カウンター


プロフィール

かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

リンクは嬉しいので、ご自由にどうぞ♪


当ブログ拍手頁

最新の公開拍手コメのレスはこちら それ以前の公開拍手コメ&レスは、各記事の拍手ボタンを再度押していただければ読めます 鍵拍手コメにつきましては、拍手をいただいた記事下コメント欄にレスを書いております

所属してます♪


月別アーカイブ


最新記事


最新コメント


検索フォーム


 
第十話:夜の庭



「太吉は?」
青木が、振り返って聞く。

「お隣りの与太坊と、遊びに出掛けてるわ」
お雪は答え、着物にたすきを掛けると、土間から上に上がり、灯りを灯した。
そこに、元気な足音が聞こえた。

「ただいま! ねえ、母ちゃん、これ、もらったよ!」
家に入るなり、太吉は叫ぶ。
その手に、大きな袋を抱えていた。

「なあに?」
お雪は笑顔で、太吉から袋を受け取る。
包みを開くと、中から出てきたのは、日の出屋のカステラだった。
お雪は、目を丸くした。

「こんな上等のお菓子、誰にもらったの?」
それから、答えた太吉の言葉に、顔色を変えた。

太吉は言ったのだ。
「山の井の、鬼の兄さん」

「え?・・」
縁側に座っていた青木が、腰を上げて、太吉の傍に歩み寄る。

「山の井の・・あの兄さんが、これを買ってくれたのか?・・本当に?」
「うん。あ、お金を出したのは、知らないおじさんだけど」
「どういうことだ?」

太吉が、隣りの与太郎と表通りで遊んでいると、薪と、知らない男が通り掛かり、その男が、太吉に声を掛けた。
「お菓子を買ってやるから、おいで」
太吉は、いらないと断ったが、男は、太吉を抱き上げて、日の出屋へと連れて行った。

男は財布から金を出し、カステラを買って太吉に持たせると、後ろに居た薪を指差して、言った。
「いいか? これは、山の井の兄さんがくれたんだ。あの兄さんは、鬼じゃないぞ? 分かったな」
最後は、太吉の頭を撫でた。

「余計なことを・・」
薪がつぶやいた声は、太吉の耳に、届かなかった。

「そう・・か」
太吉の話を聞き、青木は、それだけつぶやいた。

その時である。

誰かが、青木と太吉の間に置かれた包みを取り上げた。
二人が、声も出せずにいる間に、その包みは、庭へと放り投げられた。
包みが破れ、菓子が転がり出て、畑の泥の中へと・・・沈んだ。

それは、あっという間の出来事で・・・。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

誰も、言葉を発することが出来なかった。
太吉は、しばらくの間、何事が起こったのか理解出来ず。
青木は、ただ茫然と、菓子を投げたその人を見つめていた。

そして、お雪は。
庭に向かって立ち、はあはあと、大きく息をしていた。
やがて・・菓子を投げたその手を降ろし、そのまま、ずるりと床に座り込んだ。

その目には、涙が浮かんでいた。

その時。
青木は、分かってしまった。
お雪が、これまで、どんな思いでいたのかを。
自分が・・どんな思いをさせていたのかを。

身上をはたいた自分に、健気に付いてきたお雪。
太吉を育て、家の中を切り盛りし、内職に精を出し。
こんな亭主のことも励まし、明るく振る舞ってきた。

そんなお雪の胸に。
どんな思いが、渦巻いていたのかを・・・。

「うっ・・くうう・・・っ」
今やお雪は、声を上げて、泣いていた。
手で顔を覆い。
両肩を震わせて。

「お雪・・・」
青木は、お雪の背に近付き、その肩に手を乗せようとした。

悪かった。
そんな思いをさせて、悪かった。
これからはもう、こんな辛い思いはさせない。

そう、言いたかった。
だが・・・。

分かってしまったのは、お雪の思いだけじゃない。
自分の思いまでも・・・・・・。

お雪の肩に伸ばした手が、触れる前に、止まった。
青木は、その手を引き。
じっとお雪を見つめると、その前に座った。

「お雪」
青木は、言った。

「お雪。オレと、別れてくれ」





「・・・・・・」
泣き声が止み、お雪は、顔を上げた。

涙に濡れたその顔を見つめ、それから青木は、お雪の前に手を付き、頭を下げる。
「本当にすまない。オレと別れてくれ、お雪」
「・・どういうこと?」
お雪は、目を見開いたまま、青木を見つめる。

「お前は本当に、いい女房だ。だからこそ・・オレと一緒に居ちゃ、いけないんだ」
青木が顔を上げると、青ざめ、怒りに震える、お雪の顔があった。

「私のことが・・そんなに邪魔なの? あの男が、そんなに忘れられないの? 私と別れて、よりが戻るとでも思っているの?」
「そうじゃない!・・そうじゃないんだ。そんなことは関係ない。これは、オレ自身の問題なんだ」
「オレ自身・・?」
お雪は、青木の言葉を繰り返した。
顔が、更に青ざめる。

「あなた自身の、あなた一人の問題だとでも言うの? じゃあ、私は一体何? 太吉は? 親子三人で、力を合わせて乗り越えていくことじゃないの? なのにあなたは、そんな努力をすることさえ・・!」
怒りのあまり、最後は言葉が続かなかった。

「すまない。全てはオレが悪いんだ。オレは・・お前を・・お前達を守って生きていくことは出来ない。オレでは駄目なんだ。お雪・・オレは、お前にふさわしい男ではなかったんだ」
「・・・・・・」
お雪は、わなわなと震えていた。

そこに、そっと近寄る者があった。
「母ちゃん・・」
遠慮がちに、太吉がお雪の着物を掴む。
菓子を放り、父親と言い争う、いつもと違う母の様子を見て、怖くなったのだ。

「母ちゃん・・お菓子をもらったのが悪かったの? だったら、ごめんなさい。もう二度とそんなことしないから・・」
「・・・・・・」
お雪は表情を緩め、太吉を腕に抱き締めた。
「お前のせいじゃないの。ごめんね」
ギュッとしがみ付く太吉の背中を、お雪は撫でた。

子供の背を撫でながら、お雪の表情は、徐々に、怒りから悲しみへと変わる。
「あなたは、どうして・・・」
お雪は、目を伏せる。

「どうして、嘘を付いてくれなかったの?」
青木は、目を瞬いて、お雪の顔を見つめる。
お雪も、目を上げて、青木の顔を見上げた。

「この前、あなたは嘘を付いた。私には分かった。・・でも、それで良かった。ずっと、嘘を付き続けてほしかった。心の内の真がなんであれ、私と太吉の前では、嘘を付き続けてほしかった。なのに・・・」
「・・・・・・」
青木は、何も言えなかった。

「あなたが、嘘を付ける人であったなら。このまま・・一緒に暮らすことも出来たのに」
最後の言葉には、諦めの声がこもっていた。

「すまない。・・すまない」
青木は、その言葉を繰り返した。
他には、何も出てこなかった。

お雪はもう、泣いてはいなかった。
ただ・・静かに青木を見つめていた。

太吉が、お雪から身体を離し、母親の顔を見上げる。
その太吉に正面を向かせ、お雪は、太吉の顔を見て、言う。

「太吉。よく聞いて。父ちゃんと母ちゃんは、これから離れて暮らすことになったの。母ちゃんはこの家を出るけど、お前は、母ちゃんと一緒でいい?」
「・・・・・・」
太吉は、母親の顔を見て、次いで父親を見、最後にもう一度、母親の顔を見た。
そして、言った。

「うん。母ちゃんと一緒に行く」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
太吉を見つめ、それから互いの顔を見つめて、青木もお雪も、沈黙した。
やがて、お雪は言った。

「出て行きます」
お雪は立ち上がり、身の回りの物をまとめ始めた。
大した荷物も無く、支度はすぐに出来た。

お雪が、畳の上に置かれた財布に気付いた。
「持って行ってくれ。大した額は入ってないが・・里に立つ路銀位にはなるだろう」
青木が、言った。

お雪は、財布をじっと見て、それから、青木を見つめ。
「これを私が持って行けば、あなたの心持ちが、少しは軽くなるのでしょうね」
そう言って、財布には手を出さず、太吉の手を引いて、土間へと降りる。

お雪は、振り返ったが。
青木は、お雪には視線を向けず、座ったまま、どこかを見つめていた。

「・・・・・・」
お雪は、そんな青木を見て、何も言わず。
戸を開け、外へと出て行った。

「もう行くの? お隣りの与太坊に、さよなら言ってってもいいだろう?」
そんな太吉の声と共に、戸が閉まる。
その音に、青木はハッとして顔を上げる。

だが、お雪の姿も太吉の姿も。
もう・・そこには無かった。





青木は、一人。
畳に座り、開いた障子の向こうを、眺めていた。

日はすっかり暮れ。
夜の庭に、家々から漏れる明りが、ぼんやりと映っている。

お雪と太吉は、出て行った。
もう、二人に自分がしてやれることは、何も無い。

そして、薪も・・・・・・。

「知らないおじさんが・・」
太吉の声が、脳裏によみがえる。

当然のことだが、薪には、新しい男が居るのだ。
しかも・・ただ客として薪を求めているだけではなく、薪のことを、気遣う気持ちを持った、男が。

「ふっ・・」
青木の口から、吐息が漏れる。

胸が苦しいのは、嬉しいからなのか、悲しいからなのか。
それすらも、分からない。

青木は、頭を抱えた。
何も分からない。
もう、何も・・・・・・

しばらくして。
青木は、頭を上げた。

ただ一つ、分かっているのは。
自分が、もう、誰にとっても用の無い人間だということだ。
もう・・自分が生きることに、意味も価値も見出せなかった。

青木は、我知らず、微笑んでいた。
解き放たれた、何とも楽しいような気さえ、した。

心残りは、何も無い。
いや・・ただ、一つ。

一つだけ、心残りがあった。






関連記事

コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○2/26に鍵拍手コメント下さったAさま

コメントありがとうございます。

大筋は元ネタに沿っておりますが、そこから発展して見えた光景を書いております。
キャラの性格等は、元と随分違っている部分もありますし。

「秘密」と重なる部分が出てくるのは、やはり、自分の中に「秘密」の原作の世界が基本としてあるかだと思います(^^;)

先程、最終話をUP致しました。
ありがとうございました。

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

■この記事のトラックバックURL

⇒ http://kanon23.blog36.fc2.com/tb.php/847-ad61a9c1

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

■この記事へのトラックバック

 | BLOG TOP |