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かのん

Author:かのん
薪さんと同身長が自慢です

基本、「薪さんと鈴木さんは精神的両想いだった」「薪さんと青木には、心身共に結ばれてほしい」という、偏った視点で書いております
創作も主に、薪さんが「青木と幸せになる未来」と、「鈴木さんと幸せだった過去」で構成されております

コメ、拍手コメ共に、過去記事にも遠慮なく投稿いただけたらと思います
レスは「コメをいただいた翌々日までにお返しする」ことを自分に課しておりますが、諸事情により遅れる場合もございます
でも必ず書かせていただきますので
ご了承下さいませm(_ _)m

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第十一話:橋



山の井の主人が、屯所に呼ばれたのは、朝も早い時間のことだった。
羽織を重ねた芥子色の着物をきちんと着込み、眼鏡を掛けた主人は、入り口を開けた警官に頭を下げながら、中に入った。

「山の井の主、山本賢司と申します」
山本は、小さな身体を、更に低くして、丁寧にお辞儀をした。

「呼び立てしたな。そこに座りたまえ」
詰襟の制服を身に着けた年配の警官は、傍らにあった椅子を指し示した。

山本は、何度も頭を下げながら、勧められた椅子に座る。
大店の主人にしては意外な程の、腰の低い態度だった。

「早速だが、これに、見覚えはあるか?」
目の前に差し出されたのは、血の付いた合口だった。
山本は、眼鏡を押さえ、じっとそれを見つめてから、言った。
「いいえ」

「・・では、これは」
「・・・・・・」
山本は、もう一つの品を、じっくりと眺めた。
それから、警官の顔を見て、言う。

「これは、うちの店の者が、いつも使っていた物です」
「そうか。では、その者は、今どこに」
「・・分かりません」

山本は、小さくため息を付き、そして、言った。
「彼は、夕べから行方知れずになっていて・・」
「夕べから? 店で働いている者が居なくなって、構いはしないのか?」

「彼は・・今までにも、幾度か、ふっと居なくなることがございまして。大抵は、半時もすれば帰って来るんですが。今度もまたそういうことなのだろうと。夕べはお客も多く、彼が居ないことで余計に店は忙しく・・。明け方近くになって、まだ帰ってこないことに気付きまして。店の者達が、探しに出たところでした・・・」

「そして、まだ見つかっていない・・と」
「はい」
山本は、言いながら、うなずいた。

「・・これは、橋の上に落ちていたものを、夜明けに行商の者が通った時に見つけた。どちらも血が付いていたことから、何か事件があったのではないかと、行商人は、夜回りの巡査に預けた。それから、こちらに回ってきた」
警官の話に、山本は、黙ってうなずく。

「早速、周辺の者に話を聞いてみたところ、これは、山の井の薪という者が、外を出歩く時にかぶっていた布ではないかということだった。それで、呼び立てをしたわけだ」
警官は言い、改めて、机の上に乗ったその品を指し示した。

山本も、それを見つめる。
薄桃色の絞り模様が微かに入った、白い布。
その中程に・・・赤黒い染みが、広がっていた。

「薪という者が、店から居なくなる前に、何か変わったところは無かったか?」
「それが・・どうやら、彼は、誰かに呼び出しを受けたらしいのです」
山本は、話し始めた。

客が途切れた頃合いになって、薪がまだ帰っていないことに、真っ先に気付いたのは、小池だった。
薪の気まぐれは、今に始まったことではないが、いくら何でも遅過ぎる。
小池は胸騒ぎを覚え、薪を探し始めた。

店の者の一人が、そう言えば、薪が、向かいの小僧と店先で話をしていたようだと言った。
明け方、まだ眠っていたその家の者を叩き起こし、小池は小僧を呼び出した。
小僧は、寝ぼけた様子だったが、小池が問い質すその迫力に押され、懸命に、前夜の出来事を思い出しながら話した。

小僧が通りに出ていた時、知らない男に呼び止められた。
男は、小遣いと引き換えに、言づてを頼みたいと言った。

小僧は、山の井の店先に足を踏み入れた。
「薪さんて人、居る? 伝えたいことがあるんだけど」

ちょうど、客の多かった時刻で、店の者は、次々と小僧の前を行き来していたが。
やがて、薪が顔を出した。
「僕が薪だ。伝えたいこととは、何だ?」
小僧は、直接話すのは初めてだが、薪の顔を見たことはあった。

「知らないおじさんから、頼まれたんだ」
そう言ってから、小僧は、頼まれたその言葉を、伝えた。
すると薪は、分かったと答えたのだと言う。

「薪さんに、何を伝えたんだ?」
小池が詰め寄ると、小僧は言った。

「『橋の上で待ってる』って」
「・・それだけか?」
「うん。あ!・・」

うなずいてから、小僧は、思い出したように付け加えた。
「『これで、最後にするから』って。それも、伝えたよ」

言づてを頼んだ男は、名を名乗らなかったが、古びた着物を身に着けた、背の高い男だったという。
そして薪は、小僧からその言葉を聞いた後、こつ然と姿を消した・・・・・・。

「・・なる程」
警官は、うめくようにつぶやいた。

「それは、こちらで得た話と一致するな。夜中に橋を通りかかった者が、そこで、薪と・・それに青木という男が、橋の上に居たのを見たと言っている」
「・・・・・・」
山本は、黙って聞いていた。

「二人は何か・・言い争っている様子だったそうだ。だが、そこを通った者は、そのまま行き過ぎて、後は見ていないと言う」
警官は、腕を組み、話し続ける。

「青木という男は、元は布団屋を営んでいて、そちらの常連だったそうだな。そして、自分の店が潰れてからも、頻繁に山の井を訪れていた。更に、その青木の家を調べたところ、家は、もぬけの空だった。隣りの住人の話によれば、昨日の夕方、女房と子供は、家を出て行ったという話だ」

「!・・・」
山本は、驚いた表情で、顔を上げる。

「子供を連れて、離縁して里に戻ると、そう話していたそうだ。そしてその夜、青木と思われる男が、小僧を使い、薪を呼び出した。薪という者は、金が無くなってからも執拗に付きまとい続けるような男の呼び出しを受けて、警戒もせず何故出て行ったのかは分からんが・・。おそらく、これが最後と言われたことで、もう一度だけ会えば、相手も納得して諦めると思ったのかもしれんな」

警官は、話しながら、自分の言葉にうなずいていた。

「そして・・二人の姿は消え、橋の上には、血の付いた合口と布が残されていた」
警官は、山本に向かって言った。

「何が起こったかは、大体想像が付くというものだろう」

「・・・・・・」
山本は、机の上の品を見ながら、じっと黙っていた。

そんな山本の姿を見て、警官は言った。
「これで、こちらの調べは終わりだ。これは、証拠の品として預かっておく。ご苦労だった。帰っていいぞ」

山本は椅子から立ち上がり、頭を下げて、警官に背を向けた。
数歩行ったところで、後ろから、警官の声が聞こえた。

「薪という男は、山の井の看板だったそうじゃないか。惜しいことをしたな。店では大層な痛手だろう」
「・・・・・・」
山本は振り返る。
その顔に、警官は目を見張る。

ずっと腰の低い様子で話を聞いていた山本が、その小さな身体で、まるで怒りを発しているかのように、警官を睨み付けていたからだ。

「!・・・・・・」
警官が、言葉を失っていると。
山本は、黙ったまま、もう一度深くお辞儀をして、それから、部屋を出て行った。

町では、瞬く間に噂が広がった。
青木が薪に無理心中を図り、合口で切り付けた挙句、橋の上から共に身を投げたのだと。

なんて不憫なことだと、人々は、口々に言い合ったのだった。





「・・だが、本当にそうだろうか」

鈴木は、言った。
場所は、山の井の店先。
時は、まだ日の高い時分。

店が開く前、他の者達がまだ休んでいるこの時間。
番頭の宇野は、一人、土間を上がった店の床の上に正座をし、机の上で、大福帳を広げていた。

そこに鈴木が現れて、傍らに腰を掛けた。
そして、きせるを取り出し、煙草を吸いながら、宇野を相手に話をしていたのだ。

「皆、ああ言っているが。血の付いた合口と布が落ちていたからと言って、そうだとは限らないだろう・・?」
鈴木は、きせるを手に、前を向いたまま、半分独り言のように、言った。

その言葉に、宇野は、筆を持っていた手を止め、言った。
「少なくとも、土佐衛門が上がったって話は、まだ聞いていませんね」

「!・・・」
鈴木は、目を丸くして、宇野を振り返る。
だが宇野は、表情を変えぬまま、手元の仕事に戻っていた。

鈴木は、再び煙草を吸い込み、吐き出して、言った。
「なあ・・お前達、店の者達は、気付いてたんじゃないのか? 薪は、ずっと・・・・・・」
「・・・・・・」
鈴木の言葉の続きを待ち、宇野は、顔を上げる。
だが、鈴木は、その先は言わなかった。

「なあ、例えば・・・」
鈴木は、開いた入り口の先、通りの向こうの空を見上げた。





青木からの言づてを聞き、薪は、店を出た。
もう二度と会わないと決意を固めていたのに、何故、飛び出したのか。
これで最後という言葉に、行かずにはいられなかったのか。

いつものように、頭に布をかぶり、橋へと急ぐ。
名を聞かなくても、そこで待っている人が誰かは・・・分かっていた。

そこに、男が立っていた。
川面を見つめていた男が、ゆっくりと振り返る。

「薪さん。・・来てくれたんですね」
青木は、ニッコリと笑う。

「・・・・・・」
薪は、青木を見つめている。

「来てくれて嬉しいです。半ば、諦めていました。でも・・もう一度、最後にもう一度だけ、薪さんに会いたくて」
「最後・・・」
薪は、その言葉を繰り返す。

「最後。・・そうか。女房とやっていく決意を固めたんだな。それでいい。それが、お前のあるべき道だ」
「・・・・・・」
青木は、何も言わない。
ただ、微笑みを浮かべて、薪を見つめていた。

「じゃあ、これで」
青木は、薪の脇をすり抜け、そこから去って行く。
その瞬間・・・

「待て」
薪が、呼び止めた。
青木が、足を止める。

それはまるで、初めて会った時のように・・・。

「待て。お前・・今、懐を押さえたろう。何かそこに、隠し持っているんじゃないか?」
言うと同時に、薪は青木に駆け寄った。
「!!」
素早く懐を探られ、青木は薪を引き離そうとする。

橋の向こう側を、誰かが通り過ぎて行ったが、二人はそのことに気付かなかった。

「くっ・・!」
「!!・・」

カターン・・・
合口が音を立てて、橋の上に落ちた。

もみ合いになっている内に、その合口が、青木の手に傷を付けていた。
青木の手から、みるみる血が溢れる。

薪は、とっさに、頭に乗せていた布を取り、青木の手にかぶせ、血止めをしようとした。
布に、血が沁み込み、広がっていく・・・。

「・・・・・・」
そこで、二人は顔を上げる。
ゆっくりと。

互いに血にまみれた手を、しっかりと掴み直す。
そして・・・・・・

「・・!!」

二人は、抱き締め合っていた。
両の腕を、互いの背に回して。
もう、離れないと言うかのごとく。

強く、強く・・・・・・・・・。

橋の上。
夜の闇の中。

血に染まった白い布が、はらりと・・・風に飛んだ。





「・・そして。二人は、あの世ではなく、この世で共に生きる道を、選んだのかもしれないじゃないか・・・」

「・・・・・・」
鈴木の言葉を、宇野は黙って聞いていた。
鈴木も、もうそれ以上、何も言わなかった。

・・その日から、薪の面影は、鈴木の胸から、生涯消えることは、無かった。

だが、世の中の者達にとっては。
しばらくの間こそ、薪のことは、大きな噂の種だったが。
やがて世代が替わるにつれ、山の井という店も、そこに居た薪という男のことも。
本当にあったことだったのか、おぼろげな伝説となっていったのである。

だが、鈴木は。
そんな、先のことは知らない。

今は、ただ。
黙って空を見上げたまま、きせるを手に、ふうっ・・と、息を吐いただけである。

その、上等の煙草の煙の匂いを嗅ぎながら。
宇野は。

薪をひいきにしていた客達の足が、段々に遠のいている中。
この男も、きっと。
もう、明日からは、この山の井に来なくなるに違いない。

そんなことを、思っていた。





夢うつつ 終






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コメント

■ 鍵拍手コメ下さったAさま

○2/27に鍵拍手コメント下さったAさま

こんにちは。
コメントありがとうございます。

そうですね・・当時のことですから、これで、警察の調べは終わりになるのでしょうね。
この世界の「山の井」の場合は、どうか分かりませんが、普通なら、遊女等が、身受けも出来ないような男性と恋に落ちると、逃げ切ることも出来ず、結局は、心中位しか道は無かったとか・・。
だから、真実はどうあれ、心中したと思われていた方が、余計な捜索もされずに済むと思います。

お読みになる方がどう思われるか、不安な部分もありつつ、書いて参りましたが。
肯定的に受け止めていただいたようで、とても安堵しましたし、嬉しく思いました。

そうですね、取り残されてしまった鈴木さんですが。
鈴木さんは、誰より薪さんの幸せを願っていることと思います。

「悲劇のようで幸せなラスト」とのお言葉が胸に沁みて、泣きそうになりました(;;)

本当にありがとうございましたm(_ _)m

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