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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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第六話:宴



盆の七月十六日の夜は、どこの店も客で溢れる。
山の井の大座敷でも、顔馴染みの客が集まって、宴が催されていた。

薪は、そういった賑やかな場を、あまり好まない。
だが、店の者が、奥の部屋に居た薪の元まで足を運び、言った。
「旦那方が、薪さんを呼べと言って聞かないんです。どうか顔を出して下さい」

薪は、細い首を傾けて、首を伸ばす仕草をすると、息を吐いて、立ち上がった。

座敷のふすまが開き、そこに、手を付いて頭を下げた薪の姿が現れる。
やっと来たかと、客達のどよめく声が上がる中、薪は、すっと立ち上がり、中に足を踏み入れた。

この日の薪は、空色の地に、白いぼかし模様が入った着流しに、白い羽織を身に着けていた。
羽織の背には、鶴の刺繍が施されている。

客達の、踊ってくれという催促に、薪は、座敷の中央へと進み出た。
その立ち姿に、皆が、ほおっ・・と、ため息を付く。

傍らに控えていた男達と目を合わせると、薪はうなずき、閉じた扇子を持った手を振り上げた。
男達の三味線と唄に合わせ、薪は、舞を舞い始める。
その姿に、その場に居た誰もが、動きを止めて見入った。

薪は、身体をくるりと回しながら、羽織をその場に脱ぎ捨てる。
同時に扇子をはらりと開き、客達を見渡した。

舞は続く。

客達も、唄を唄っている男を除く、山の井の者達も。
一言も発することなく、薪に目を奪われていた。

鶴の羽織は、脱ぎ捨てられていたが。
今や、薪自身が、空を舞う鶴だった。

そこに、山の井の薪が居た。
眩いばかりの、冴え冴えとした光を放つ、凛とした姿が、確かにそこにあった。

三味の音と、唄が止まり。
薪の動きも、止まる。
束の間、誰もが口を聞けず、静かな余韻が漂う。

そして、薪が扇子を閉じ、その場に座って客に向かって手を付くと。
途端に、皆が夢から覚めたように息を吐き、拍手が沸き起こった。

「素晴らしい」
「こちらに来て、酌を」
客達が喜んで声を掛けるが、薪は、手を付き頭を下げたまま、動かない。

突然、頭を上げたかと思うと、立ち上がり。
そのまま、部屋を出て行ってしまった。

「おい!」
「どうした・・!」
客達は、とっくりを手にしたまま呆気に取られ、店の者達が、薪に慌てて追いすがる。

だが、薪はいずれも気に留めず。
店先で下駄を掃き、懐から布を取り出して頭に乗せると、外へと出て行った。




何故、出てきたのか。
薪自身にも、それは分からない。

通り過ぎる人々の間を抜け、目的も定まらず、ただ、歩き続ける。
山の井の薪さんじゃないかと、声を掛ける者もあるが。
薪には届かず。
振り返りもせず行き過ぎる様に、人違いだったかと、相手は思う。

薪が気付くと、川にかかる、橋に出ていた。

ここは・・・・・・

あの時も、今と同じ。
ふと、心がさ迷い、店を飛び出した。
そして、橋の真ん中に立ち、川面を見つめていた。

あの日・・じっと見つめていると、川が、おいでおいでと、呼んでいる気がした。
この中に身を投げたら、どうなるだろう。
落ちた瞬間は苦しいかもしれないが、その先に楽になるのだと思う気持ちの方が、強かった。

自分を待ち受けるその場所へと、薪が、飛び込もうとしたその時。

「あ、あの・・!!」
すぐ後ろで、声がした。

薪が、振り返ると。
見たことの無い男が、そこに立っていた。

何故、あの時。
青木は、自分に声を掛けたのだろう。

自分を、山の井の薪とも知らず。
それどころか、布で隠れて、顔も見えないその相手に。
何故。

きっと、青木は。
雨の中、傘も差さずに立つ者を見れば。
それが誰であれ、そうしたのだろう。

青木は、そういう男なのだ。
自分だけに、特別なわけではない・・・。

そう思うと、薪の胸は、苦しさにつかえた。

それでも、いや、だからこそ。
薪は、その男を呼び止めた。
男との出会いを、そこで、終わりにしたくなかった。

どんなやり方でもいい。
青木を・・・繋ぎ止めておきたかったのだ。

薪は、橋の欄干にもたれ、手で顔を覆った。
それから髪をかき上げ、川の流れを見つめた。

川の水が、ひと時もそこで留まっていないように。
人の気持ちも、日々流れていく。

青木も、いつ、自分から離れていくだろうと。
薪は、青木と共に居る時でさえ、思うことがあった。

山の井で、初めて共に過ごした夜から。
青木は、山の井に通い詰めるようになった。

薪を名指ししては。
薪が、他の客の相手で出られないと聞いても、代わりの者に相手をさせるようなこともせず。
薪がやって来るのを、酒を飲みながら、一人、別室でいつまでも待った。

薪の方でも。
青木が来ていると聞くと、相手をしている客をあおって、早々に酔いつぶれさせるか。
はたまた、ふとした隙に、具合が悪くなったと言って座を外し、そのまま戻らずに。

青木の元へと、急ぐのだった。

そんな我が侭が通用するのも、他ならぬ、薪だからであった。
薪の気まぐれには、馴染みの客も慣れていたから、一時は怒っても、次の時には、懲りずにまた薪を呼び。
山の井の者達も、常連の客の相手なら仕方あるまいと、薪の勝手を許し、残された客をなだめた。

それにしても、あの薪が、何ともご執心なことではないかと、そのことが店の者の間で噂になった。
一体、あの男のどこが良いのだろう。
確かに気前も悪くは無いが、もっと払いの良い上客なら、いくらでも居る。

「あんなのんびりとした顔をして、実は、あっちの方が余程いいのかもしれないな・・」
下卑た笑いと共に、そんなことを言う輩も居た。

それは、あながち、見当違いではなかった。
穏やかな物腰からは意外な程に、青木は、情熱を持った男だった。

溢れる情のままに、熱く激しく薪を抱く。
それでいて、薪の頭のてっぺんから足の爪先まで、身体の隅々までも、慈しむように愛するのだった。

薪はこれまで、そんな愛され方をしたことは無かった。
身体を重ねる毎に、薪は、青木に溺れていく自分を感じた。

あれはそう・・ちょうど一年前の夏だったか。

ひと眠りして目覚めた後に、
「そうだ。薪さんに、渡したい物があるんです」
青木は、ごそごそと、脱いで置かれていた着物を探った。

「これ・・その、良かったら持ってて下さい」
布団の中で、薪は、その手に渡された小さな物を見つめた。

「この前、門前町を歩いた時に、買ってきたんです」
「・・・・・・」
「何か、薪さんに贈り物をしたいと思っていたんですが。贈る相手が女だったら、櫛やかんざしを買うところですが、薪さんは使わないし。かと言って、煙草もやらないようだから、煙草入れも必要ないし・・悩んだ末に、これを」

それは、赤い布に包まれ、房の付いた白い紐に結ばれた・・
「健康と厄除けのお守りです。薪さんの身が、この先ずっと、無事であるように」
青木は言い、薪にニッコリと笑いかけた。

薪は、しばらく、そのお守りを見つめていたが。
「・・山の井の薪に、こんな物を贈った奴は、お前が初めてだ」
そう言った。

途端に、青木は焦った表情になる。
「そ・・そうですよね。よりによって薪さんに。こんな安物、贈られたって、何の足しにもなりませんよね」
青木は、手を伸ばし、薪からそのお守りを取り返そうとした。

だが薪は、とっさにくるりとその手をかわし、青木を睨み付けて、言う。
「一度渡されたのだから、これはもう、僕の物だ。勝手に手を出すな」

「・・・・・・」
薪にじっと睨まれて、束の間、青木は目を見開いていたが。
やがて、みるみる笑顔を見せる。

「・・じゃあ、受け取ってくれるんですね!」
「ふん・・」
薪は、気の無さそうな顔で、青木に背を向ける。
そして、肩越しに、ちらりと目をやると、実に嬉しそうな青木の顔が見えたのだった。

そう、あの時の、自分の言葉は嘘ではない。
あんな物を・・自分の身を案じる、そういった物を贈られたのは、初めてのことだった。

薪は思う。
もし、青木との出会いが、まだ青木が独り身の頃だったら、果たしてどうなっていたのだろうかと。
あるいは、色子と客としてではなく・・もし・・・

そこまで思って、薪は、自分が可笑しくなる。
全く、何を考えているのだろうかと。

青木が独り者だった頃に出会ったとしても、いずれにせよ、青木は女房を迎え、自分とは、いつかは別れていただろう。
それに、元々、青木は、男を買うような人間では無かったのだ。
自分が色子ではなかったら、こんな深い仲になることも無く、単なる顔を見知った者同士で終わっていたかもしれない。

・・いっそ、その方が良かったか。

深みにはまらずに生きていく方が、ずっと良かった。
青木だって、自分とこんなことにならない方が、遥かに幸せだったのではないか・・・?

考えても仕方のないことだ。
もう・・全ては終わったのだから。

青木は、あの夜以来、顔を見せない。

青木も目が覚め、分かったのだろう。
自分の行くべき道は、どこにあるか。
共に歩むべき人間は、誰か。

もう二度と会わない。
あの顔を・・見ることは無い。

薪は、欄干にもたれたまま、目を伏せ、うつむいた。
頭に乗せていた布が、はらりと・・足元に落ちた。

薪の背後で、誰かが立ち止まり、その布を拾う。
そして。

「薪。こんなところで、何をしている?」

聞き覚えのある声と共に、肩を叩く者があった。






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コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○2/22に鍵拍手コメント下さったAさま

コメントありがとうございます。

そうですね・・薪さんの舞い姿を見たら、誰もがうっとり見惚れてしまうと思います(*^^*)

青木にしては?ですか。
個人的には、青木は、手が早い男だと思います(笑)
そして、薪さんが、青木を繋ぎ止めておこうと、本気を出しましたからね。
薪さんがその気になりさえすれば、青木の一人や二人(笑)あっという間に落ちると思います。

薪さんの幸せとは何か・・私も書きながら考えてしまいます。

楽しみとのお言葉、励みになります。
どうもありがとうございました。

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