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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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第九話:縁側



山の井を、二度目に訪れた時。
今度は、最初から客として、青木は、薪を尋ねた。

薪が、他の客の相手をしていると聞いた時。
そうだ・・薪にとって、相手は自分だけではないのだと。
改めて思い知った。

当然のことである筈なのに。
青木の心身は焼け付くように燃え、一人酒を飲むことで、その熱を冷ました。

後で思えば、半時も掛かっていなかったのだが。
薪を待つその時間が、青木には、気が遠くなる程、長い時間に感じられた。

やがて、ふすまが、音も無く開き。
青木が顔を上げると、そこに、薪が立っていた。
途端に胸がいっぱいになり、青木は、声も出なかった。

「・・・・・・」
薪も、黙ったまま、中に足を踏み入れる。

「あ・・」
青木は、やっとの思いで口を開き。
「どうですか? 薪さんも一杯・・」
座ったまま、さかずきを手にすると、薪に差し出し・・・

「!!」
青木は、目を見開いた。
薪が、青木の胸に飛び込んでいた。

「薪・・さん」
薪が腕の中に居て、背をギュッと掴まれて・・青木は、夢を見ているようだった。

待っていた時間の長さも、焼け付く思いも、一瞬にして、全てが消え。
柔らかな髪から立ち昇る、薪の香しさに、青木は、目をつぶった。

回を重ねる毎に。
青木は、薪に溺れていった。

二人の間に、言葉は要らなかった。
薪が何を考え、今、何を思っているのか・・青木には、分からなかった。

だが、薪と一つになる、それで全てが、満たされた。
身体を重ね合い、絡め合った指と指から、互いの気持ちが確かに、伝わっていると思えた。

今思えば・・・
それは、自分の一方的な思い込みだったのだろうか。
そう、青木は思う。

自分は、薪のことを、何も知らない。
その時、目の前に薪が居る・・ただ、それだけで充分だった。

この日、青木は土方の仕事が休みで、家の畑をいじっていた。
ひと息付いて、縁側で茶を飲む。

お雪と太吉は、隣りの家に、味噌を借りに行くと出て行ったままだ。
お雪はそのまま隣りの女房とおしゃべりに興じているのか、時折、女達の笑い声が聞こえてくる。

薪は・・声を立てて笑うことは無かった。
いつも、静かな表情で。
あるいは、こちらを睨み付けるのが常だった。

だから、時折その顔に浮かぶ微笑みが見られると、青木は、嬉しくてならなかった。
まるで天女のようなその笑みに、魅せられた・・・。

・・・昨年の秋のこと。

大旦那と呼ばれた青木の父親が、亡くなった。
仕事の多くは、青木が既に引き継いではいたが。
先代も、完全に隠居をしていたわけではなかったから、しばらくは、先代のやっていたことを調べ直し、引き継ぐことに追われた。

寺とのやりとり、取引先との話し合い等、やることは、沢山あった。
そんな、落ち着かない日々の最中。

信頼していた手代が・・店の金を持って、姿を消した。

金が無くなったこと自体も、大きな痛手だったが。
ずっと大旦那に仕え、他の使用人達からの信頼も厚かった、その男の思いがけない行動に、店の者達が動揺した。
これでは給金がもらえないと、早々に辞める者もあった。
青木が引き継いだ途端のこの不始末に、やはり先代でなければ信用出来ないと、取引を辞める店もあった。

一度に襲った出来事に、青木は、心身が消耗していった。

そんな中でも、しばらくは給金を受け取らなくてもいい、一緒にやり直しましょうと言う使用人も居た。
これまでのよしみで、取引を続けようと言ってくれたところもあった。

お雪が言っていたように、青木が本腰を入れて、立て直そうと思えば、それは、叶ったのかもしれない。
だが、青木は・・・

「もう、来るな」
薪は言った。

「こんなところに、来るどころではないだろう。二度と顔を見せるな」

そう言われても、青木は、薪のもとに通い続けた。
金は底を付き、周囲の人々は、離れて行った。
店も、家も無くなり。

残ったのは、お雪と太吉だけだった。

「・・・・・・」
青木は、土瓶から、もう一杯茶を注いで、ふう・・と、ため息を付いた。

こんな自分に、何故、お雪は付いてきてくれたのだろう。
お雪には、実家に帰るという手もあったのだが。

お雪の実家は、山を越えた向こうの村。
田舎ではあるが、お雪の家は地主で、立派な家を構えていた。
青木が身上をはたいた時は、帰ってこないかという誘いもあったことを、青木は知っている。

だがそれは、お雪と太吉だけでという条件だった。
お雪の親にしてみれば、花町に通って娘に苦労を掛けた男など、家に一歩も入れたくないというのは、当然のことであった。

「この子を、父無し子にするわけにはいきませんから」
そう、お雪は言っていた。
一度、太吉の父親を亡くしたお雪にとって、それは二度と、耐え難いことなのだろう。

こんな自分でも、お雪にとっては夫であり、太吉にとっては、父親なのだ。
自分が・・情けなくなってくる。

青木はもう、山の井に足を運んではいない。
何度行っても、店先で追い返され、薪が顔を見せることは、無かった。
薪にしてみれば、客でもない人間に、用が無いのは、当たり前だった。

性根を入れ替えて、今度こそ。
お雪と太吉と親子三人で、生きて行くのだ。

青木は、そう決心して、ひたすら、仕事に励んだ。
最初は戸惑うことばかりだった力仕事にも、今では、すっかり慣れた。
その真面目な仕事ぶりが親方の目に留まり、もっと別の仕事もやってみないかと、声を掛けてももらえた。

懸命に働いて、お雪と太吉に、まともな暮らしをさせるのだと。
青木は、自分に言い聞かせた。




お雪が、隣りの家から外に出ると、誰かが、小声で呼び止めた。

「こんなところに、何で居るの? 跡取りのあなたが、家を空けちゃ駄目じゃないの」
相手の顔を見るなり、小言が出た。
赤ん坊の頃から面倒を見ていたせいか、弟には、ついつい説教めいたことを言ってしまう。

「・・・・・・」
相手は目を見張り、それから、じっとお雪を見つめて、言った。
「姉さんこそ。そんななりをして・・暮らし向きは、いいとは言えないようだね」

弟の言葉に、お雪は、自分の継ぎの当たった着物を見下ろし、顔を赤くさせた。
それから、両腕を組んで横を向き、言う。
「何しに来たの?」
「様子を見に来たんだ。・・太吉は?」
「遊びに出掛けてるわ」

さばさばとした口調で話すお雪を見て、弟は、言った。
「なあ、村に戻る気は無いのか? そりゃあ、縁組が決まった時は、いい家にもらわれたと、皆が喜んだ。だが・・今となってはこの始末だ。村に戻れば、少なくとも今よりはマシな暮らしが出来るだろう。それとも、戻りたくても、あの男が離縁させてくれないのか?」
「前にも言ったけど、あの人と暮らすことを、私が選んだの。放っておいてちょうだい」

お雪を見て、弟は、束の間じっと黙っていたが。
「・・どうしても離縁する気が無いのなら、親子三人、一緒に村に戻ったらいいと、親父は言ってる」
その言葉に、お雪は目を見張った。
「え・・?」

「あの時は、親父もお袋も怒っていたから。あの男を、家に上げる気は無かった。でも・・姉さんがこんな苦労をする位なら、一緒に戻ってきたらいいと言い出したんだ。屋敷には離れがあるから、そこを使えばいい」
「・・・・・・」
雪子は、ほんの少しだけ、考える仕草を見せた。
だが、顔を上げ、きっぱりと言った。
「いいえ」

「あの人は、心を入れ替えて、やり直そうとしているの。だから、村には戻らないわ」
「太吉のことを思えば・・」
「太吉だって、都会っ子として育ったのよ。友達も居るし。今更田舎に移り住んだって、退屈で仕方が無いでしょうよ。私だってそう。ここでの暮らしが、性に合ってるの」

お雪の言葉に、弟はため息を付き・・やがて、言った。
「分かったよ」
それから、懐に手を入れながら言う。
「そうだ、これ、少しだけど・・・」

手に金を握らされて、お雪はそれを返そうとする。
「いらないわ」
「太吉の為だ」
弟の言葉に、お雪は、動きを止める。

「太吉に・・何か美味いもんでも食べさせてやれよ」
お雪は、手の中の金を、くっと握り締めた。

「じゃあ。身体に気を付けて」
弟は背を向け、去っていく。
お雪は、少しの間、その姿を見送ると、金を懐に入れ、家の中に入った。

夫が、こちらに背を向けて、縁側に座っていた。






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コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○2/25に鍵拍手コメント下さったAさま

コメントありがとうございます。

相手のことを何も知らない。
でも、目の前に居ればそれでいい。
それは、勝手な面もあるかもしれませんが、究極の愛の形の一つだとも思います。
相手が何を考えているか、何を抱えているか分からないということは、相手が何を考えていても、何を抱えていても、全てを愛しているということですから。

すっぱり・・諦めるつもりなのかもしれません。

残り一話、明日の夜にUPする予定でおります。
ご満足いただけるかどうかはわかりませんが(><;)愛を込めて、書き上げたいと思います。

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