※清水先生の作品とは、関係ございません。
オリジナルストーリー
「初日(はつひ)」
「ああ・・今年が終わる・・・!」
時計を見て、悲痛とも言える叫び声を挙げたのは、曽我だった。
針が12時を指す瞬間を見て、座ったまま、ガックリと肩を落とす。
「そう気を落とすな。また次があるさ」
今井が、書類を手に曽我の後ろを通り過ぎながら、曽我の肩に手を置いていった。
「今井さんなら、そうなんでしょうけど・・・」
室長室に向かう背中を見送りながら、曽我はつぶやく。
職業柄、全く出会いが無いと日頃から嘆く曽我に、友人のありがたい申し出があったのは、数日前のこと。
友人は、大晦日の夜に、知り合いの女の子達と待ち合わせて初詣でに行く予定があるから、お前も来るかと言ってくれたのだ。
期待に胸膨らませ、その日を待ち続けていた曽我は、まさか緊急の捜査の為に職場に招集されることになるとは、思いも寄らなかった。
「初詣でに行って、それから海まで行って初日の出を拝む予定だったのに・・・」
うなだれる曽我を、前に座っていた小池が振り返る。
「予定っつーのは、潰れる為にあんだよな」
「・・最初から予定も無い奴に言われる筋合いは無いなあ」
「なんだと!」
「おい!せっかく事件が解決したんだ。それぞれのデータをまとめて、さっさと薪さんに提出して来い!」
岡部の声が飛び、曽我と小池は我に返る。
「はい!」
「はい!」
「・・・宇野さんは間に合いませんでしたね」
手にした書類を揃えながら、青木がつぶやいた。
「え? 実家は東京じゃなかったでしたっけ?」
休暇中だった第九メンバーが集合し、一人、里帰りしている宇野が、悪天候のせいですぐには来られないと聞いた時、小池は、怪訝な顔をした。
「そうだ。宇野の実家は、伊豆諸島の三倉島。れっきとした東京都だ」
「えええええっ!?」
岡部の返答に、周囲がどよめいた。
「人口300人の島で、宇野は分校が出来て以来の秀才と言われていたそうだ」
今井が言って、肩をすくめた。
「今日は強風の為、船もヘリも出ないそうだ。天候が回復次第、合流することになる」
岡部が、最後にそう付け加えた。
結局、宇野が到着する前に捜査には目途が立ち、宇野は、来なくても大丈夫だと連絡を受けることとなった。
まとめられたデータを手に、薪は関係各所に報告する為に、第九を後にする。
「正式な報告会議は年明けになる。皆、ゆっくり休め」
岡部の言葉を受け、メンバー達は皆、それぞれに帰ることになった。
「お疲れさん」
「お疲れ様でした」
「もうこれで、休暇期間中は呼び出されないで済むのかなあ。ああ、初日の出・・・」
「安心しろ。もう二度と美味い話は来ねーよ」
今年最後の仕事を終えて、皆、第九を出て行く。
「青木」
岡部が、声を掛ける。
「お前、すぐ帰るのか?」
「いえ」
青木は、岡部を見て言う。
「薪さんが戻るのを待って、送って行きます」
「そうか。頼んだぞ」
岡部は念を押すように青木を見上げ、青木も、心得たように頷いた。
庁舎を出て、岡部は一度振り返る。
そしてつぶやく。
「一緒に帰ります・・だろ」
共に住んでいながら、職場ではあくまで「上司を送る部下」という立場で物を言う、青木。
部下のささやかな気遣いに、岡部はふっ・・と笑み、庁舎を後にした。
「あ!お疲れ様でした!薪さん」
手にしたコートを羽織りながら、こちらに歩いてきた薪に向かい、青木は声を上げた。
庁舎を出たところで、青木は言う。
「一緒に帰りましょう!」
「・・・・・・」
薪は、一瞬歩みを止め、青木を見上げる。
それからすぐに再び歩き出し、前を見たまま、言った。
「ここは職場だぞ。第九の人間は同居していることを知っているとは言え、少しは考えて物を言え」
「はい。職場では考えます。でも、職場を離れれば別です」
「・・一歩出ただけだぞ」
最後の薪の言葉が聞こえているのかどうか、青木は、満面の笑みで薪の隣りを歩いている。
薪ももう何も言わず、二人で庁舎の裏手に停めてある車に向かって歩いて行った。
空が、白々と明け始めている。
「そう言えば、これから見える太陽が、初日の出になるんですよね。曽我さん、女の子と見に行く筈だったって悔しがってましたけど。今日は曇ってて、これじゃお日様は見えないですね」
「日の出は日の出だ。昨日までの物と、今日の物が、どう違うと言うんだ」
薪の言葉に、青木は隣りを見やる。
薪は、表情を変えずに歩いている。
「そうですね。でも・・・」
青木は空を見上げ。
「あ・・!」
声を上げた。
薪も空を見上げたが、空はどんよりと曇に覆われているだけだ。
「今・・ほんの一瞬、日が差したように見えたんです。あの雲の隙間から・・・」
空に向かって指を差し、懸命に薪に訴える青木。
「見えたと思ったんですけど。初日の出・・・薪さんと見られると思ったのに」
青木は言い。
でも、空は曇ったまま。
「・・・やっぱり、見えませんね」
青木は言って、薪を見下ろした、その時。
「え・・・?」
青木は一瞬、目の前に、柔らかな光が広がったような、気がした。
青木が幾度か瞬きをしている間に、そこにあった筈の薪の笑顔は、跡形も無く消え失せ。
青木は、さっきの日差しと同じように、自分の見間違いだったかと、思い巡らせた。
「青木」
薪は車の脇に立ち、早くしろと言うようにその名を呼ぶ。
「あ・・はい!」
青木は慌てて車の助手席のドアを開け、薪が乗り込むと、自分も運転席に回る。
走り出す車の背後で、微かに雲が切れて日差しが垣間見えていることに、薪も青木も、気付かなかった。
初日(はつひ) 終
■ 鍵拍手コメ下さったNさま
今年一番乗りのコメント、ありがとうございます☆
お返事が遅くなりまして、申し訳ございませんm(_ _)m
あああああ…最初にコメント拝見した時、私の方こそ涙が出ました(;▽;)
当ブログは基本「あおまきすと」のブログなので、元旦はやはり青薪、そして二人を取り巻く第九メンバーという発想しか浮かばなかったのですが、それで喜んでいただけたのでしたら、本当に本当に書いたかいがございました。
私も…私もです。
本当にあの第九メンバーが好きだったのだと、今、改めて思います。
青木を見つめる薪さんの表情は、読んだ方それぞれに想像していただきたかったので、思い描いていただいたようで嬉しいです。
新年最初に、とても嬉しく、心がじんわり温かくなるコメントをいただき、幸せな気持ちになりました(*^^*)
ありがとうございました。
今年もよろしくお願い申し上げます。
かのん | 2013-01-11 23:37 | URL | コメント編集