覚めた。
暑さのせいか、寝汗をかいている。

青木は、一人縁側に出た。
帯を緩めて、浴衣の前合わせを開き、夜の庭を向いて座り込んだ。

その場に置きっ放しになっていたうちわに気付き、手に取ると、ゆっくりと身体をあおぐ。
ぬるい風を感じながら、青木は、ぼんやりと物思いにふけった。

青木は、太吉が薪のことを「鬼」と呼んでいることを知っていた。

お雪が言ったわけではない。
お雪は、そんなことを子供に吹き込むような女ではない。

自分が、薪の元に通っていた・・・離れられなくなっていたあの頃。
周囲の人間が、そう噂していたのを、太吉は耳に入れたのだ。
太吉は、詳しいことは定かでなくても、父親が家族を置いて出歩いているのは、薪のせいだと、何となく感じ取っていたようだった。

だが、薪が悪いのではない。
何もかも・・自分のせいだ。

自分には、他にやるべきことがあると分かっていた。
分かっていても・・どうしても、離れ難かった。
どうしようもなかったのだ・・・。

ふと、思う。
もし、薪と出会っていたのが、お雪と出会う前だったら。
そもそも、薪と自分が、別の形で出会っていたら・・・・・・。

そこで青木は、顔に手を当て、くくっ・・と、低く笑った。
自分は、何を考えているのだろう。
色子と客という関係でなかったら、薪は最初から、自分など、相手にしていなかったに違いない。

・・・・・・。
だが、本当にそうだろうか。
薪と自分の間には、本当に、それしか無かったのだろうか。

青木は顔を上げ、空を見上げながら、薪と出会った時を、思い返していた。




この界隈の裕福な商人の息子達にとって。
年頃になれば、花町遊びをすることは、珍しくもないことだった。
現に青木も、独り者の頃は、女を買ったこともある。

女房をめとり、子供が出来ても、通い続ける男も居る。
仕事さえきちんとやっていれば、多少の遊びは許される、そんなものだった。

だが青木は、お雪が来てからは、そんなことをするつもりは無かった。
自分からお雪に惚れていたし、大事にしようと思っていたのだ。

だが、祝言を上げ、本来なら、一番に甘いひと時を過ごす頃に。
お雪は既に身重で、子供が生まれたら生まれたで、産後の肥立ちが悪く。
そんなお雪に、青木は、無理をさせる気にはならず。
やっとお雪の身体が回復した頃には、お雪は赤ん坊の世話に追われていて、青木の相手をするどころではなくなっていた。

「まったく、そのままでは、男盛りが泣くぞ」
遊び仲間である、近所の商人の息子から、お呼びが掛かったのは、そんな時だった。

「なあ青木、どこにする? お前がしばらく来ないうちに、女達の顔ぶれも随分変わったんだぞ」
「でしたら、曽我さんにお任せしますよ」
日暮れ時、嬉しげに話す年上の遊び仲間と共に、青木は、賑やかな通りを歩く。

夕立ちが来そうな空模様で、傘を手に出てきたのだが。
幸い、降り始めてはいなかった。

青木も、立ち並ぶ店の活気に久々に触れ、心は浮き立っていた。
だが・・・。

「兄さん、寄って行きなさいよ」
「旦那、ねえ、いらっしゃいな」
女達が、次々に声を掛けてくる。

伸ばされた手。
派手な着物。
白粉と紅の匂い。

「寄ってってよ。ねえ」
「へへっ・・おい、青木、ここにするか?」
しなだれかかってきた女を見下ろし、曽我は、足を止めた。

「兄さん、おいでよ」
同じ店から出てきた別の女が、青木の腕に絡み付く。
「・・・・・・」
青木も足を止め、けれど、そっと女の腕を外す。

「曽我さん、すみませんが、オレはここで」
「あ? 何言ってんだ?」
曽我が、振り返る。
だがその時、既に青木は、背を向けて歩き始めていた。

「おい・・おい!青木!」
曽我は驚いた顔で、去っていく青木の背に声を掛けたが、青木はそのまま行ってしまった。

「何だい!もう!・・」
あぶれた女が、今度は曽我にすがり付き、両腕に女を従えた曽我は、満面の笑顔で、そのまま女達と店の中に入って行った。

青木は、一人歩いていた。
久しぶりの花町遊びを、楽しみにしていた筈なのだが。
女達の化粧の濃さ、むせ返るようなその匂いに、どうも気分はそがれてしまった。

初めてここに足を踏み入れた頃は。
それが何とも魅惑的に思えたものだが。

「オレも年かな・・・」
青木は、つぶやいて苦笑した。

早く、家に帰ろう。
青木の脳裏には、お雪と、その傍らで眠る赤ん坊の顔が浮かんでいた。
そうだ、せっかくここまで来たのだから、土産に、日の出屋の菓子でも買って行こうか。
足を止め、店のある川向こうへと、歩く向きを変える。

折から、ぽつぽつと、雨が降り出した。
傘を開いて差すと、徐々に雨足が強くなってきた。

足を早め、橋を渡ろうとした、その時。
一人、橋の真ん中に立っている人影に、青木は目が留まった。

後になってみても。
何故、その人が気になったのか、青木は自分でも説明が付かなかった。

雨の中、傘も差さず。
川に向かって、佇んでいた。
行き交う人々が、皆、急ぎ足で通り過ぎる中。
そこだけ、時が止まっているかのようだった。

青木は我知らず足を止め、その人を見ていた。
男とも女とも言えない、細身の立ち姿。
頭には、手拭いのような、白地にやや薄桃色の絞りが入った布を乗せ、その両端が、華奢な肩に垂れている。

青木の目の前で、その人は、両手を橋の欄干に掛けた。
そして、川を覗き込むように、上体を前に倒し・・・

「あ、あの・・!!」
青木は思わず駆け寄り、声を掛けていた。

「・・・・・・」
その人は、振り返る。
青木を振り返る。

頭に掛けた布の間から、通った鼻筋がまず見え。
更に白い頬が、こちらを向いて・・・

橋の上で。
二人は向かい合っていた。

「あの・・どうぞ」
青木は、手にした傘を相手に差し掛けた。

「・・・・・・」
相手は何も言わず、微動だにせず、青木を見上げている。

先程、男か女か測り兼ねたのは、その着物のせいであったとも、青木は気付く。
男物の着流しであることには違いないのだが、まるで女物のような、淡い紫色をしている。
だが、下駄は紛れもなく男物だし、足をやや開いて立つ仕草からも、男であることは間違いないだろう。

そして、男であるにせよ、女にあるにせよ、青木は、こんな顔をした人間を、見たことは無かった。
細い首の上に乗った、白い顔。
くっきりとした鼻筋に、青木を見上げる、大きな瞳。
揺らめく瞳の色は淡く、青木は、この世のものではない物を、見たような気がした。

青木は、瞬きをすると、もう一度、話し掛ける。
「すっかり濡れてしまってる。どうぞ、この傘を使って下さい」
青木が、傘の柄を差し出すと、相手も手を上げ、それを受け取った。
手渡す瞬間、触れた相手の指は、ひやりと冷たかった。

「・・・・・・」
相手は無言のまま、傘の柄を見つめ、それから、再び青木を見上げる。

「別に、返す心配は無用ですから」
青木が言うと、相手は、初めて口を開いた。
開く瞬間、ふっくらとした唇が動く様に、青木は目を引かれた。

「お前は・・?」
「オレは、布団屋の青木という者です」
「そうじゃなくて・・お前は、家までどうするんだ? 帰り着くまでに濡れてしまう」

その言葉に、青木は微笑む。
「オレは、身体が丈夫なことが取り柄ですから。これ位の雨に濡れたところで平気です」
じゃあ、と言って、青木は雨の中を歩き始めた。

数歩行き掛けたところで、声がした。
「待て」
青木は、立ち止まる。

「待て。青木」
相手は、もう一度言った。

青木は、振り返った。




結局、一つの傘に二人で入り、青木は、相手を送っていくことになった。
元来た道を辿り、途中から、道を一本外れた奥へと入って行った。
曽我と歩いた通りと比べて、やや落ち着いた趣きの店が並んでいる。

「ここだ」
相手が先に立って入り、青木も、傘を畳んで後に続いた。
すぐに男が出てきて、青木の傘を預かり、濡れましたでしょうと言いながら、手拭いを差し出した。

土間で身体を拭きながら、辺りを見渡していると、先に上がった相手が、声を掛ける。
「何をしている。上がれ」
「え? いえ、オレはもう・・」
帰りますと言おうとする青木に、この家の主人らしき男が出てきて、青木に言う。

「うちの者を送って下さったそうで。ありがとうございました。お礼もせずにお帰しするわけにも行きませんから。どうぞ、お上がりになって下さい」

いえお構いなくと青木は言うが、主人はどうぞどうぞと、青木を急き立てる。
送った男は、腕組みをして立ち、青木を見ている。
帰ろうにも、傘はどこかに持って行かれてしまい、外に出ることも出来ない。

青木は、では少しだけと、頭を下げて、上に上がった。

階段を上がり、二階の小さな座敷へと入る。
男は、ここで待っていろと言って、一度席を外し、青木が腰を落ち着けると同時に、早速酒や肴が運ばれてきた。
やがて男が再び顔を見せると、膳を運んできた者達は、どうぞごゆっくりと言って去る。
後には、男と青木の二人が残された。

男は青木にぐい飲みを持たせ、酒を注ぐ。
すみませんと言い、青木は、それを口に運んだ。

それから、相手に向かって、口を開く。
「ここは、あの・・」
言い掛けて、青木は改めて部屋を見渡した。

六畳ほどの座敷。
ふすまも畳も小奇麗で、店であることは間違いないようだが、普通の料理屋という感じでも無い。
そう、言うならば・・・

「山の井の薪を、お前は知らないのか?」
言われて青木は、相手を見つめた。
山の井・・山の井と言えば・・・

「え・・・?」
その店の名は、青木も聞いたことがあった。
この花町には、女ではなく、男を売る店もある。
中でも、山の井は、評判の色子が居て、大層な入りであると。

言われてみれば、傘を畳んだ時、店の入り口に「山の井」という看板を見たようにも思う。
だが、男を買うという発想が全く無い青木は、聞いた噂も忘れ、看板の文字を見ても、ピンと来なかったのだ。

「え・・じゃあ、あなたは・・」
青木は、半信半疑で、相手を見つめた。
すると、薪は立ち上がり、すぐ後ろのふすまを開けた。

「!・・・・・・」
青木は、目を見張った。
隣りの部屋には、布団が敷かれていた。

「あ、あの・・」
青木は、言葉を失っている。
薪はすぐに後ろ手でふすまを閉めた。

「安心しろ。その気も無い奴を、取って食ったりはしないから」
そう言う薪の顔は、こちらを見て、微かに笑っているようにも・・見えた。

薪は、青木の前に座り直す。
袖をまくり、とっくりを持ち上げて促す薪に、
「あ・・はい」
青木は、酒を注いでもらう。

「今日のこれは、店からの礼だ。僕も飲むから、お前も、何も気にせず、食べて飲んで行けばいい」
そう言って、薪は、手尺で自分にも酒を注ぎ、くいとあおった。
その様子を見て、青木も、手にしたぐい飲みの酒を呑み干す。

ふう・・と息を付き、青木は、改めて薪を見つめた。
薪は濡れた着物を着替えたようで、先程とは違う、紺色の浴衣姿になっている。
これが、この花町で評判の、山の井の色子・・・

だが、目の前に居る男は、質素な成りで、とてもそうは見えない。
先程見てきた、派手な着物や化粧で固めた女達とは、何と言う違いだろう。

白粉も紅も無く、無地の浴衣一枚の薪。
だが・・薪には、素のままでの、美しさがあった。

外では、布をかぶっていてよく見えなかったが、髪は、淡い茶色をしていた。
さらさらとしたその髪が、白い顔に掛かる。
伏せた目元には、長い睫毛が並ぶ。
ぐい飲みに口を付ける唇は、酒に濡れて、ほんのりと赤い。

抜けるような肌の白さが、紺地の着物に映える。
細い首筋から、やや開いた前合わせの間に見える胸元へと続く、きめ細やかな肌に、青木は目を奪われた。

「・・・・・・」
ふと気付けば、薪が、青木を見上げていた。
薪と目が合い、自分が薪の姿に見入っていたことに青木は気付き、途端に顔が熱くなった。

「・・・青木」
薪が、青木の名を呼ぶ。
青木は我に返る。
薪が、とっくりを差し出していることに気付き、青木はぐい飲みを差し出した。

薪が酒を注ぐ。
細い指、白い腕・・・。

「あ・・」
ぐい飲みが傾き、青木の手に酒がこぼれた。
「すみません」
青木は慌ててぐい飲みを膳に置き、拭く物が無いかと辺りを探す。

すると・・・

「・・!」
青木は、目を見開いた。
薪の手が青木の手を捉え、引き寄せ・・とっさに、青木は振り払えなかった。

そして。

薪は舌を出し、青木の指にこぼれた酒を、その指を。
味わうように、舐め始めた。

「あ、あの・・・」
青木はうろたえるが、薪は、その手を離さない。
ゆっくり、ゆっくりと、青木の指にこぼれた酒を、舌を動かして、舐め取っていく。

「・・・・・・」
青木はもう、声も出ない。
息が上がる。
胸の音が、激しくなっていく。

薪は、青木の指を、今度は口に入れる。
入れて、口の中でその指を愛撫しながら、青木を見上げる。

「くっ・・!!」
薪のその瞳を見て、青木はもう、耐えられなくなった。

「!!」
次の瞬間、青木は、薪の肩を両手に捉え、薪をその場に押し倒した。

薪を抱き締め、首筋に口付けを落とし、更に唇を捉え、激しく口付ける。
薪も、青木の両肩に腕を回し、その口付けに応えた。

身体のどこかに膳が当たり、倒れ、酒がこぼれた。
だが、薪も青木も、もうそんなことには、気付かなかった。

ただ、ただ。

相手の身体を抱き締め、互いの熱さを、感じていた。






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